第90話 安堵

story teller ~とある男性~


 「山田さ、勝手に接触したよね。確かに情報は渡したけど、勝手に会っていいなんて言ってないよ?」


「す、すみません、俺はただ・・・」


「わかるよ、早く仲直りしたいんでしょ?でもそれはまだだよね?タイミングはちゃんと作るから、我慢してくれないと困るよ」


 この山田って男は使いにくい。

 自分の都合で、自分の欲望のままに動く。

 未来ちゃんも、よくこんな奴使おうと思ったよな。


 俺は未来ちゃんのやり方に少し疑問を抱く。

 俺ならもっとちゃんと出来るのにと。


「はぁ、まぁこれからはちゃんとしてよ。俺が指示するまでは勝手な行動しないでくれる?そうしないと、仲直り出来るものも、出来なくなるからね」


「すみません、わかりました」


 これで次も勝手な行動するようなら、こいつの大事な人を壊してやる。

 俺は春風月さえ、手に入ればいい。

 そしたら、春風月と葛原未来の2人を連れて歩ける。両手に花だ。


 そう思いながら、もう行っていいよと告げると、山田は部屋を出ていく。


 あー、早く動きたい。

 早く春風月が欲しい。


 ******

story teller ~四宮太陽~


 机の上に置いてあるスマホが鳴り、メッセージが入ったことを知らせてくる。

 俺は待ってましたとばかりにスマホを取り、すぐにメッセージアプリを確認する。


('かける' 言われた通り調べてみたけど、葛原に目立った動きはないっぽいね)

('かける' あくまでも僕が調べた限りだからね。葛原も僕に警戒してるのか、僕と葛原の共有の知り合いがこぞって連絡とれないからさ。こっちももう少し調べてみるから、太陽くんも警戒してて)


 俺は、夏木さんの元カレと遭遇したその日のうちに、架流さんに連絡を取り、すぐに調べてもらった。

 しかし、架流さんにも調べるのは限界があるらしい。

 ありがとうございますと返信をしてから、スマホを閉じ、ベッドに倒れ込む。


 やはり、考えすぎなのだろうか。というか考えすぎであって欲しい。

 もう誰も傷ついて欲しくない。


 ______


 朝になり、いつものように月と登校する。

 ここ最近の月は、元気がなかった。

 今度は親友が、葛原の標的になるかもしれないのだから仕方がない。


「昨日、架流さんから返信きてたよ」


「そうなの!なんて来てた?」


 月は俺の言葉に、期待と不安が混ざったような顔で、食い気味に聞いてくる。


「一応調べた限りでは、葛原は関係ないらしい」


 俺がそう答えると、良かったと安堵の表情を見せる。

 架流さんも、葛原と共通の知り合いが減って、調べるのが難しくなっている事は黙ってた方が良いだろうと考え、ここで話を切り上げる。

 やっぱり月は元気があった方がいいからね。


「太陽くん、いつもありがとうね」


 急にお礼を言われて、なんの事だかわからず、少し困惑する。

 なにかしたかな?


「なんかしたっけ?」


 俺は疑問をそのまま口に出し、月の顔を見つめる。


「光のためにすぐ架流さんに連絡してくれたでしょ?」


「俺は連絡しただけで、実際に調べたのは架流さんだから。お礼は架流さんに伝えて」


 この件に関しては、ほんとに何もしてないので、俺は遠慮する。

 この件だけじゃない。星羅の時も、結局は架流さんが色々調べてくれて、最終的に助けたのも架流さんだと思っている。

 葛原と戦うには架流さんがいないと、なにも出来ずに終わっているだろう。


「架流さんにもちゃんと伝えるよ」


 そういうと、月は笑顔になる。

 やっぱりこの子は笑顔の方がいい。この子が笑顔だとこっちまで嬉しくなる。

 月の笑顔は周りに影響を与えるのだろう。

 そろそろ冬休みに入り、クリスマスも来る。

 何事もなく無事に過ごせるといいな。


 そんな事を考えていると、月は俺の腕に抱きついてくる。


「ちょ、ちょっとみんな見てる!」


「今はいいの!太陽くんが色々調べてくれたことも嬉しいし、これからの事考えると楽しみだから!クリスマスにお正月。たくさん楽しいことがあるよ!」


 先程まで元気がなかったのに、今はテンションがあがっているようだ。

 ほんとに可愛い人だと思う。


 俺は少し恥ずかしいが、月がしたいのならいいかと、左腕の自由を奪われたまま登校する。

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