第88話 勉強会

story teller ~秋川堅治~


 12月15日。

 今日は涼の誕生日という事で、涼の家族と一緒にレストランに来ていた。

 オレは初めて涼の家族に会うので緊張していたが、会った瞬間に暖かく迎え入れられた。


「堅治くんも、好きな物頼んでいいからね」


 目の前に座る優しい雰囲気の男性、涼の父親がニコニコした笑顔で言ってくる。

 涼は父親似なのかもしれない。


「ありがとうございます」


 お礼を伝えてから、メニューに目を通すが、どれも美味しそうで迷ってしまう。

 普段なら、涼が食べたいものをいくつか選んで、お互いに1つずつ注文し、2人でシェアしているのだが、さすがに両親の前でそれは出来ない。


「堅治兄ちゃんはどれにするの?」


 オレが頭を悩ませていると、オレと涼の間に座る、涼の弟、涼成すずなりくんがオレの顔を見上げながら聞いてくる。


「まだ決めてないよ。涼成くんは何にするか決まった?」


 オレが質問を返すと、迷ってるんだよねと言ってメニューを指さす。


「このハンバーグとね、カルボナーラってやつで迷ってるの」


「どっちも美味しそうだね」


「うん!どっちも好きだから迷ってる。どっちがいいと思う?」


 それはオレが決めていいものなのだろうか。そう思い、少し困ってしまうが、オレは1つの案を考えつき、涼成くんに提案する。


「じゃあ、兄ちゃんがカルボナーラを頼むから、涼成くんはハンバーグを頼みな、そして2人で半分ずつ食べようか」


「やった!それならどっちも食べれるね!」


 オレの提案を聞くと、無邪気な笑顔を向けてきてくれる。

 かわいいな。オレにも弟がいたらこんな感じなのかな。


「ずるいです。私も堅治くんとシェアしたいです」


 オレと涼成くんのやり取りを見て、涼が少し拗ねている様に言ってくる。

 拗ねているのは可愛いけど、涼の両親の前なので少し焦る。


「えっと、じゃあ涼とも少し分け合おうか?」


「はい!そうしたいです!」


「いつもそうしてるしな。今日は3人で分け合おうか」


 オレの言葉で、涼も笑顔になる。

 やっぱり姉弟なんだな。笑顔が似てる。


「ねぇ、お父さん、2人は仲良しね。いつもシェアしてるらしいですよ」


「仲がいいのはいい事だけど、まさか僕たちの前でイチャイチャするとは思わなかったね」


 涼の両親がヒソヒソと話しているのが聞こえてくる。

 めちゃくちゃ恥ずかしい。


 その後、届いた料理を3人でシェアして食べたのだが、涼があーんを要求してきたりして、人生で1番恥ずかしい食事になった。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 期末試験が数日後に迫り、俺たちは某有名ハンバーガーショップに集まって勉強会をしていた。

 他にも学生が居るかと思っていたが、建物の2階は比較的人が少なく、みんなでまとまって座ることが出来る広めの席を確保することが出来た。


「堅治先生、今回もお願いします」


 冬草さんは堅治に頭を下げてお願いする。

 初めてみんなで勉強会をして以降、冬草さんに勉強を教えるのは堅治の役目になっていた。

 いつもならイチャつく2人も、勉強の時だけは真剣に打ち込むので、少し新鮮な様子を見ることが出来る。


 そんな2人を見習って、俺たちも教科書やノートを開き、自分の勉強を始める。


 黙々と勉強を進め、1時間半ほど経過した頃、隣に座る月が、俺の肩に頭を乗せてくる。


「どうしたの?」


「ちょっと休憩したくて。もたれてもいい?」


 いいよと返し、俺も休憩する事にしてシャーペンを置く。

 前屈みで教科書の問題を解いていたので、背中に疲れを感じ、背もたれにもたれかかる。

 そんな俺たちの様子見て、みんなもそれぞれ休憩に入る。


「なにか食べ物注文しにいくけど、みんなもなにかいる?」


 夏木さんが俺たちに声をかけてくれる。

 各々食べたいものや飲みたいものをお願いし、夏木さんはメモをとって立ち上がる。


「ボクもいくよ。1人じゃ大変でしょ」


 そういうと、善夜も立ち上がり、夏木さんと2人で1階のレジに向かう。


「それにしても、冬草さんの学力凄い上がったよね」


 俺が堅治にそう話しかけると、堅治は嬉しそうに答えてくる。


「涼は元々勉強が出来ないんじゃなくて、勉強方法がわからないって感じなのかもな。教えたらすぐに理解するし、理解すればそこからはどんどん問題を解いていくし。」


「そんな事ないですよ。堅治くんの教え方がいいんです」


 堅治に褒められた冬草さんは、照れているのか少しモジモジしている。

 たぶんどちらの言う事もホントなのだ。

 堅治が勉強を教えるのが上手いのは俺も知っているし、いくら教えるのが上手くても、それを本番で生かせるのは冬草さんの元々のポテンシャルのお陰なのだろう。


 お互いに、褒めては譲りをしている2人を微笑ましいと思いながら、ぼーっとしていると、隣に座る女の子が、テーブルの下で手を繋いでくる。

 俺が月を見ると、目が合い、えへへと小さく笑う。

 俺も手を握り返して、少しだけ2人の世界を作る。


「私が前回よりも順位上げたら褒めてくれる?」


「もちろんだよ。俺も順位上がるように頑張らないと」


「じゃあ太陽くんの順位が上がったら、私が褒めるね」


 俺たちはお互いに約束をして、笑い合う。

 そんな俺たちをよそに、堅治はなにか気になるのか、キョロキョロしている。


「どうかした?」


「なんか、善夜たち遅くないか?」


 堅治は階段の方を見ながら、そう言ってくる。

 言われてみれば、注文しに行ってから時間が経っている。

 店内の人の数を見れば、そんなに混雑しているとも思えない。


「俺が見に行ってみるよ」


「私もいく」


 俺は少し心配になり席を立つと、月も付いてきてくれるようで、俺の後ろに続いている。


 俺たちは階段を降り、レジに向かう。

 すると、レジの前で善夜が頬を押えて倒れ、夏木さんが善夜に寄り添うように床に座り込んでいて、2人の目の前に男が立っていた。

 その男の表情は、怒っているように見える。


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