第65話 太陽と未来 2

story teller ~中学時代の四宮太陽~


 橋の下であった日以降、葛原は演じることをやめた。

 誰にでも優しく、常に笑顔だった葛原は、笑いたい時だけ笑い、嫌なものは嫌と言い、口も悪くなり、成績も落ちた。

 それでも葛原はみんなの人気者だった。

 演じなくても、葛原が素敵な女の子だという証拠だ。


 そんな葛原は雨が降ると必ず俺を、あの橋の下に誘うようになった。

 2人だけの時間。何気ない会話をして帰るだけ。そんな雨の日が好きだった。

ある時、俺は気になっていた疑問を口にした。


「今まで聞いてこなかったけど、なんで演じることをやめたの?」


「今までは、自分の事が1番好きだった。みんなに愛されている自分が好きだったから演じてたの」


「じゃあ今は、1番好きなものが変わったってこと?」


「うん。・・・今はあなたが1番好き。ほんとのわたしを素敵だと言ってくれた、あなたが好きなの。だから周りから愛される自分のことはどうでも良くなったの」


「俺も葛原さんが好きだよ。今の葛原さんが好き」


 俺たちは見つめ合い、お互いの気持ちを伝え合いながら少しずつ顔を近づけ、そして唇を重ねた。


 俺と葛原が付き合っているという噂は、すぐに学校中に流れ、俺たちも隠す理由もないので、否定せずにいた。


 それをよく思わない人も中にはいるので、嫌がらせ的なことをされることもあったが、無視していれば、そのうち少なくなった。


 逆に、俺に興味を持った人や葛原を通して知り合った人と仲良くなり、友だちが増えていった。

 そうすると、俺の性格も明るくなっていき、更に友だちも増え、気づけば、葛原と並んで、クラスの中心になっていた。


 俺はそれが嬉しかったし、楽しかった。

 全部葛原のおかげだし、感謝していた。


 そんな日が続き、俺たちは進級し、3年生になった。

 葛原ともクラスが別になったが、友だちが増えていた俺は寂しくはなかった。


 3年生の夏休み明け、教室に入った俺は、違和感に気づいた。

 みんなが俺を見て、ヒソヒソと小声で話をしている。

 俺は気にしないように、席が近い生徒に挨拶をするも無視される。


 この日から、俺に対してのイジメが始まった。

 無視されたり、物を捨てられたり。

 それはまだいい。

 廊下を歩いていると後ろから、蹴られたり、突然殴られたりした事もあった。

 理由を聞いても誰も答えてくれない。無視されているから。


 先生も見て見ぬふり。

 親には言えない。


 それでも俺が耐えられたのは、葛原と堅治が居たからだ。

 2人とも別のクラスだったが、堅治はできるだけ俺を庇い、葛原も俺に対して今まで通り接してくれた。


 2人が居たから耐えられた。

 頑張れていた。


 でもある日見てしまった。

 葛原と帰ろうと、葛原の教室に行くと、そこで男とキスをしていたのだ。


 俺はその光景が信じられず、バレたらマズいと思いとっさに隠れてしまう。

 それに気づかず、葛原と相手の男は話し始める。


「もっと太陽くんを追い込んで欲しいな」


「これ以上追い込んだら、あいつ死なない?」


「大丈夫よ、わたしがいるもの。わたしが太陽くんを支えたら問題ないから」


「まぁなんでもいいけど、ちゃんと見返りはくれよな」


 その日は、逃げるように帰り。何日かしてから葛原を問い詰めた。


 するとあっさりと認めたのだ。

 俺に対するイジメが始まったのは葛原が原因だった。

 自分と仲のいい友だちを使い、俺が夏休みに浮気してたと噂を流し、更に誘惑した男を使い、直接イジメさせる。

 それを繰り返し、みんなが俺をイジメても問題ない空気を作り、孤立させるのが目的だったらしい。

 その時は気づかなかったが、きっと先生にも黙認するよう、なにかしらの手を使っていたのだろう。


 葛原がそんな事をした理由は、俺に友だちが増えていき、わたしだけのものじゃない、みんなのものになるのが嫌だったと言っていた。

 イジメて、孤立させれば、わたしだけを頼って、わたしだけに依存するようにだったらしい。


 それを聞いてからは学校に行けなくなった。

 葛原が怖かった。会いたくなかった。もう関わりたくなかった。

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