第42話 新学期

story teller ~葛原未来~


 わたしはベッドに横になりながら、机に上に置かれた写真を遠目に眺める。


 手を繋ぎ、片方は照れくさそうに、もう片方は笑顔で、幸せそうに写る2人。


 その写真を撮った時のことを思い出しながら、今はもうわたしのそばにいない写真に写る太陽くんの事を想い、泣きそうになる。


 ただ、わたしだけを見て欲しかっただけ。

 それなのにわたしから離れてしまった。

 わたしはこんなにも想っているのに。


 秋川堅治にはわたしがされたことをやり返した。

 次はなにをしようか。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 新学期が始まり、最初のHR。

 新学期の行事などの説明が早々に終わり、席替えをすることになった。


「よろしくね四宮くん」


「うん、よろしく」


 俺は春風さんと隣になった。

 個人的にはめちゃくちゃ嬉しい。

 クラスの連中は羨ましがっている。ドヤ顔でもしてやろうか。しないけど。


「四宮くんの隣になれて良かったぁ」


 急にそんな事を言われてドキッとする。


「あっ、光と涼と離れちゃったからね!そういう事だからね!」


 変に期待してしまった。不意打ちは困る。

 めちゃくちゃドキドキする。


 俺たちの席は窓際の1番後ろというめちゃくちゃいい位置であるが、夏木さんは反対側の廊下側の前から2番目。冬草さんは真ん中の列の1番前である。

 俺と春風さんはいいが、2人もせめて近ければ良かったがそれぞれ独立してしまっている。

 それでも2人ともクラスの中にも仲のいい人がいるから寂しくはないだろう。


 それにしても冬草さんと佐々木ってあんなに仲良かったっけ?


 ______


 放課後になり、俺は春風さんを自宅まで送って、自分の家に向かっていた。

 すると前から妹の星羅が歩いてくるのが見えた。


「あっ、お兄ちゃん」


「どこかいくの?」


「うん、ちょっと友だちと遊びに」


「そっか、気をつけて遊べよ」


 俺がそういうと、わかったと一言言って立ち去る。

 最近家にいないことが多いし、帰りも遅い事があるから心配だけど、妹のやる事に口出ししすぎるとウザがられそうだから辞めておこう。

 一応仲のいい兄妹だと思ってるので。


 俺がそんなことを思いながら、家の前まで来ると、男の人が立っている。

 その人は俺の姿を見つけると歩み寄ってきた。


「やぁやぁ、こんばんわ。祭りの日以来だね」


「どうも」


 俺は目の前の横山架流に短く返す。


「なんか冷たくない?僕の事知ってるよね?」


「知ってて、わざと冷たくしてます」


「ひどいなぁ」


 俺の態度も気にせず、ケラケラと笑う。

 この人は相変わらずだ。


「というか、俺の家知ってたんですか?」


「花江ちゃんから聞いちゃった」


 舌を出して片目を閉じる。

 ウザすぎて殴りたくなるな。

 だが、わざわざ花江さんが俺の家を教えたということはなにかあったのかもしれない。


「なにか用ですか?」


「うん、そうだね。花江ちゃんはまだ確証もないから話さなくてもいいんじゃないかっていってたんだけどね。僕としては一応早めに忠告したほうがいいかなと思ってね。太陽くんは聞きたくないかもしれないけど」


 勿体ぶってそういう横山架流は真剣な表情になる。


「葛原が今度は中学生を集めてるって噂をきいたんだよね。」


 横山架流がここまで来て、忠告という言い方をした時点で葛原の話なのは何となくわかっていた。


「葛原関係で一応知り合いもいるし、僕って元々サッカーしてたから、中学にも後輩がいるからさ、そいつらから聞いた話。まだ詳しいことはわからないけど、用心した方がいいよって伝えようと思ってね。」


「でも中学生って俺には関係な―――」


 そこまで言ってから気づく。星羅は中学生だ。

 もしかして、今度は星羅になにかするつもりなのか。


「気づいた?花江ちゃんから聞いたけど、今中学生の妹がいるんでしょ?まぁ君たちの兄妹関係がどんなもんかわかんないけど、兄として一応警戒しといて」


 まだ君の妹になにかしようとしてるかどうかわからないけどね。そう言いながらスマホを取り出し、QRコードを差し出してくる。


「なんですか?」


「なにかわかったら連絡しようと思って。毎回ここまで来るのも大変だしね」


「あなたの目的はなんですか?こんなことをして、なにかメリットがあるんですか?」


「僕のただの優しさなんだけどなぁ。なにか理由が欲しいなら、花江ちゃんの為って事にしといてよ」


「・・・わかりました。連絡先は交換します。でもあなたの事を信用したわけではないので。堅治の事もありますし」


 俺は自分のスマホを取り出し、横山架流のQRコードを読み込む。


「ん、ありがと。なにかわかったらすぐ連絡するからブロックしないでよ?」


 手をヒラヒラと振りながら立ち去る。


 葛原がまたなにかしようとしてるかもしれない。

 それに星羅が巻き込まれるかもしれない。

 そう思うと星羅が最近よく遊びにいくのが少し不安になった。

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