第66話 考え

story teller ~四宮太陽~


 俺が話終わると、みんなは複雑な表情をしていた。


「・・・・・・そんな事があったんだね」


「なるほど。それで四宮は高校入学と同時に、引っ越してきたわけか」


「えっと、知り合ったばっかりのボクが聞いていい話だったのかな」


 俺の話を聞いて、それぞれ考え込んでいるようだ。

 堅治は俺の頭を撫でてくる。

 きっとよく話した、お疲れ様ってことなのだろう。

 でもこの歳で、しかも友だちに頭を撫でられるのは恥ずかしい。


「この事があったから、最初、春風さんが太陽と仲良くなったと聞いた時に、また葛原の時みたいになるのではないかと警戒していたんだ。みんな、特に夏木さん、知り合ったばかりの時は色々とすまん」


「だからオレの口からは言えないって言ってたわけね。四宮の為ってのはこういう事ね。理解したよ。ワタシもごめん」


 堅治と夏木さんはお互いに頭を下げる。

 そして、次は優希くんが挙手してから話し始める。


「すみません。実は俺、星羅ちゃんから話を聞いたことがあってしってました」


 優希くんは謝ってくるが、きっと星羅が一方的に話したのだろう。

 まぁ優希くんも葛原の計画に巻き込まれてたし、仕方ない。というか俺が巻き込んだ。

 謝らなければ。


「今まで黙っててほんとごめん。俺が葛原から逃げたから、みんなを巻き込んで―――」


「そんな事ない!」


 俺の言葉を、春風さんが食い気味に、強く否定する。

 その場にいる全員の視線が、春風さんに集中する。


「あっ大声だしてごめん。でも四宮くんは戦ったよ。頑張ったよ。話を聞いただけの私たちじゃ想像できないくらいキツかったはずだよ」


 春風さんの言葉に、心が軽くなる。

 みんなも春風さんに同調しているのか、黙って頷いている。

 話すのは簡単だが、思い出すとやっぱりきついものはある。


「それに、四宮くんは、今回だって葛原さんが関わってるかもって知ってからも、頑張って星羅ちゃんを助けたよ。逃げてないよ。巻き込んでないよ。私たちは自分たちの意思で四宮くんを助けるし、支えてるから」


 それでも俺が話そうと思ったのは。

 戦ったと言ってくれる。頑張ったと言ってくれる。逃げてないって言ってくれる。

 俺の事を認めてくれて、支えてくれる。

 この人たちになら、話せる、話したいって思ったから。


「四宮くん?どうしたの?」


「へっ?なに?」


「だって、泣いてるから」


 春風さんにそう言われ、頬が濡れていることに気づいた。


「あれ、俺なんで」


 なんだろこれと笑いながら涙を拭う。

 泣いているのに、なぜか心が暖かい。辛くない。


「太陽はきっと、自分が思うより頑張ってたんだ」


 堅治が俺の肩を叩きながら言ってくれる。


 そうか。俺はずっと自分が逃げてたと思っていた。

 俺のせいでみんなに迷惑をかけてると思ってた。

 でもそうじゃないって言ってくれたから、だからこんなに心が暖かくて軽いんだ。


「みんな、聞いてくれてありがとう。助けてくれてありがとう」


 俺がそういうと、みんなの複雑だった表情が笑顔になる。


「いいえ。私たちでよければ、いつでも話聞きますし、助けます」


「ボクも、なにが出来るかわからないけど、出来ることがあればなんでもするよ」


 冬草さんも善夜も、こう言ってくれる。


「うん。ありがとう」


 この街に引っ越してきて、こんなにも素敵な友だちに出会えて、よかったと、心から思う。


 ______


 みんなは俺が泣き止むのを待ってくれた。

 やっと落ち着いたので、話し始める。


「四宮の話で、なんとなく葛原がどんな人間なのかわかった気がする」


「うん。僕もこれまでちょくちょく葛原と関わってきてたけど。なるほど、花江ちゃんが言ってた、太陽くんを狙ってくるって言うのはそういう事か」


 みんなもある程度はわかったようだ。


「それで、今回の葛原がどう関わってきて、なにを考えてたのかってのをまとめる訳だね?」


 架流さんの言葉に、俺は頷く。

 今回の件をまとめて、葛原の考えがわかれば、今後の対策に繋がるかもしれない。


「今回、葛原が中学生を集めてたのは、たぶん最初から、星羅をターゲットにしてたんだ。そして情報を集めて、優希くんとの関係を知った」


「なるほどな。それで遠回しに優希くんに対して、お金を渡してた・・・と」


「優希くんにお金を渡す理由が思い浮かばないんだけど」


 夏木さんの言うように、そこがよく分からない。

 お金を渡す理由。

 俺たちが考えていると、冬草さんが少しいいですか?と許可を求めてきたので、どうぞと答える。


「あくまでも、私の考えですけど。堅治くんと花江の時もお互いの性格を考慮して、葛原さんは行動してましたよね?という事は今回もそうなんじゃないかと思うんです」


 冬草さんの発言に、どういうことだ?と堅治が聞く。


「えっと、まず、星羅ちゃんと優希くんの関係をしった葛原さんは、その2人に今足りてないものを考えたんですよ。2人は中学生なのでバイトとか出来ないし、お金がないと思ったんじゃないかと」


