第86話 kiss?

story teller ~寄宮花江~


「最近、優希くん?とばかり遊んでるんですか?」


 僕の目の前の女の子は、不機嫌そうに僕に聞いてくる。

 目を細めて、一生懸命睨んでるようだが、その行為に慣れていないのか、逆に可愛くなっている。


「うん、あの子可愛いんだよ。まるで弟みたいでさ」


 僕が答えると、そうですかと言って窓の外を眺め始める。

 頬を膨らませて、そっぽ向く姿も可愛い。


「花江ちゃん、もしかしてジェラシーってやつ?」


「違います。バカにしてますよね?」


 あまりにも可愛くて、つい茶化してしまった。

 ごめんごめんと軽く謝り、なんで怒っているのか聞いてみることにした。


「なんで怒ってるの?せっかく休日に遊んでるのに」


「別に怒ってないですよ。わたくしの事はほっといて優希くんを構ってあげてください」


 やっぱり怒ってる。さすがにこれ以上茶化すと怒って帰っちゃいそうなので、ちゃんと対応しなければ。


「ごめんね。もっと花江ちゃんとの時間も作るようにするからさ」


「ほんとですか?」


 僕の言葉に反応して、表情が少し柔らかくなる。

 分かりやすくて可愛いな。

 僕はほんとだよと伝えてから、そういえば花江ちゃんはまだ優希くんに会ったことがないのを思い出した。


「次、優希くんと遊ぶ時花江ちゃんも来る?まだ会ったことないよね?」


「ないですが、星羅ちゃんの彼氏さんですよね?わたくしが行くと迷惑じゃないですか?」


「それなら星羅ちゃんも誘えばいいんだよ」


 さすがに太陽くんの妹と会うのは気が引けるのか、悩んでいるようだ。

 でも、せっかくなら仲良くなって欲しいし、優希くんにも確認してみよう。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 男3名で遊んだ次の日。

 今日は朝から春風さんが遊びに来ていた。

 目的はゲームだが、付き合ってから部屋に2人きりになるのは初めてなので、もしかしたらキス出来るかもとか、色々と考えては勝手に緊張していた。


 そんな俺の気持ちを知らずに、春風さんはモニターとにらめっこして、画面に映る敵を倒すのに必死になっている。


「四宮くん、この敵強いよ。どうやったら倒せるの?」


「その敵はね、この魔法がよく効くんだよ。だからこのキャラで回復しつつ、このキャラで魔法で攻撃するといいよ」


 俺が横からアドバイスすると、先程まで苦戦していたのが嘘のように、あっさりと戦闘が終わる。


「やった!倒せた!四宮くんありがと!」


 無邪気な笑顔をこちらに向け、いえーいとハイタッチしてくる春風さん。

 なんだが、ゲームをして子供のようにはしゃぐ春風さんを見ていると、つい今さっきまで、キス出来るかもとか考えていた自分が恥ずかしくなる。


 春風さんはそんな事考えず、きっと純粋にゲームを楽しみに来ただけなはずなのに、申し訳ない。


「ちょっと疲れちゃった。少し休憩しよっと」


 そう言うと、コントローラーを置き、ベッドを背もたれにして座っている俺の横に、同じように座り込む。

 そして、俺の肩に頭を乗せて来た。


「春風さん?」


 俺は急に距離が近くなったことで、ドキドキしながら名前を呼ぶ。

 なんかいい匂いもするし。


「ごめんね、重かった?」


「重くはないけど、急だったからびっくりした」


 俺が素直にそう言うと、そのまま俺の左手を握ってくる。

 俺も緊張しながら、春風さんの右手を握り返すと、えへへと笑って、今度は俺の左腕を抱きしめてきた。

 これはまずい、柔らかいものが左腕に当たってる。

 せっかく我慢してたのに。


「は、春風さん。急にくっついてきてどうしたの?」


「・・・2人きりだし、甘えたくなっちゃった」


 耳を赤くしながら答えた春風さんは、更に俺の左腕を抱きしめてくる。

 俺の左腕が、間に入ってる!包み込まれてる!

 左腕の感触に必死に耐えていると、春風さんが頭を肩から離し、少し上目遣いでこちらを見てくる。


「四宮くん、その」


「何でしょうか」


「せっかく2人きりだし、いい?」


「い、いいってなにがでしょうか」


 緊張で体がガチガチになりながらも、そう聞き返すと、春風さんは黙って目を閉じ、唇をこちらに差し出すような姿勢をとる。

 これはキスって事ですかね。

 ガチガチになった体を頑張って動かし、春風さんから行動させてしまったので、ここで行かなきゃ男が廃る!と勇気を出して、俺も唇を近づける。


「ねぇ、お兄ちゃん、今度さ・・・」


 ナイスタイミングで星羅が部屋に入ってきた。

 俺と春風さんはそのままの体勢で固まる。


「あっ、ノックすれば良かったね。ごめんなさい。続きをどうぞ」


 星羅はそういうと、ゆっくりとドアを閉める。

 俺と春風さんはお互いに赤面し、体を離す。

 星羅のせいで、キスする雰囲気じゃなくなっていた。

 あいつ、後で覚えてろよ。

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