第35話 可能性
story teller ~春風月~
帰りの電車の中、ずっと涼の手を握っていた。
顔や態度には出さないが、自分のせいかもしれないと心の中で責めているだろう親友を、上手く慰めることが出来ずにいた。
黙って電車に揺られ、窓の外の風景を眺める。
「私が舞い上がっていただけかもしれません。」
そう呟く涼が、私の手を少し力を入れて握り返してくる。
「堅治くんへの気持ちを諦めなくていいんだと。素直に話せば寄宮さんとも仲良くなれると。恋も友情もどちらも上手くいくと。」
誰もなにも答えない、けれど光も四宮くんも涼をしっかりと見て話を聞いている。
「私は、皆さんに、寄宮さんの優しさに甘えて、1人ではしゃいで、自分が情けない。」
そういって涙を流す親友を黙って抱きしめ、大丈夫だよ、涼は情けなくなんかないと声をかけることしか出来なかった。
******
story teller ~四宮太陽~
「寄宮さんから連絡きた?」
「ううん、メッセージは送ったけど未読のままだね」
翌日、俺の部屋にみんなが集まっていた。
「寄宮さんと連絡が取れないと、話し合うことも出来ないし」
「それについてはなんとかなるかもしれない」
俺がそういうと、みんなの視線が集まる。
「昨日、母さんに言われて思い出したんだけど。俺の地元では毎年夏祭りがあるんだ。」
「夏祭り、ですか・・・?」
「うん、花火も上がるから周りの街からもそこそこ人が集まる結構大きな祭りなんだけど。」
俺はスマホでその祭りを検索し、みんなに見せる。
聞いたことはあるが、行ったことは無いようだ。
この時期はどこの地域も祭りをしているから、基本的には自分の地元の祭りに参加するのだろう。
「この祭りがどうかしたんですか?」
「この祭りに花江さんのお父さんの会社が協賛?スポンサーとしてお金を出してるって話を思い出したんだ。」
「それと今回の件はなにが関係してるの?」
春風さんと冬草さんはまだ気づいていないようだが、夏木さんはなんとなく察したようだ。
「花江さんも花火を見に行くらしい。だからもしかしたら会場で花江さんに会えるかもしれない」
俺がそういうと、春風さんと冬草さんもなるほどと頷く。
「さっきも言ったように、そこそこ大きな祭りだから、正直会える可能性は低い」
それでも少しでも可能性があるなら、行く価値はある。
「祭りに堅治くんも誘って、出来れば話し合いの場を作ることが出来るかもしれないと言うことですね」
「そういうこと。堅治や花江さんからしたらありがた迷惑かもしれない。でももし花江さんに会えなくても、堅治の気分転換にもなるかもしれないし」
「確かに、いい案かもね。それで祭りはいつ?」
「明後日だね」
「じゃあ私たちは明後日の予定を空けておけばいいんだよね?」
「うん、急な話だけど大丈夫?」
俺の問いかけに、3人は大丈夫と答えてくれる。
「じゃあ当日はみんなで集まってから、堅治の家にいこう。おばさんには俺から連絡しておくから」
「ありがとう、四宮くん。他に私たちに出来ることはあるかな?」
「今のところは大丈夫。当日は堅治の事を任せる事があるかもしれないから、もしそうなったらお願いしたい。」
「うん、わかった!任せて!」
「まぁもし話し合いが出来なくても、いい気分転換になるように、ワタシたちはなるべくいつも通りで。逆に秋川に気使われたら元も子もないし」
それもそうだとみんなで頷き、俺たちの計画は決まった。
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