第59話 帰らない星羅

story teller ~弥生優希~


 俺はベランダに出てから、通話に出る。

 相手は星羅ちゃんだ。


「もしもし?急にどうしたの?って泣いてるの?なにかあったの?」


 電話口の星羅ちゃんは泣いていて、話すのが難しいのか、反応がない。

 しばらくすると少し落ち着いたようで、ゆっくりと話し始める。


「お母さんに、優希くんと別れろって言われた」


 俺はどうしてそうなったのか、詳しく話を聞き、葛原という名前が出てきたことで、太陽さんからも聞いたことがあるのを思い出した。


「その葛原さんって人は誰なの?知り合い?」


「知り合いというか、お兄ちゃんの元カノ」


 なんで太陽さんの元カノの名前が出てくるのかわからず、星羅ちゃんに詳しく聞いてみると、太陽さんの過去にあった話をしてくれた。


「太陽さんにそんな過去が。それで星羅ちゃんも星羅ちゃんのお母さんも葛原さんって人にいい印象がないんだね」


「うん。だからお母さんは、また大変なことになるんじゃないかって、心配してるんだと思う。・・・優希くんは葛原と繋がってないよね?」


「もちろん。そんな人知らないし、先輩から貰ってたお金が葛原さんが用意してたっていうもの知らなかった。ごめん、俺がそんなお金を受け取ったばっかりに・・・」


 俺が謝ると、大丈夫と言ってくれる。

 お互いに黙ってしまい、少し間を置いてから星羅ちゃんが話す。


「・・・ねぇ、優希くん」


「どうしたの?」


「もうお母さんに優希くんと別れろって言われるの嫌だ。家出したい」


 ******


story teller ~四宮太陽~


 午後8時を過ぎても星羅が帰らないことに、母さんはイライラし始めていた。


「あの子、約束は守らないし、優希くんと別れないし、もう絶対許さない」


「母さん、落ち着いて?俺も思い当たる場所探しにいくからさ」


「私も探しに行く」


 そういう母さんに、2人とも家を出て、その間に帰ってきたらどうするの?と言ってから、俺はスマホで連絡を取る。


('SUN' ごめん。ちょっと緊急事態。)

('MOON' どうしたの?)

('すず' なにかありました?)

('堅治' なんだ?)

('夏' なに?)

('zenya' えっとどうかした?)


 みんなすぐに返事をくれた。

 俺は短く、星羅が帰らないと送ると、なにも言わずに、俺の家に来ると返信が返ってきた。

 堅治は家が遠いので、昨日優希くんと遊んだ駅周辺を探しに行ってくれるとの事。

 善夜はそもそも話が分かっていない様子だったが今は気にしていられない。

 遊んでる時に優希くんと連絡先を交換しなかった事が悔やまれる。


 連絡してから、20分ほどして、春風さんがやってきた。


「こんばんは、陽子さん。四宮くんから連絡貰ってきました」


「ありがとう、月ちゃん」


「気にしないでください。四宮くん!私も探しにいく!」


「ありがとう!俺はすぐ出るから、春風さんは今は家に残ってて欲しい!夏木さんたちが来たら3人で一緒にこの周辺を探して!夜だから1人ではダメだよ!3人で!お願いね!」


 俺はそう伝えてから家を出る。

 まずは駅だ。今日も優希くんと遊ぶと言っていたからもしかしたら帰るのが遅くなっただけかもしれない。

 その場合、駅までの道を行けば、途中で会える。


 俺は走って駅に向かう。

 しかし、途中の道でも、駅でも会うことが出来ない。

 次はどこにいこう。そう考えていると春風さんからメッセージが入り、夏木さんと冬草さんと合流出来たらしく、そのまま周辺を探しに行くとの事。


 俺は駅から離れて、中学校やその周辺を探しに向かう。

 頼む、何事もなく無事に見つかってくれ。

 そんな俺の期待を裏切るように、時間だけが過ぎていく。


 午後10時を過ぎても見つからない。

 堅治からも、前遊んだ場所やショッピングモールにも居なかったと連絡が来ていた。


 お金の件が解決し、新しい友だちが増え、完全に気が緩んでいた。

 葛原の事だ。お金の件が解決して、俺の気が緩むのも計算していたのかもしれない。

 葛原関係じゃなかったとしても、なにか事件や事故に巻き込まれているかもしれない。

 時間が経つにつれ、いやな考えばかりが脳裏に浮かぶ。


 そんな時、ポケットのスマホが鳴る。

 星羅からの連絡であってくれと期待するが、表示された名前をみて嫌な予感がした。


 着信相手は、横山架流だった。

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