第50話 思考

story teller ~秋川堅治~


 オレは冬草さんとゲームセンターに来ていた。

 普段はこういう場所に来ないので行ってみたいから連れて行って欲しいと言われたのである。


「堅治くん、これはどう操作したらいいのでしょうか?」


 冬草さんはクレーンゲームを見て、オレに操作方法を聞いてくる。


「このボタンを押すと、アームが横に動いて、こっちのボタンを押すと奥に動くんだ。」


 わかりました、やってみますといってお金を入れて操作するが。

 それぞれのボタンを一瞬だけ押して、位置がほぼ変わらないままアームが下に降りる。


「堅治くん!なんかボタンが効かなくなりました!壊しちゃいました!」


 1人で焦っている冬草さんを見て笑ってしまう。

 可愛いなこの子。


「1回押したら、狙った位置にアームが来るまでボタンを離したらダメなんだ。オレの説明不足ですまん」


「壊してしまったかと思いました。もう一度やってみます」


 そういって、もう一度再挑戦。

 今度はしっかりアームを動かし、景品をしっかりと掴むものの、途中で落としてしまう。


「掴んでも離すなんて・・・卑怯です」


「そういうもんだよ」


 少し怒ったような顔をして、文句を言う冬草さんに、オレがやってみるよと言ってからお金を入れる。

 このタイプは確率機だから、何度か挑戦すれば取れるだろう。そう思っていたが、意外にも1回目の挑戦であっさり取れてしまう。


「堅治くん凄いです!上手ですね!」


「いや、たまたま確率に当たっただけだ」


「確率?」


「いや、すまん、なんでもない」


 オレは取り出し口から景品のぬいぐるみを取り出し、冬草さんに渡す。


「えっ?堅治くんが取ったから堅治くんのものですよ?」


「オレがぬいぐるみを欲しがりそうに見える?冬草さんのために取ったんだから貰ってくれ」


「わかりました。ありがとうございます」


 笑顔でお礼を言いながら、ぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめる目の前の女の子に、オレは思わず見とれてしまう。


「堅治くん?どうしました?」


 じっと見られていることに気づいたのか、心配そうに声をかけてくる。


「な、なんでもない。す、涼は他にやってみたいゲームないのか?」


「あっ、涼って呼んでくれました」


「茶化すなよ、たまにでいいから名前で呼んで欲しいって言ってたから呼んだだけだ」


 オレは恥ずかしくなり、顔を背けた。


 ******


story teller ~四宮太陽~


「星羅からなにか聞けた?」


「うん、聞けたよ」


「もしかして良くない話?」


 俺がそういうと、そうだねと一言言ってから続ける。


「まずはね、帰りが遅い理由なんだけど、彼氏が出来たみたいなの。それで、少しでも長く一緒にいたくて、結果的に帰るのが遅くなってるみたい」


「なるほど」


 まぁ気持ちはわからなくもない。俺も恋人と一緒ならできるだけ長くいたい。現に今も、恋人ではないにしろ、春風さんといるともう少し一緒に、と思ってしまう。

 だからといって、補導の時間を過ぎていい理由にはならないし、せめて連絡はして欲しい。

 これについては再度注意をしなければ。


「他になにか聞けたことはある?」


「うん、お金をだしてくれてるのはその彼氏さんらしいんだけど。そのお金の出処が少し気になって」


 春風さんが部屋に入ってきてからずっと難しい顔をしているのは、そのお金の事が気になっていたのだろう。


「彼氏さんは自分の先輩からお金を受け取ってるらしいんだけど、その先輩も更に別の先輩からお金を受け取ってるらしくて」


「という事は、間接的に誰かが星羅の彼氏にお金を渡してるってこと?」


「そういうことになるよね。もしかしたらもっと他の人を通して渡してる可能性もあるかもしれないなって私は思ったんだけど。こんな事をするのって」


「うん、たぶん春風さんが想像した事と、俺が想像した事は同じだと思う。葛原が間接的に渡してるのかも」


 あくまでも可能性の話であり、その彼氏が嘘をついている可能性も捨てきれない。

 けれども、横山架流が言っていた、葛原が中学生を集めているって話と繋がる気がする。

 だけど、もしそうだとすると、何のために星羅の彼氏にお金を渡しているのか。その理由がわからない。


「どのくらいの金額を渡されてるとかそういう話は聞けた?」


「詳しくは聞けてないらしいけど、星羅ちゃんの予想だと相当大きい額だと思うって言ってたよ」


 もし葛原が渡していた場合、どうやってそのお金を用意したのかも気になる。あいつの事だからお金を用意する為ならなんでもしそうではあるが。


「この話、陽子さんにもする?」


「そうだね。お金が関わってる以上、母さんにもしっかり話はしないと」


「家庭の話だし、口出しするのは違うかもしれないけど、星羅ちゃんを怒らないであげて?本人もそのお金を使わない方がいいって言うのはわかってるみたいだだったし」


 俺から怒ってもウザがられるだけなので、怒るのは母さんに任せようとは思っていた。


「今の話を聞いて思ったんだけど、もしかして星羅の彼氏も葛原と直接繋がってたりしないかな?例えば、葛原に指示されて星羅に近づいたとか」


「確かに、その可能性もあるかも。でも指示されてたとしても、星羅ちゃんがその子の事を好きになるかどうかはわからないよね?」


 葛原と星羅は少し接点があるとはいえ、星羅の好みまで網羅しているとは思えない。

 となると、星羅と付き合った後に接触した可能性もある。

 何にせよ、全てを疑わなければ後手に回ってしまうだろう。

 葛原が関わってない、ただの偶然であって欲しいが。


 考えてても答えは出ないので、俺はスマホを取り出すとある人にメッセージを送る。


 あとは星羅と一緒に母さんに話をしてから、どうするか考えることにした。

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