第82話 告白と告白

story teller ~四宮太陽~


 俺は誰もいない静かな校舎を、生徒会室に向けて歩く。

 これから春風さんと話すと思うと、怖い。

 もしかしたら、着いた時には先輩の告白を受け入れているかもしれない。

 そう思うと逃げ出したくなる。

 それでも、もしそうなったとしても、友だちがいる。それだけで足取りが軽い。


 生徒会室の近くに着くと、先輩と春風さんは向き合って立っていた。

 先輩は俺に気がつくと、声をかけてきた。


「やぁ四宮くん」


 春風さんも振り向き、俺の姿を確認すると、少し気まずそうにする。

 俺は一瞬躊躇したが、そのまま近づく事にした。


「なにかお話の途中でしたか?」


「いや、大事な話はこれからって感じだね」


 まるで、俺がなんでここに来たのかが分かっているように、いつもの硬い口調ではなく、砕けた話し方でそう言ってくる。


「大事な話ってなんですか?打ち上げの話じゃ」


 なるほど、適当な言い訳を作って、春風さんを呼び出したわけか。


「それもあるけどさ、実は別の話もしようと思っててね」


 俺が気を使って離れようとした事に気づいたのか、四宮くんもそのままでいいよと先輩は言ってくる。


「話ってなんですか?」


 少し警戒したように、春風さんは先輩に質問する。

 先輩は少し悩む様子を見せたあと、春風さんをしっかりと見てから、想いを口に出す。


「僕はね、春風さん、君が好きなんだ。よかったら付き合ってくれない?」


 短く、でも自分の伝えたいことだけを春風さんに伝える。

 春風さんは、予想していなかったのか、驚いた顔を見せていた。


「えっと、その」


 返事に困っているのか、春風さんはいい淀み、俺の方をチラッと見る。

 俺は2人から目を離さずに、黙って様子を見ていた。

 すると、先輩は俺の方を向き、譲ってくる。


「じゃあ次は、四宮くんの番かな」


「えっ、どういう事ですか?四宮くん?どういう事?」


 何が起きているかわからず、春風さんは俺と先輩の顔を見るように、交互に首を動かしている。

 そんな春風さんをおいてけぼりにして、俺は先輩にいいんですか?と聞く。


「うん、いいよ。ここに四宮くんが来た時点で、話があるのはわかったし、正々堂々受けて立つつもりで、俺の告白も聞いてもらったわけだし」


「ありがとうございます」


 俺は先輩にお礼を言ってから、春風さんの方を向く。

 なに?なにが起きてるの?と聞いてくるが、それに答えず、深呼吸をする。

 そして、春風さんに自分の気持ちをぶつける覚悟を整える。


「ごめんね、色々気になると思うけど、まずは俺の話を聞いて欲しい」


「・・・うん、わかった」


 釈然としない様子だが、それでも俺をしっかりと見つめて、聞く姿勢を取ってくれた。


「この前、冷たくしてごめん。ほんとはもっと早く謝りたかったけど、なかなか言い出せなくて、こんなに時間がかかってしまった。嫌われてもおかしくないと思うけど、それでもごめんなさい。あと、俺が骨折したせいで主役を降りる選択をさせてしまったのもごめん。俺がもっと気をつけていればよかった」


 俺は春風さんに対して、頭を下げる。

 すると、頭を上げてと言ってから、俺が春風さんを見るまで待ってくれた。


「私もごめんなさい。私が荷物を持たせたから、四宮くんはクラスの演劇にも参加できなくて、生活も不便になって、良かれと思ってお節介焼いたけど、それも迷惑になってた事も気づかなくてごめんなさい」


