第63話 関係

story teller ~葛原未来~


 わたしは、星羅を襲うように仕向けた中学生からの連絡を受け、クソとスマホを壁に投げつける。


 あと少しで星羅を壊せた、そしたら太陽くんの心も死んでいたはずなのに。

 ただ少し、ほんの少しだけ早く、太陽くんが星羅を見つけてしまった。


 横山へ伝わる情報も小出しにして、間に合わないように調整した。

 部屋の場所も、加藤が無作為に選んだ中から程よい距離にある場所を選んだ。

 急いでもすぐにはたどり着けないような距離感にした。

 全て計算していた。

 それなのに、太陽くんは間に合った。


 間に合った理由があるはずだ。

 裏切り者がいるか、わたしの知らない協力者がいるか、それともその両方か。


 わたしは投げつけたスマホを拾い、念の為全てのデータを消してから、道具箱の中のハンマーを取りだして、叩き割る。

 スマホはまた金づるに買ってもらえばいい。

 重要な連絡先だけはわたしの頭に入っているからどうにでもなる。


 わたしは、裏切り者か太陽くんの新たな協力者の情報を集めるため、1から地道に始める事にする。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 全身がめちゃくちゃ痛い。

 俺はなんとかベッドから起き上がり、1階へ降りる。

 リビングに入ると、母さんと星羅は既に起きていて、朝食を食べていた。


「おはよ」


「おはよう、太陽」


「おはよう。お兄ちゃん大丈夫?」


 星羅は手に持っていたパンを皿の上に置き、駆け寄ってきて支えてくれる。


「ありがとう。なんとか大丈夫だよ」


 殴られた頬は少し腫れているが、体の方は少し赤みを帯びているだけで、問題なさそうだった。

 俺が支えられながらイスに座ると、母さんは朝食を持ってきてくれる。


 2人は俺が朝食を食べ終えるのを待ち、それから話し始めた。


「・・・お母さん。昨日はごめんなさい。お母さんに優希くんと別れろって言われるのが嫌になって、それで1日だけ帰らないで困らせようと思ったの。ほんとにごめんなさい。もうしません」


「私も言いすぎたわ。ごめんね。それでもあなたが心配で別れてって言ったことは理解して欲しいわ」


 お互いに謝り、黙り込んだので、俺も話に入ることにする。


「母さん。優希くんの事なんだけど、お金は間接的にとはいえ、葛原から受け取っていたのは確かだよ。でも今は関わってないのは俺が保証するよ」


 昨日優希くんが一緒だったことは、伝えないことにした。

 伝えるとややこしくなると判断したためである。


 母さんは俺の話を聞いてから、少し悩む様子を見せたあと、はぁと少しため息を吐く。


「分かったわ。私が折れる。太陽がそこまで言うならほんとに今は関わってないんだろうし、また帰ってこなくなっても困るしね。堅治くんたちにも迷惑かけちゃったし」


「お母さん!ほんとに!?」


「その代わり、もし今後、少しでも葛原さんと関わってることがわかったらすぐに別れること。いいね?」


「お母さん!ほんとにありがとう!」


 とうとう母さんが条件付きではあるが、折れてくれた。

 星羅はめちゃくちゃ嬉しそうである。よかった。


 昨日、色々してくれたみんなにお礼がしたいと母さんが言っているので、今度連れてこようと思う。もちろん、架流さんも。


 ______


 その日の午後、俺たちは、この前優希くんとお金の話をしたカフェに集まっていた。

 ここなら人に聞かれにくく、色々話せるのではないかと思ったが、予想通り人は少なかった。

 一応、日曜日なんだけど、大丈夫かな、このお店。


 俺たちは、以前と同様、レジから離れた、広めの席に座る。


「昨日なにがあったか聞いてもいい?」


 俺の家で母さんと一緒に、俺たちの帰りを待っていた春風さんたちは昨日なにがあったのか、ずっと気になっていたらしく、注文もそこそこに聞いてきた。


 俺と堅治、架流さんの3人でそれぞれなにをしていたか補足し合いながら、伝えていく。

 話を聞き終わると、春風さんと夏木さん、冬草さんの3人は心配そうな顔になる。


「それで、四宮くんと優希くんは怪我してるんだね」


「恥ずかしながら力及ばず」


「優希くんは私を守ってくれたよ!ほんとありがとう!お兄ちゃんもね!」


 申し訳なさそうに顔を伏せる優希くんに、星羅が改めてお礼を伝える。

 そんな様子をみながら、架流さんがアイコンタクトを送ってきた。

 俺は頷き、ひと呼吸おいてから話始める。

 さて、ここからが今日の本題だ。


「えっと、一応メッセージでも伝えていたように、まずは今回の件をまとめて、その中で葛原がどう関わっていたのかを、1度整理した方がいいと思う。その上で、また関わってくるかもしれない葛原に対しての、対策とか考えられたらいいなって思う」


 みんなは俺の話を黙って聞いてくれる。善夜だけはまだ葛原の事も知らないから、戸惑っているがこれからちゃんと説明するので、一旦そのままにしておく。


「ただその前に、葛原がどういう人間で、今までなにをしてきたのか、それが分かれば、対策しやすくなるかもしれない。・・・だからみんなには俺と葛原の間になにがあったのかを聞いて欲しい」


「・・・太陽。大丈夫なのか?」


「うん、大丈夫。みんなをここまで巻き込んでしまったし、話さないといけないと思うんだ」


 心配そうに聞いてくる堅治に俺はそう答える。


 他のみんなは俺に視線を向け、黙って話し始めるのを待っていた。


 きっと大丈夫。今の俺なら。みんなと一緒なら、あんまり思い出したくない話でも、上手く話せる。


 俺は深呼吸をしてから、話し始めた。

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