第94話 クリスマスデート

story teller ~夏木光~


「はい、どっちがいい?」


「いえ、そんな助けてもらって飲み物まで・・・申し訳ないですよ」


「もう買っちゃったし、受け取ってくれると嬉しいな」


 名も知らぬ男性は、両手に飲み物を持ち、ワタシにどちらか選べと選択を委ねてくる。

 1度断るが、そんな言われ方をすると受け取るしかない。

 男性が左手に持つミルクティーを受け取り、お礼を言う。


「ありがとうございます」


「どういたしまして。それより大丈夫?落ち着いた?」


 ベンチに座り俯くワタシの前にしゃがみこみ、下から覗き込むように顔色を伺ってくる。

 少し顔をあげると、目が合い、ドキッとしてしまう。

 その男性はワタシよりも少し歳上に見え、すごく整った顔立ちをしている。


 落ち着きましたと言い、ワタシが目を逸らすと、どうしたの?と優しく聞いてくる。


「・・・なんでもないです」


 そう答えると、男性はワタシの隣に座り、飲み物を口に運ぶ。

 お互いになにも話さずに、ただ座るだけ。


「色々ありがとうございました。もう帰りますね」


 沈黙に耐えられなくなり、改めてお礼を伝えてから立ち上がると、その男性は手を掴んでくる。

 突然の事に少し驚き、男性を見つめ、言葉を待つ。


「あっごめん。その、良かったら家まで送るよ?」


「そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ?」


「でも念の為に。ね?」


 男性の提案に、申し訳なさを感じて断るが、正直ありがたい。

 のせいで、内心1人は怖かった。

 誰かと一緒にいた方が安心出来る。


「すみません、じゃあお願いします」


 ワタシの返事を聞いて、じゃあ行こっかと手を差し出してくる。

 あまりにもスマートに手を差し出してきたので、ドキドキしてしまう。

 そのまま手を繋がないのも変かと思い、差し出された手にワタシの手を重ねる。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。俺は九十九朝日つくもあさひ。君の名前も聞いていい?」


 九十九と名乗る男性に、夏木光ですと短く返す。


「光ちゃんって呼んでいい?」


「・・・はい」


 イキナリ下の名前で呼ばれ、なんだかこそばゆい。

 ドキドキしてるのがバレませんようにと思いながら、2人で並んで歩く。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 俺と月はイルミネーションを見に行くため、電車に揺られていた。

 隣に座る月は、楽しそうに小さく鼻歌を歌っている。


「楽しみだね」


「うん!ずっと恋人が出来たら一緒にイルミネーション見たいって思ってたの!太陽くんとイルミネーション見れるのすごく楽しみ!」


 俺が声をかけると、ワクワクが抑えきれない様子で返してくる。

 会った時からずっとニコニコしてて、ほんとに楽しみにしているのが、伝わってくる。

 こんなに楽しみにしてくれて、イルミネーションに誘ったかいがあるってものだ。


 電車を降り、改札を抜けてから、どこかで食事をしようという事になった。

 時間はまだ15時。

 お互いに、お昼を一緒に食べる予定で出てきていたので、お腹が空いている。


「そこのハンバーグ屋さんにいこうよ!太陽くんハンバーグ好きでしょ?」


 俺がハンバーグ好きなのを覚えていてくれて、月は有名ハンバーグ店を提案してくる。

 断る理由もないので、月の手を取り、地図を見ながらお店を目指す。


 お昼時を過ぎていることもあって、スムーズに入ることが出来た。


 席に座り、店員さんが持ってきてくれたメニューを2人で見る。


「これも美味しそうだけど、こっちもいいなー」


 色々な種類のハンバーグがあり、迷っているようだ。


「太陽くんはもう決めた?」


「いくつか迷ってるけど、月は何で迷ってるの?」


「えっと、チーズにしようかたまごにしようかで迷ってて」


 どちらのトッピングも魅力的だ。

 俺も同じもので迷っていたので、トッピングを半分ずつシェアしないかと提案する。


「いいの?ほんとは別の食べたいとかじゃない?」


「うん、俺もチーズとたまごで迷ってたから、そうしてくれるとありがたいよ」


「じゃあそうする!ありがとう!」


 月は笑顔を見せてくれる。

 俺たちは店員さんを呼んでから注文し、料理を待つ。


「太陽くん、太陽くん」


 月はテーブルに身を乗り出して、小声で話しかけてくる。


「どうしたの?」


「んー、やっぱりあとで」


 少し悩んだあと、顔を赤くして、姿勢を元に戻す。

 なんだろう。気になるな。


「今じゃダメなの?」


「・・・うん、後でがいいな」


 どうしても後からがいいらしい。

 俺はわかったと答えて、それ以上追求するのをやめる。


 少しすると、料理が運ばれてきたのでそんな事は忘れて、2人で目の前のハンバーグに夢中になる。


「とっても美味しそう!太陽くん食べよ!」


「うん!いただきます!」


 手を合わせてから箸を取り、ハンバーグを口に運ぶ。

 口の中でじゅわっと肉汁が溢れ、旨みが広がる。

 久しぶりに来たが、やっぱり美味しい。

 月を見ると、とても幸せそうな顔をしている。

 俺はぼーっと眺めてしまい、それに気づいた月は、恥ずかしそうに口元を押さえて、なに?と聞いてくる。


「ごめん、幸せそうに食べてるなと思って」


「もう、恥ずかしいからあんまり見ないで」


 そういうと、月は何かを考える様な素振りを見せ、ハンバーグを一欠片箸で掴み、俺の前に差し出してくる。

 食べろと言うことだろう。

 だが、少ないとはいえ周りにも人がいて、恥ずかしい。


「人いるから、恥ずかしいよ」


「ダメ、シェアするんだから、ちゃんと食べて?」


「シェアってそういう意味じゃ・・・」


「早く食べて?手が疲れてきたから」


 月も顔が赤くなっている。

 きっと恥ずかしいのだろう。

 俺は周りを気にしながら、差し出されたハンバーグを食べる。


「美味しい?」


「うん、美味しいよ、ありがとう」


 チーズも一緒に乗せてくれていたので、味が少し違い、美味しいのだが、恥ずかしさの方が勝るので、あまり味わえなかった。


 月は俺が食べたことで、満足そうに笑っている。

 恥ずかしさを我慢する事で彼女が楽しそうにしてくれるなら、いい事なのかもしれない。

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