第62話 ヒーローと友だち
story teller ~四宮太陽~
諦めかけていた俺は、タイミングよく現れたヒーローに、少し、いや、とても心が救われる。
まだ助かったわけじゃない。その未来が確定したわけでもないのに、それでも、もう助かったのだと、星羅を無事に連れて帰れると思わせるには十分な登場だった。
横山架流に蹴り飛ばされた中学生は、胸の当たりを押さえて苦しんでいる。
その様子をみた他の中学生たちは固まり、動かなくなる。
「あんまり中学生相手に喧嘩はしたくないんだけど、どうする?かかってくるなら相手になるよ」
挑発とも取れる横山架流の言葉に、最初に俺に話しかけてきたガタイのいい男の子が、おらぁーと雄叫びを上げながら向かっていく。
しかし、その男の子の拳をひらりと軽い動きで避けたあと、腕を掴むと同時に脚を払い、地面に押さえつける。
腕を背中で押さえられた男の子は、身動きも取れず、悔しそうな声を上げていた。
「どうなってんだ」
少し遅れてやってきた堅治は、今の状況をみて、唖然としている。
「遅いよ、堅治くん」
男の子を押さえつけながら爽やかな笑顔を浮かべる横山架流は、堅治のなんでいるんだという言葉をスルーして、押さえた男の子に問いかける。
「どうする?まだやる?それともギブ?」
「ギブ。ギブだ」
「あっそ。じゃあはい」
男の子を離し、立ち上がる横山架流に対し、解放された男の子は寝っ転がりながら腕を振る。
しかし、知っていたかの様に避けてから、惜しいねと煽っていた。
プライドが傷ついたのか、男の子は起き上がることなく、そのまま動かなくなる。
「さてと、君たち。もう大人しく帰ってくれる?今帰るなら警察は呼ばないで済むんだけど」
横山架流のその言葉に、リーダー格の男の子が簡単にやられた事で戦意を喪失したのか、中学生たちはすみませんでしたと一言残して去っていく。
寝っ転がったままの男の子にも、ほら君も立ってと腕を掴んで起き上がらせ、帰るように促す。
その場に俺たちだけが残り、静かになった。
「ほら、みんなも、とりあえず移動しなきゃ。騒ぎすぎたし、通報されててもおかしくないよ」
気がつくと、アパートの上階から覗いている人たちもいる。
警察沙汰になると、母さんに余計な心配をかけると思い、みんなでその場を後にした。
______
家を抜け出してきた、優希くんを自宅に送り届け、全身の痛みが酷い俺と星羅、堅治と横山架流はタクシーに乗り、善夜はバイクで俺の家に向かう。
自宅に着いた俺は、全員で中に入る。
これから帰ると連絡をしていたため、中では春風さんたちが待ってくれていた。
「ただいま、母さん」
「どうしたの!なにがあったの!」
「星羅を探してたら、偶然、星羅がナンパされててさ。助けに入ったら殴られたんだ。その時に、この人が助けてくれた」
俺は帰りのタクシーの中で、話し合った言い訳を母さんに話す。
俺に紹介された横山架流は、母さんに挨拶をしてから、大丈夫?と俺に声をかけてくる。
ほんとに心配してくれているのだろう。
母さんに素直に話さないのにはいくつか理由がある。
1番は、これ以上母さんに、心配させたり、不安にさせたくないからだ。お金の件でも心配させ、葛原の名前を出して不安にさせてしまったので、なるべく安心できるようにしたかった。
次に、話すと絶対に警察沙汰になる。それは俺たちが望んでいない。
最近は色々とあって疲れたし、これ以上の面倒ごとはゴメンだ。
本来ならしっかり話しをすべきだと思うが、あの中学生たちに関しては、横山架流が匿名で、学校にメールにて連絡を入れるらしい。
横山架流の後輩も話を合わせて、自分たちが喧嘩を吹っかけてやられたと言ってくれると約束してくれたと聞いている。
他の中学生たちにも後輩を通して、ただの喧嘩と言う事にしてもらうとの事。
まぁ本人たちからしても、女の子を襲おうとしましたよりは、ただの喧嘩と言った方がマシだろう。
その後のことは学校側に任せて大丈夫だろうという判断だ。
今後の事も考えて、後輩にもいつの間にか話を通していたし、ほんとしっかりした人だ。
少しは信頼してもいいのかもしれない。
そして最後に、今回の件に葛原が関わっているとなると、絶対に母さんは、星羅と優希くんの交際を認めてくれなくなる。
その為にも、今回は葛原が関わってないことにする必要があったのだ。
俺としては、星羅を守るために体を張った優希くんの為にも、なんとか母さんを説得したい。
今日はもう遅いので、一旦帰り、また明日集まって話をすることになった。
俺はみんなを玄関まで見送ることにする。
「みんな。今日はありがとう。色々迷惑かけました」
俺がそう伝えると、みんなは星羅が無事でよかったと言ってくれる。
嬉しい限りだ。
みんなが帰る中、俺は横山架流を呼び止めた。
「架流さん。今回はほんとに助かりました。色々情報を集めてくれたり、最後も、架流さんが来なかったらどうなっていたかわかりません」
「いいよいいよ。僕は自分に出来ることをやっただけだからさ」
いつもの調子のいい口調で、ヘラヘラと笑っている。
今までは、その感じを不快に思っていたが、今ではそこまで嫌じゃない。
俺の中での架流さんの評価が変わったのだろう。
「なにか、お礼をさせて下さい」
「うーん・・・それじゃあさ、僕と友だちになってくれない?」
俺がそういうと、少し考えてから、恥ずかしそうに言ってくる。
「僕って友だちが花江ちゃんしかいないからさ、同性の友だちも欲しいんだ。まぁ色々あったし、無理ならいいけど」
あははと笑って、恥ずかしさを誤魔化す架流さんに、俺は素直な気持ちで答える。
「いいですよ。俺でよければ。むしろ、お願いします」
俺の返事を聞いて、恥ずかしそうに顔を伏せてから、やったと短く。嬉しそうにそう言っていた。
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