第53話 弥生優希

story teller ~横山架流~


 僕は後輩に色々と情報を聞いて回っていた。

 すると、後輩の1人が、金城という奴からお金を受け取っていると答えた。

 僕はすぐに金城に会いたいと伝え、呼び出された場所に後輩と共にいく。


 金城の自宅というアパートの下に着くと、後輩がメッセージを送る。

 少し待っていると、丸坊主でガタイのいい、野球部の様な男がエントランスから出てくる。


「こんばんわ。僕は横山って言います。時間取ってもらってごめんね」


「どうも、金城です。話ってなんですか?」


「君が僕の後輩にお金を渡してるって聞いてね?そのお金は金城くんが用意したのかな?」


「いえ、俺も人から受け取ってるだけです」


 後輩から話を聞いた時点で、なんとなく金城が用意したお金じゃないことは予想していた。


「その人って誰か教えて貰えたりする?」


「佐伯優梨愛って女です。そいつも別の人から受け取ってるらしいですけど」


 佐伯優梨愛と言うのは、葛原が自分の身分を隠す時に使う偽名だ。僕は何度か葛原と行動したことがあり、社会人と会う時や、自分の正体がバレたくない時に使っているのを知っていた。

 たぶん、葛原が誰かからお金を受け取っているのはホントのことだろう。

 でもその誰かは葛原にお願いされてお金を用意しているに違いない。

 お金を用意しているのは社会人。そして自分が女子高生であるため、もしなにか不都合が合った時に、自分はお願いされただけ、巻き込まれただけと逃げるための言い訳なのだろう。


 僕はそう考えつき、金城にありがとうと伝えてから、太陽くんにメッセージを送る。


 だけど、葛原が金城や他の人達に、自分が関わっている事を、口止めしなかったのが気になる。まるでわざと情報を与えられている様な。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 放課後、俺と春風さんは星羅を迎えて駅に向かう。

 なんでも星羅の彼氏は他校の人らしく、お互いの友人を通して出会ったらしい。


 電車に乗り、いくつかの駅を通り過ぎて目的地でおりる。

 改札を出ると、男の子が駆け寄ってきた。


「星羅ちゃん、わざわざ来てくれてありがとう」


 男の子は星羅にそう伝えてからこちらを見て、挨拶してくる。


「は、初めまして。弥生優希やよいゆうきっていいます」


「初めまして。星羅の兄の、太陽です」


「初めまして。春風月です。よろしくお願いします」


 俺たちはお互いに自己紹介をしてから、移動する。

 星羅を通して、話したいことがあると前もって伝えているので、駅から離れた場所にある、カフェに入る。

 昨日の時点で、話が出来そうな場所を調べておいたのだ。


 店内は落ち着いた雰囲気で、駅から離れているためか、人が少ない。

 お金の話もあるので、なるべく人に聞かれたくないと思っていたが、大声で話さない限りは人に聞かれることもないだろう。


 俺たちはレジから離れた、壁際の席に座り、注文してから話し始める。


「えっと、優希くんって呼んでも大丈夫?」


 俺がそう聞くと、大丈夫ですとの事なので、今後は優希くんと呼ぶことにする。

 俺は星羅から話を聞いたことを伝えると、見るからに元気がなくなる。


「それで、俺が優希くんに聞きたいのは、そのお金はどこから持ってきてるのかって事なんだけど」


「はい。星羅からも聞いたと思いますが、仲良くしている先輩から受け取ってます。その先輩も別の人、確か金城って人から受け取ってるって言ってました。」


「なるほど。お金はその金城って人が用意してるの?それとも更に別の人が用意してるのか、その辺は聞いたことある?」


「わかりません。俺も金城って人に会ったことないですし、俺の先輩も受け取ってるだけでその辺はわからないみたいです。俺にお金を渡す理由もわからないです。すみません」


「そうなんだ。教えてくれてありがとう」


 俺は優希くんにお礼を言ってから、考える。

 結局、この金城って人がお金を用意しているのか、それとも葛原が何回か人を通して、優希くんに渡すよう指示しているのか、どちらにせよ、このお金は使わない方がいいだろう。


「もう使ってしまったものはしょうがないけど、こんなよく分からないお金は使わない方がいいよ。今後は受け取らないようにね」


「すみません。バイトも出来ないし、お金があれば星羅ちゃんともたくさん遊べるし、使っちゃダメかもと思いながらも使ってしまいました。今後は受け取らないって約束します。ごめんなさい」


 結局詳しいことはわからないままだが、今後お金を受け取らないと約束できただけでもよしとしよう。

 あとは昨日連絡したからの返信を待つしかない。


 話が終わった俺たちは、ここまで来たし、せっかくならという春風さんの提案で4人で遊んでから帰宅した。

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