第95話 イルミネーション

story teller ~四宮太陽~


 ご飯を食べ終えたあと、周辺を散策したり、気になるお店をみたりして過ごし、18時頃になり、イルミネーション会場である植物園に入園する。


 門をくぐると、早速綺麗な光景が目の前に現れる。

 大きな木が1本立ち、その木に様々な色の電飾が光っている。


「わぁ、すごく綺麗」


 俺たちはまだ入ってすぐにも関わらず、その木に釘付けになり、動けない。

 他の来場者の人たちも同じようで、その場に立ち止まって、木を見上げたり、写真を撮ったりしている。


 何分かその木を2人で眺め、そろそろ移動しようと手を繋ぎ歩く。


 木を通り過ぎ、小さめの電飾をゆっくり見ながら歩くと、道が二手に分かれている。

 案内板に従い、左の道を進む。


 前方に池が見え、その中央に小島がある。

 その池にかかる橋を渡り、小島に入ると、池に蓮の形をした電飾がいくつも浮かんでいて、池を彩る。


「すごいね、ネットで調べたのよりずっと綺麗」


「俺もここまでとは思わなかった」


 俺たちはその綺麗さに圧倒され、池を眺める。

 少しすると人が増えてきたので、渡ってきた方とは反対側の橋を渡り、道なりに進む。


 周りの木や植物も綺麗に飾り付けられ、どこを見ても綺麗な光景が目に入るようになっている。

 そのまま進んでいくと、広場に出る。

 広場には動物や有名なキャラクターを象った電飾が一定間隔で並び、子供たちがはしゃいでいる。


 月もこのキャラクター知ってる!など言いながら1個ずつ見ていき、興奮している様子だ。

 ここに来てからずっと笑顔でテンションの上がる彼女を見ていると、来てよかったとほんとに思う。


 園内の端の方、木々に囲まれたベンチがあり、人の多さに疲れた俺たちはそこで休憩することにした。

 周りに人はおらず、2人だけの静かな空間になる。


 月は、俺の腕を抱き寄せもたれかかってくる。

 腕を抱きしめるのが好きなのようで、特に甘えたい時は腕を抱きしめてくるので、その時は俺も腕を自由にする。


「ちょっと疲れちゃったね」


「そうだね。思ってたよりも人が多いね」


 普段出かける時は、あまり人が多い場所には行かないため、思ったよりも疲れてしまう。

 それでも、月が楽しそうなので良かったと思う。


「このまま道なりに進んだら、入口に戻るよね?あの大きい木の前で、一緒に写真撮りたい」


「うん、いいよ。俺も同じ事考えてた」


「ほんと?えへへ、嬉しい」


 月は上目遣いにこちらに笑顔を向けてくれる。

 その笑顔を見ていると、自分の気持ちを抑えられなくなる。


「月、好きだよ」


「私も太陽くんの事好きだよ」


「大好き」


「えへへ、大好き」


 俺たちは周りに人がいないのをいい事に、お互いに気持ちを伝え合う。

 いつもはこんなに言わないが、何度言っても足りない。どんどんと気持ちが溢れてくる。

 これもクリスマスの雰囲気にのまれているせいなのだろうか。


 俺はもしかしたら今ならと思い、少しずつ顔を近づけると、月も目を閉じて俺の次の行動を待っている。

 俺は、そのまま月の唇に自分の唇を重ねる。

 軽く重ねて、1度離れ、今度はさっきより強く。

 月を抱きしめて、そのままの体勢で数秒。


 そして、どちらからでもなく、同時に体を離す。


 尋常じゃないほど、鼓動が早く、嬉しさと緊張、興奮が入り交じった不思議な気分になる。


「太陽くんとキス・・・しちゃった」


 月は俺の方をチラッと見ると、赤くなった顔を隠すためか、俺の胸に顔を押し付けてくる。

 そのまま抱きしめ合う形になり、接触した部分からお互いの鼓動が伝わる。


 すると、俺の胸の中から見上げるように顔を上に向け、月が話しかけてくる。


「あのね、ハンバーグ屋さんで言おうとした事なんだけど・・・」


 そういえばそんな事もあったなと思い出し、月の話に耳を傾ける。


「今日、家に誰もいないんだ・・・」


 俺は一瞬体が固まり、意味を理解すると更に心臓の鼓動が早くなる。

 えっと、つまり、そういう事・・・・・・?


 俺はドキドキしながら、声を絞り出し、月に確認する。


「桜さんと、紅葉さんは?」


「2人ともクリスマスデートだって言って出かけたよ。そのままどこかに泊まってくるんだって。お父さんは嫌がってたけど、お母さんが無理やり連れ出してた。晩御飯も用意しとくから2人で食べなさいって・・・」


 桜さん、それは俺が試されているんですか?それとも。


 俺は緊張しながらそうなんだと返すと、だから見て終わったら私の家で晩御飯食べよ?と言ってくる。

 俺が頷くと、赤くなった顔をまた俺の胸に押し付け、えへへと笑っている。

 可愛い。けどヤバい、緊張してきた。


 俺たちはお互いが落ち着くまでそのまま抱き合っていた。

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