第37話 横山架流

story teller ~寄宮花江~


 わたくしは祭り会場に来ていた。

 本来なら堅治さんと来るはずだった祭り。

 今は別の男性が隣にいる。


「なぜあなたと一緒に回らなきゃいけないのですか」


「元々来る予定だったでしょ?僕も暇だったしさ」


 そういって笑顔を向けてくる。

 こういう言い方をするが、この人はきっとわたくしを心配しているのだろう。


「わたくしと一緒でも暇なことに変わりはないとおもいますけど」


 そう言いながらも強く拒絶はしない。

 自分のこういう部分がきっとダメなのだろう。

 だからつけ込まれた。


「僕は祭りってだけで楽しいからいいんだよ。1人で来るのは虚しくなるけどね。ほら逸れないように手繋ご」


 さらっとわたくしの手を取り握ってくる。

 こういう所は堅治さんに似ている。


「せっかく来たんだし、楽しもうよ。今日くらいは僕が奢るよ」


「わたくしはあなたといる時に1度もお金出したことないのですが」


 そうだっけ?とイタズラっぽく笑う顔に、少し心が軽くなる。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 俺は見てはいけないものをみてしまった・・・のか?

 花江さんが男と歩いていた。なぜ?そんな疑問が浮かぶが、ここで見失うともう見つけられないかもしれない。


 そう思い駆け出す。

 春風さんと夏木さんがなにか言っていたが、気にしていられない。

 人混みでなかなか進めない。それでも必死に前に進む。


 2人が向かった方向に進み続け、人混みを抜けると、花火観賞用に設営された広場に出る。

 花火が上がるまでまだ時間があるため、人は多くない。


「どこだ、どこにいったんだ」


 俺は周りを見渡し、2人の姿を探す。


 広場の端の方、少し暗くなっている場所に2人を見つける。

 俺はすぐに駆け寄り、声をかける。


「花江さん」


 俺の声に気づくと花江さんはこっちをみて、そして固まる。


「ここで何してるの?その人は誰?」


「えっとー、僕はもしかして邪魔・・・かな?」


「いいえ、ここに居てください。」


 俺は珍しく少し声に力を込めて、低い声で言い放つ。


「堅治も来てる」


 堅治という俺の親友の名前に、花江さんの肩が少し動く。


「出来ればちゃんと話をして欲しい」


「話すことはなにも・・・ありません」


「あるはずだよ。堅治はなにも聞いてないって言ってたし、納得も出来てない。俺もだし、冬草さんもね」


 また少し肩が動く。冬草さんの名前に反応したのだろう。


「わたくしはもう・・・この人とお付き合いしてます。なので堅治さんとはお別れしました。それだけです。」


 そういうと花江さんは隣の男の手を握る。


「じゃあそういう事なので、僕たちはもう行きますね」


「待てよ。ふざけるな」


 2人の行く手を体で阻み、怒りを乗せて声を出す。

 男の方は、はい、すみませんと少し萎縮する。


「その人とお付き合いしてるから堅治と別れるっていうならそれをちゃんと説明すべきだと思う。いや、そうすべきだ。それが今まで付き合っていた堅治に対してのケジメじゃないか?」


「わたくしは堅治さんとは話したくありません」


「話したい、話したくないじゃない。話さなければならないんだよ。俺が口出しする事じゃないかもしれないけど、それでも俺は堅治も花江さんも納得する形で終わって欲しい。終わらせるならちゃんと話し合って終わらせて欲しい。堅治の中ではまだ終わってないから。」


 俺の言葉になにも言い返さず、じっと黙っている。

 すると男の方が口を開いた。


「うーん。ごめん、花江ちゃん。正直この人の言う通りだと思う。必要なら僕も説明するからさ。一緒に話に行こ?」


 意外だった。この人はてっきり花江さんの肩を持つものだと思っていた。


「僕は横山架流よこやまかける、えっと君の名前は?」


「俺は、四宮太陽です」


「うん、太陽くん。ごめんね、その堅治くん?のところに案内して貰える?花江ちゃんは僕が連れていくからさ」


 口調はふざけているが、表情や態度はマジメに見える。

 俺はわかりましたと伝えてから、春風さんたちにメッセージを送る。

 花江さんを見つけたから、合流しようと。

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