第61話 ピンチ
story teller ~四宮太陽~
俺は下で待っている善夜にメッセージを送り、部屋まで来てもらった。
念の為、鍵を閉めてから、なにが起きているかわからない星羅に説明する。
すべて説明を終えると、怖いのか俺にしがみついてきた。
「ごめん・・・なさい。私、そんなつもりなくて。ただ、1日だけ帰らずに、お母さんを困らせようと思っただけで」
俺は星羅の頭を撫でながら、もう大丈夫だからと言う。
そんな俺たちの様子を優しく見守る善夜に話しかける。
「善夜のおかげで、最悪の事態は免れたよ。ありがとう」
「ボクは出来ることをやったまでだよ。気にしないで」
そういうが、正直、善夜がいなかったら間に合わなかったかもしれない。
昨日知り合ったばかりの俺のために、交通法を破ってまで助けてくれたのだ。この恩は必ず返さなければ。
俺たちが安堵し、胸を撫で下ろしていると、ガチャリと鍵が開く音が聞こえる。
俺と善夜はドアに視線を合わせて身構え、星羅は俺の後ろに隠れる。
星羅が無事だったことに安心しきっていた俺は、部屋に逃げ場が無いことに、今更気づく。
そんな俺の不安は外れ、ドアを開けて立っていたのは優希くんだった。
「あれ?太陽さんと善夜さん?どうしてここに?」
______
俺たちは逃げ場のない、部屋を出てから1階に降り、先程、星羅に説明した内容と同じことを優希くんに話した。
「そんな・・・。ごめんなさい。俺が星羅ちゃんに部屋を教えたから。俺のせいです。ほんとにごめんなさい」
「優希くんは悪くないよ!ちゃんと帰らなきゃダメだよって止めてくれたのに、私が言う事を聞かなかったから」
わかる気がする。
たぶん、優希くんは星羅を何度も止めたのだろう。
それでも星羅が聞かず、最終的に優希くんが折れてしまったのだ。
謝る2人を抱き寄せ、大丈夫だよと声をかける。
その時、足音と話し声が聞こえてきた。
最悪のタイミングだ。
堅治も横山架流もまだ来ていない。
俺は2人を後ろに下げ、少しずつ後退りする。
建物の角を曲がって、中学生グループが出てきた。
横山架流の後輩の話だと4人って聞いていたが、10人くらいいるぞ。途中で増えたのか。
中学生グループは俺たちを見ると
「あれ?あの子って写真の子じゃね?」
「ほんとだ。部屋にいるんじゃなかった?」
「あの人たちは誰?」
そんなことを話している。
俺は黙って中学生グループを睨みつける。
すると、リーダー格だろうか、他の奴らよりもガタイのいい男の子が話しかけてきた。
「すみません、その子これから俺たちと遊ぶ約束してるんですけど」
「ごめんね、俺はこの子のお兄ちゃんで、迎えに来たんだ。だから遊ぶなら君たちだけで遊んでくれるかな?」
お兄ちゃんってワードでビビって帰って欲しかったが、そうはいかない。
横山架流の後輩から、学校も行かずに遊び回ってる奴らだと聞いている。
これくらいじゃビビらないのも当然か。
俺は隣に立つ、善夜に小声で話しかける。
「バイクって3人乗れるか?」
「乗れないことはないけど、事故の可能性あがるし、危険だからやめた方がいいと思う」
無理やり3人で乗って、事故ってしまったら元も子もない。
俺は3人乗りを諦め、この場をどう切り抜けるか、頭をフル回転させる。
しかし、みんな無事に逃げ切るいい案が出ない。
すると、優希くんが俺の後ろから声をかけてくる。
「俺が残ります」
「ダメだ。優希くんも逃げて」
「俺、走るのはそんなに早くないので、逃げてもすぐに捕まります。それなら善夜さんと星羅ちゃんがバイクで逃げるまでの時間稼ぎをした方がいいと思うんです」
もう少し考えるからと言おうとしたが、中学生グループは待ってくれないらしい。
もうやっちゃおうぜとか言ってる。
正直怖い。がそんなことは言ってられない。
俺は星羅を善夜に向かって押し、それと同時に、中学生グループに向かって走りだす。
俺に合わせて優希くんも走り出してくれた。
善夜は星羅を受け止めると、そのまま星羅をバイクまで引っ張っていく。
少しでも時間を稼がないと。
そう思い、握りしめた拳を後ろに引き、目の前の男の子目掛けて前に突き出そうとした瞬間。
頬に、強い衝撃がぶつかった。
殴られたのだと気づくまでに、時間がかかった。
なんとか持ちこたえ、自分の拳を相手に向かって突き出すも、当たらない。
今度は腹に強い衝撃が加えられ、かはっと息が無理やりに吐き出される。
倒れたらダメだ。そう思い、俺は両手を広げて、中学生の体を受け止める。
2人ほど、捕え、振り切られそうになるのを、相手の服を掴んで離さない。
時間にして、数秒。引き伸ばされたように長く感じる。
さすがに俺と優希くんだけでは止めきれず、1人、善夜と星羅に向かって走っていくのが見える。
まだ星羅がバイクに乗れていない。捕まる。
そう思った時、星羅の服を掴もうとした中学生が後ろに飛ぶ。
なにが起こったのか理解出来ないまま、スローモーションのようにゆっくり飛び上がり、ゆっくり落ちていく中学生を見ていた。
その中学生の向こう側、中学生と星羅の間に1人誰かが立っている。
その人は振り上げた脚を下ろしながらこういった。
「ヒーローは、遅れて登場するのさ」
こんな場面で、そんなふざけた事を言うのは1人しかいない。
横山架流だった。
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