 春風さんも俺に頭を下げる。

 深く、とても長い時間、頭を下げ続けた。


「もう大丈夫だから、頭を上げて」


 俺がそう言うと、少しずつ、ゆっくりと頭を上げて、俺の目を真っ直ぐと見てくれる。


「あと1つ話があって、それはただの俺のわがままで、春風さんからすると迷惑かもしれないけど、聞いてくれる?」


「うん、わかった。最後まで聞くね」


 春風さんは真剣な表情で俺と向き合ってくれる。

 俺は自分の気持ちを隠さずにすべて吐き出すことにした。

 緊張と不安でいっぱいだから、頑張って声を出す。


「・・・今の先輩の告白、断って欲しい。先輩とは今後なるべく関わらないでほしい。俺に向けない笑顔を俺以外の男の人に向けないで欲しい。俺の事嫌わないで欲しい」


 俺は子供のように、言葉も選ばず、ただただわがままを口にする。


「俺は春風さんが好きだから、大好きだから、付き合ってもないのに勝手に嫉妬して、嫌な気持ちになって、それを自分でも嫌だと思いながら春風さんに冷たくしちゃって、悪いと思いながらも謝れなくて、それなのに1人で焦って、友だちに迷惑をかけて、怒られてからやっとこの場所に来ることができた。そんな情けない俺だけど、先輩じゃなくて、俺を選んで欲しい」


 俺はいつの間にか泣いていた。

 我慢してたものがすべて溢れて止まらない。

 恥ずかしいし、情けない。


 俺の目の前の春風さんも泣いていて、そんな俺たちを先輩は黙って見ている。


「俺じゃダメですか。好きになってくれませんか」


 俺が気持ちをすべて伝え終わるのをまってから、泣いていて少し声を出しずらそうにしながらも、しっかりと答えてくれる。


「ダメじゃないです。私も四宮くんの事が好きです。大好きです。私でよければ、お付き合いしてください」


「ほんとに?俺でいいの?」


「四宮くんがいいんです!私は四宮くんを入学式で一目見た時から、ずっと好きだったの!四宮くんと仲良くなって、もっと好きになって、それなのに、嫌われたと思って不安だったの」


 春風さんも不安だったと聞いて、申し訳ない気持ちになる。

 俺がもっと、ちゃんとしていれば不安にさせることはなかったかもしれない。


「不安にさせてごめん。でも俺は春風さんの事嫌いにならないから。これからは安心して欲しい」


「私も四宮くんの事嫌いにならないよ」


 気持ちを吐き出し、お互いの気持ちを分かり合い、不安も大好きも言い合い、寂しかった気持ちや、嬉しさ、色々な感情が混ざりあって涙となって出てくる。

 俺たちは泣きながら抱き合い、先輩がいる事も忘れて、泣き止むまでそのままだった。


 ______


 俺たちは、落ち着いてから我に返り、抱き合っていることが急に恥ずかしくなる。

 2人して赤面しながら、離れる。


「まだそのままでもよかったのに」


 俺たちが落ち着いたのを確認してから、先輩は茶化してくる。


「甲斐先輩、その、さっきの告白は・・・」


「いいよ、言わなくてもわかってるから。あんなの見せられたら身を引くしかないじゃん」


「すみません」


 先輩はじゃあ邪魔者はいなくなるよと言ってから、体育館方面に向かっていった。

 その背中が少し悲しそうにみえた。


 残された俺たちは、お互いに黙ったまま気まずい空気が流れる。

 そんな空気に耐えられなくなり、俺は春風さんに話題を振る。


「そ、そろそろ先生たちの出番じゃないかな?」


「そうだね。き、きっと面白いし、見逃したら勿体ないよね」


 俺たちはお互いに意識しすぎて、話し方がぎこちない。

 2人で顔を見合わせて笑ってしまう。

 やっぱり春風さんには笑顔でいて欲しい。


「そういえば、なにも考えずに抱きついたけど、腕大丈夫だった?」


 思い出し焦ったように、俺の腕を心配してくる。


「うん、痛みもほぼ無いし、そんなに強く押し付けられた訳じゃないから大丈夫だよ」


 そう伝えると、それならよかったと安心しているようだ。

 まぁ柔らかい物が押し付けられてたけど、ギプスのせいでなにも感じられなかったのが悔やまれる。

 骨折さえしてなければ。


「じゃあ、先生たちのダンス見に行こ!」


 そういって春風さんは手を差し出してくれる。

 俺はその手を握り、2人並んで体育館に向かった。

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