第83話 友だちと彼女と

story teller ~四宮太陽~


 俺が春風さんと一緒に体育館に戻ると、みんなは入口で待っていて、俺たちを見るとすぐに声をかけてきてくれる。


「おかえり」

「2人ともおかえりなさい」

「仲直りできたっぽいな」

「安心したよ。よかった」


「みんな、色々とありがとう」


「心配させてごめんね」


「大丈夫。それよりもさ」


 俺たちが近づくと、4人がニヤニヤしている。

 なにかあるのだろうか。


「なに、怖いんだけど」


「いや、手なんて繋いじゃって、まさか仲直りどころか告白でもした?」


 手を繋いでいたことを忘れていた俺たちは、慌てて手を離す。

 みんなの前なのに恥ずかしい。


「それで、どうなんだ?」


「・・・うん、四宮くんとお付き合いする事になりました」


 堅治の問いかけに、春風さんは顔を赤くしながら答える。

 なんだか俺も、顔が暑くなってきた。


「お互い好きなのに、時間かかりすぎ。月、おめでとう。四宮、月の事よろしくね」


「私よりも先に、月と四宮くんが付き合うとおもってましたよ。おめでとうございます」


「まぁ春風さんなら安心して太陽を任せられる」


「2人ともおめでとう。なんかボクも嬉しいよ」


 みんなが祝ってくれる。ちょっと照れる。

 春風さんも俺と同じようで、嬉しそうな表情だが、俯き気味になっている。


「で?どっちから告白したの?」


 その質問を皮切りに、4人に色々と聞かれ、先生たちのダンスを見逃した。


 ******


story teller ~春風月~


 四宮くんと手を繋ぎ、体育館に向かって歩く。

 つい先程の出来事が夢なのではないかと不安になるが、隣を歩く男の子を見ると、目が合い笑顔を向けてくれるため、夢じゃないと実感する。

 最近はずっと話も出来ず、目が合ってもすぐに逸らされていたから、なんだか久しぶりにちゃんと顔を見た気がする。


 四宮くんの横顔が、いつもよりかっこよく見え、1人で心を踊らせる。

 この人が私の彼氏なんだと、みんなに言ってまわりたい。そんなことは出来ないけど。


 静かな廊下を四宮くんと2人きりで歩く。

 この時間が永遠に続けばいいのにと思ってしまう。


 ******


 後夜祭も終わり、みんなで帰ることになった。

 片付けは後日となっているので、実行委員の春風さんも一緒だ。


 俺と体育館に戻ったあと、実行委員の仕事を忘れていた春風さんは、甲斐先輩に謝りに行ったところ、気にしなくていいと言われたらしい。


「なんだが、みんなで帰るのも久しぶりだね」


「そうですね。最近はバラバラでしたから」


「誰かさんたちのせいでね」


 夏木さんは言葉とは裏腹に、笑顔で言ってくる。

 夏木さんの言葉で、みんなも俺たちを責めてきたが、誰も怒ってはいなかった。

 みんなも笑顔になってほんとによかった。

 あとで、改めて謝罪とお礼をしないといけないな。


「そういえば、善夜って歌上手い?」


「いや、普通だと思うけど。そもそもカラオケって初めて行くし」


「カラオケ言ったことないの!?」


 俺たちはこれから打ち上げのため、カラオケに向かっている。

 堅治はふと気になったのか、善夜に質問を投げかけるが、予想よりも驚く答えが返ってきた。

 高校生でカラオケ行ったことないってまじか。


「じゃあ今日は、車谷の1人コンサートだね」


「えっ!?いやだよ!みんなも歌ってよ!」


 夏木さんにからかわれ、善夜はアタフタしている。

 こんなやりとりも久々な気がして微笑ましくなる。


「四宮くん、なんだか嬉しそう」


 隣を歩く春風さんが俺の顔を見てそう言ってくる。

 みんなの楽しそうなやりとりを見て、嬉しい気持ちが表情に出ていたのかもしれない。


「うん、なんか久しぶりにこんな楽しい雰囲気だなと思って」


「確かにそうかも。私もずっと実行委員でみんなと居られなかったし、今日は楽しも!」


 春風さんは笑顔で腕を空に掲げ、恥ずかしくなったのか、えへへっと笑って誤魔化す。

 俺の彼女可愛すぎない?今すぐ抱きしめたいんだけど。


 俺が春風さんを見ていると、少し顔を赤くして目をそらす。

 まずい、可愛いからって見すぎたかな。

 俺がそう思っていると、こっちを向かないまま、俺に聞いてくる。


「手、繋いでもいい?」


「う、うん、いいよ」


 春風さんは顔を背けているが、耳が赤いので、きっと恥ずかしいのだろう。

 そんな態度だと俺まで恥ずかしくなってくる。


 俺たちはみんなよりも少し後ろを歩き、手を繋いで2人の世界をちょっとだけ作った。

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