第40話 花火
story teller ~夏木光~
ワタシは聞き覚えのない名前を聞いて、誰?とおもった。
だが、寄宮さんの言うように四宮と秋川は知っているようだ。
葛原未来
その名前を聞いて顔が強ばっているのがわかる。
四宮は呼吸まで荒くなり、秋川が支えている。
四宮がそうなってしまうまでの相手。
「最終的にはきっと太陽くんを手に入れようとしてくるはずです。あの女は諦めていないはずですから。」
四宮を手に入れようとしてくる?諦めてない?
なんとなく理解する。
きっと四宮の元カノかそんなところだろう。
そして未だに四宮に執着している。
だから今回の件も引き起こした。
ワタシは自分の中にふつふつと湧き上がる怒りに気づく。
ワタシの友だちにこんな酷いことをして、自分は表に出てこない。
舐めているとしか思えない。
手を握りしめて、やり場のない怒りを抑え込んだ。
******
みんなは俺が落ち着くのを待ってくれた。
「ありがとう堅治。もう大丈夫」
「あ、ああよかった」
そう言って堅治は俺から離れる。
正直息苦しくて体重を堅治に全て預けていた。
凄くありがたい。
「四宮くん」
春風さんが心配そうに駆け寄ってきてくれる。
俺がその場に座り込むと、隣にしゃがみこんで背中をさすってくれる。優しい。
「堅治も自分のことで大変な時に、ごめん」
「いや、気にするな。正直花江とのことよりもそっちの方が衝撃がデカい」
「それで、四宮くん、葛原・・・さんって」
俺と堅治以外はきっと気になっているだろう。
「ごめん、まだ話したくない。あんまり思い出したくないから」
これは俺の逃げだ。葛原の名前が出てきて、今回の件もあったのだ。きっと今後も関わってくるし、みんなを巻き込むかもしれない。
それなのに、春風さんたちはわかった。と言ってくれる。
そして、話に区切りがついたと判断したのか、堅治が口を開く。
「それで、冬草さん」
「なんですか?」
「さっきの花江との会話だが、その」
歯切れが悪い堅治の発言に冬草さんが固まる。そして目を閉じて、息を吸い込む。
「はい。私は堅治くんの事が好きです。最初にあった日からずっと好きです。」
今度は逆に堅治が固まってしまった。
「あっ、えっと、オレはその・・・」
「はい、分かってます。別れたとはいえまだ花江の事が好きなんですよね?それでもいいです。すぐに忘れろって言う方が無理がありますし」
「別れたばかりで節操ないと思われるかもしれないが、正直ショックがデカい分、その・・・冬草さんの気持ちは凄く嬉しくて、揺らぎそうになる。」
でもと堅治は続ける。
「弱ってる時の一時的な感情で応えたくない。ちゃんと冬草さんを好きになってから応えたい。もしかしたら冬草さんの望む結果とは違う結果になるかもしれないが、少し時間が欲しい。」
堅治が伝えると冬草さんは堅治の前にしゃがみこみ、手を取る。
「はい。待ってます。元々は抑えとく予定だった気持ちですが、バレちゃったなら仕方ありません。花江と別れたのなら私がアタックしても問題ないですし、好きになって貰えるように頑張りますね」
そういうと冬草さんは堅治に笑顔を向ける。
強い人だと思う。
普段は簡単に可愛いとかいって、女の子を照れさせる堅治が女の子に照れさせられてる。
珍しいものが見れた。
「イチャイチャは終わりましたかね。お二人さん」
少し離れて様子を見ていた夏木さんが茶化しながら近づいてくる。
「な、イ、イチャイチャなんてしてない!」
「確かに、手も握って至近距離で顔を合わせてたのでみようによってはイチャイチャかも知れません」
「ほれみろ、イチャイチャじゃないか」
「冬草さんまでなにいってるんだ!」
堅治が2人に弄られてる。
そんな様子をみながら、俺と春風さんは顔を向けあって笑う。
その時。
空がパッと明るくなり、少し遅れてドンッと音が鳴る。
見上げると花火が上がっていた。
「あっ花火の事忘れてた」
「あー!会場で見たかったのに!」
「でもここからでもよく見えますよ?」
「誰もいないし、特等席かもしれないな」
「まぁみんな揃って見れたし、いいんじゃないかな?」
俺たちはお互いにそんな事を言いながら並んで花火を見上げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます