第36話 夏祭り
story teller ~花江と関係を持った男性~
僕は隣に座る女の子の頭を撫でながら、大丈夫?と確認する。
「あなたのせいでこうなってしまったんですよ」
「それはそうかも。ごめんね」
「軽すぎます。心が篭ってません」
僕は真剣に謝っている。元々軽く見られがちな人なのは自覚している。けれども無理に真剣にみせれば、逆に気を使わせてしまうだろう。この子はそういう子なのを知っている。
あなたのせいとは言うが、僕のことは拒否しない。
きっと、全部自分が悪いと責めているのだ。
「なぜあなたはわたくしのそばにいてくれるのですか?もうあの女から指示されてるわけじゃないですよね?」
「そうだね。もう葛原は関係ないね。強いて言えば、悪いと思ってるから?」
「なら最初からしないでほしかったです。」
「それもそうだ、ごめんね」
葛原から、男女関係で困ってる女の子を紹介され、この子をあなたの好きにしていいといわれた。
最初はラッキー! くらいの気持ちだったが、いつの間にかこの子の事が好きになっていた。
葛原からはもうやる事やったから捨てていいと言われたが、俺はこの子のそばに居ることを選んだ。
別に弱ってるところにつけ込んで、あわよくば付き合おうとは思わない。
今のところはただ、この子の支えに、逃げ場に、捌け口になれればそれでいい。
******
story teller ~四宮太陽~
夏祭り当日。
俺たちは堅治の自宅近くのバス停からバスに乗り、祭り会場に来ていた。
堅治の様子も2日前に比べるとだいぶ良くなったように見える。
「ほんとに広い会場だね!」
「想像よりも人が多いですね」
無理もない。2年ぶりに来た俺も驚いている。たぶん一昨年よりも人も出店も増えている。
「これは来てるか分からない寄宮さん探すよりも、ワタシたちが逸れないようにするので精一杯じゃないか?」
堅治に聞こえないように夏木さんが耳打ちしてくる。
今は、会場入口付近の人が比較的少ない場所にいるが、会場に入れば、人混みでもみくちゃにされてもおかしくない。
「とりあえずここのイートインスペースって場所目指そ?」
パンフレットに記載されている地図をみながら、春風さんが指を指す。
「そうですね。お腹も空きましたし、そこに行ってから近くの出店で食べ物を買いましょう」
冬草さんの言葉に俺たちは頷き、会場に入るが、入口から見ていたよりも人が多く、前に進めない。
「あっ、四宮くん!」
後ろから声をかけられ、振り向くと春風さんが置いていかれていた。
俺はとっさに春風さんの手を掴み引っ張る。
「四宮くんありがとう」
「逸れなくてよかった」
引っ張った時にそのまま春風さんを抱き寄せる形になってしまったので傍から見るとハグしてるように見える。
俺は急いで手を離し、ごめんと伝える。すると今度は春風さんが手を握ってきた。
「あっ、えっと、逸れると怖いから手繋いでていい?」
頬を少し赤くして上目遣いで聞いてくる。
可愛くて、ドキッとしたがバレないように目を背ける。
「うん、大丈夫だよ。行こっか」
そういうと俺は春風さんの手を引いて、先に進んだ夏木さんたちの後を追う。
______
目的のイートインスペースに付き、俺たちは席を確保する。
距離的には2〜30mくらいだと思うが、ここに来るだけで結構疲れた。
「じゃあ買い出しに行く人とここで残る人に別れようか」
「うん、みんななにが食べたいとかある?」
俺と春風さん、夏木さんが買い出しで、堅治と冬草さんはここで待つ。
これは祭りが始まる前に前もって決めていた。
みんなそれぞれ食べたいものを春風さんに伝え、スマホにメモをとる。
「それじゃ!行ってきます!」
「堅治の事よろしくね」
冬草さんにだけ聞こえるように一言お願いし、俺たちは買い出しに向かう。
イートインスペースのすぐ隣の出店に書いてあるメニューで、みんなが希望した食べ物が揃う事がわかったので、すぐに列に並ぶ。
「秋川くん大丈夫かな。ここまで一言も話さないし」
「一昨日よりはマシに見えるよね」
「少しでも気分転換になるといいけど」
堅治の前ではいつも通り過ごしていた春風さんたちも、心配が勝るようで、少し離れると顔が暗くなる。
俺たちの順番が回ってきたので、出店のお兄さんに注文を伝え、出来上がるのを横に逸れて待つ。
俺はその時に見てしまった。人混みの中で男の人と手を繋ぎ歩いている、花江さんの姿を。
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