 確かに、星羅はお金がなくてあんまり会えないのは嫌だと言っていた。


「お金を渡せば、優希くんたちはたくさん遊ぶようになって、星羅ちゃんは家にいないことが多くなりますよね?その時に、わざと架流さんに、自分が中学生を集めていると、情報を流したんじゃないですか?それが四宮くんに伝わることも、最初から考えてたのではないかと思います」


 冬草さんの考えに、みんながおぉと声を出す。

 架流さんの性格を考えて、情報を俺に伝える事まで考えてた可能性は充分有り得る。


「でも、それとお金にどんな関係が?」


「それはですね。えっと、四宮くんは、葛原さんが星羅ちゃんになにかするかもと警戒しますよね?すると星羅ちゃんの帰りが遅いことが気になりだします。そして問いただすと、優希くんが誰かからお金を受け取ってる事が分かるはずです。でもこの時点では誰から受け取ってるかわからないから」


「そこで、太陽くんが、僕に情報を集めて欲しいとお願いするようになると・・・」


 冬草さんが架流さんをチラッとみると、架流さんは冬草さんの考えを察して発言する。

 なるほど、確かに葛原がやりそうな事ではある。


「でも、星羅や優希くんの帰りが遅くなるのは正直わからなくないか?」


 堅治の言葉に、いいえと言ってから冬草さんは続ける。


「わかるんですよ。同じ女だから。付き合ったばかりの女の子は、彼氏となるべく一緒にいたいと考えたんだと思います。特に星羅ちゃんは葛原さんと会ったことありますよね?」


「お兄ちゃんが中学生の時にあります。2人で遊んだことも何回か・・・あります」


「その時に、星羅ちゃんと恋バナでもしたのでしょう。それで星羅ちゃんの恋愛観的なものを理解していたのだと。星羅ちゃんの恋心を利用したんです」


 もし、ほんとにそうだとしたら、星羅が可哀想だ。

 星羅の兄として許せない。


「そして、お金の事、帰りが遅いことを、四宮くんと四宮くんのお母さんが星羅ちゃんに注意しますよね?もちろん優希くんに接触することも考慮するんです」


 そこまで言い終わると、少し待ってくださいと言って、下を見ている。

 なにかあるのか?


「えっと、そのあとは前もって、用意していた部屋を、人伝で優希くんに教えて、星羅ちゃんが四宮くんか四宮くんのお母さんと喧嘩したら、そこに逃げられるように誘導したのではないかと。中学生に女の子がいるからと部屋に行くようにけしかけて、その、えっと、星羅ちゃんが、レ、レ、レイ――――」


「なるほどね〜。あえて僕に情報を小出しに与えて、星羅ちゃんが襲われているところを、太陽くんが目撃するようにしたんじゃないかって事ね」


 冬草さんが、なにを言おうとしていたのかを察して、架流さんが言葉を被せる。


「ってことは、お金を渡してたのは、最初から星羅ちゃんを部屋に誘い込む為だけだったと。あくまでも自分の手は汚したくないから、遠回しに。葛原のやりそうな事だ」


「僕も気に食わないな。太陽くんのために、と思ってしていた行動が、結果的に葛原の思い通りだった訳か」


 堅治と架流さんは、怒っているのか、険しい顔になっている。


「はい。たぶんですけど、そういう事じゃないかと。四宮くんに、その・・・星羅ちゃんが襲われているところを目撃させて、自分のせいだと思い込ませる。そうすれば、周りの人を傷つけないよう遠ざけて、1人になった四宮くんを自分が支えて、四宮くんの心に入り込もうとしたのではないかと思います」


 冬草さんは話し終えてから、ふーと息を吐く。

 それにしても、冬草さんは凄いな、会ったことも無い葛原の考えを、少ない情報からここまで予想するとは。

 と思っていると、架流さんが冬草さんに話しかける。


「それが、花江ちゃんの考えってことだね?」


「へっ!?ななな、なにがですか!?」


「ん〜?今、花江ちゃんと連絡取ってるでしょ?今の考えも花江ちゃんの考えだと思ったんだけど」


 冬草さんは最初は焦りながら、否定していたが、隣に座る夏木さんに手を掴まれて、スマホを取られる。

 それで観念し、花江さんの考えだと認めた。


「すみません。ずっと連絡取ってました。花江が自分はみんなの前には出ない方がいいからって言ってまして、それで私が代わりに伝えました。すみません」


 花江さんは俺たちに気を使ったのだろう。

 堅治をチラッと見るが、気にしていないのか、表情からはなにもわからない。


「ん?でも寄宮さんの考えの通りだとしたら、葛原さんの計画は阻止出来たってことだよね?そこまで計画して、わざと失敗するとは思えないような」


 春風さんは、違和感を感じたらしい。

 うーんと首を傾げている。


「それなら、なんとなく想像できるよ」


 俺がそういうと、春風さんはなに?と聞いてくる。


「たぶん、善夜だよ」


「ボ、ボク!?」


 自分の名前が出てくると思わなかったのか、善夜は驚いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る