第39話 友だち

story teller ~四宮太陽~


「すみませんでした。」


 横山架流は俺たちに向かって頭を下げる。

 ふざけたような、砕けたような口調、声色ではなく、真剣に。


「僕が花江ちゃんに手を出したのが全ての原因です。許してもらおうとは思いません。それでも謝らせてください。」


 謝罪を聞き、堅治は横山架流に近づく。


「顔を上げてください。」


「はい。」


「1発殴ります。」


「はい。」


 そんな短いやり取りのあと、ゴッっと鈍い音が響き、横山架流の体が倒れ、頬に手を当てている。

 そんな光景を見て、春風さんたちは顔を背けている。


「オレはもう花江の恋人ではありませんが、自分の気持ちの整理を付けるために殴りました。許してください。」


 倒れる横山架流に対してそういった堅治はそれとと続ける。


「オレの代わりに花江のそばにいて、不安の中支えてくれてありがとうございます。」


「な、何言ってるの?僕は君の彼女を寝とったんだよ?」


「それでも、花江の支えになってたのは確かなはずです。」


 堅治は頭を下げてから、横山架流に手を差し出す。

 その手を掴み、立ち上がるが、ふらっと倒れそうになり、横にいた花江さんが支える。


「大丈夫ですか?」


「うん、僕は大丈夫だよ。きっと


 堅治はそのやりとりを見てから数歩後ろに下がる。


「花江、今までありがとう。」


「いいえ、こちらこそありがとうございます。」


 お互いにお礼をいうと、花江さんは冬草さんの元に歩を進める。


「冬草さん。」


「はい。」


「こんなわたくしと友だちになってくれてありがとうございます。迷惑かけてすみませんでした。」


 冬草さんにも頭を下げ、その場を立ち去ろうとする。


「寄宮さん!ううん、花江!」


 冬草さんは振り向いた花江さんを抱きしめる。


「これからも友だちです。私はもっと花江と遊びたい です。もっともっと仲良くなりたいです!」


 冬草さんの思いを聞き、花江さんは泣き出す。


「わたくしは・・・あなたの好きな人をたくさん傷つけました。人として最低な事をしま・・・した。それでも友だちでいていいのです?」


「もちろんです。花江は最低な人じゃありません。ちゃんと謝って、自分でケジメをつけたじゃないですか」


「あり・・・がとうございます」


 2人は抱きしめ合い。泣きじゃくった。


 ______


 2人が落ち着き、花江さんと横山架流は高台に続く階段を降りようとして、こちらに振り返る。


「そういえば、みなさんに忠告があるのでした。」


 俺たちは花江さんに視線を集める。

 忠告?なんだろう。


「堅治さんと太陽くんはわかると思いますが」


 ここで1度言葉を切り、息を整えてから、俺が1番聞きたくない、忘れたい女の名前が花江さんの口から飛び出す。



 春風さんたちは葛原未来?と疑問に思っているようだが、俺は心臓の鼓動が早くなるのを感じる。


 名前を聞いただけで、動けなくなり、呼吸が荒くなる。暑さのせいではない汗が止まらなくなる。


 そんな俺の様子をみて、堅治がすぐに肩を支えてくれる。


「葛原がどうしたんだ」


 堅治は俺の肩を支えながら疑問を口にする。


「情けないですが、あの女に横山さんを紹介され、まんまと策にはまり、今にいたります。たぶん、堅治さんを傷つける為だけにこれだの事をしたのでしょう」


 なんで今更という堅治の言葉を無視して、花江さんは続ける。


「あの女の手のひらの上なのは、正直ムカつきますが、ただこの結果も想定していると思います。」


「オレと花江が別れて、オレを傷つけるためだけに。」


「それでも自分のした事への謝罪と、別れを選んだのは自分の意思ですので。」


「それはわかっている」


 あの葛原の事だからきっと花江さんの性格まで読んでの計画だったのだろう。


「最終的にはきっと太陽くんを手に入れようとしてくるはずです。あの女は諦めていないはずですから。」


「あの、寄宮さん。四宮くんを手に入れるって言うのは?」


 今まで黙っていた春風さんたちだったが、俺の名前が出てきたことで疑問を口にする。


「それは―――」


「花江。」


 花江さんが説明しようとするも、堅治が首を横に振り止めてくれる。


「えっと、詳しくは太陽くんが話せるタイミングで話してくれると思います。ただなにかしてくるのは間違いないと思います。なので、涼、それに春風さんと夏木さんは太陽くんを守ってあげてください。もちろん、わたくしも出来ることがあれば力になります。」


「詳しくは知らないけど、太陽くんがピンチになるかもなんだね?もう知り合っちゃったし、僕も出来ることはするよ」


 2人はそれじゃあと告げると階段を降りていく。

 俺は落ち着くまでに時間がかかりそうだった。

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