第33話 未読メッセージ

story teller ~葛原未来~


 思い通りになった。


 わたしは思ったよりも簡単に事が運んだことが嬉しくて笑ってしまう。


どうしたの?」


「ううん、なんでもないよ」


 隣で寝ている、佐々木という男にそう返す。


 結局は寄宮花江もただの女だったのだ。

 あんなに毅然とした態度で秋川の事を信じていると言っても、少し不安を煽れば、勝手に寂しくなり、不安は大きくなり、わたしが相談相手にどうぞとあてがった男に簡単に体を許した。

 お嬢様で門限が厳しいこともあり、放課後に会えない秋川よりも、少しでも会える男を選ぶ。


 あとは、冬草という女から直接秋川の気持ちを聞けば、あの女は冬草に秋川を譲る事も想定内。


 秋川は最愛の人を失う。その後は死のうがなんだろうがどうでもいい。

 わたしから最愛の人を奪ったのだから、秋川も奪われるべきなのだ。


 気分がいいのに、佐々木はわたしの胸を触ってくるので萎えてしまった。


「もっかいしたい」


 この男は性欲が強くて困る。

 デカいから捨てるのは勿体ないが、そろそろ切ろう。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 母さんに事情を説明したが、はいはいと流されてしまった。絶対に勘違いしてる。


 俺は諦めて部屋に戻り、春風さんに1度出てもらってから着替える。


 扉をあけて、再度部屋に入ってもらう。


「さっきはほんとにごめんね。私の不注意のせいで」


「ううん、大丈夫だよ。むしろ俺の方こそごめん」


 気まずい空気が流れる。


「そ、そういえば聞きたいことって?」


 俺は沈黙に耐えきれず、家に来た理由を尋ねる。


「あっそうだった!えっとね、4日前に、涼から秋川くんにメッセージを送っても既読がつかないって連絡が来てて、私も送ってみたけど既読にならなくて。四宮くんならなにか知ってるかなと思って」


「いや、俺はなにも知らないし、なんなら俺のメッセージにも既読ついてないよ」


 俺は一昨日にメッセージを送っているが、冬草さんはそれよりも前から既読がついてない?

 さすがにおかしいと思う。


「それとね、涼はその次の日に寄宮さんにもメッセージを送ったらしいんだけど、そっちも既読にならないらしくて」


 2人とも既読がつかない。なにかがあったとしか思えない。


 急に不安になり、春風さんと顔を合わせる。


「堅治の家に行ってみようか?」


「それがいいかもしれない」


 俺たちは急いで堅治の家に向かった。


 ______


 電車をおり、15分ほど歩くと堅治の住むマンションについた。

 俺と春風さんが堅治の家に行くと連絡すると、夏木さんと冬草さんも来てくれた。


 エレベーターに乗り込み、8階を押す。


「秋川と寄宮さんどうしたんだろう」


「携帯が壊れてるとかですかね」


「2人も同時にそんなことはないと思う」


 それぞれが心配そうに話していると、エレベーターが8階に止まる。


 急いで804号室の前に行き、インターホンを押す。

 中からはい、と元気の無い声が聞こえるが、間違いなく堅治の声だ。


「堅治、俺だよ!開けてくれないか?」


「ほっといてくれ」


「ほっとけない!開けてくれ!」


 何度かドアも叩くが、声も聞こえなくなる。

 近所迷惑にもなるし、あまりしつこくも出来ない。


 4人でどうしようかと迷っていると


「太陽くん?」


 聞き覚えのある声がし、通路をみると堅治の母が立っていた。


「お久しぶりです、おばさん」


「久しぶり。えっとその子たちは・・・?」


 そう聞かれた春風さんたちはそれぞれ自己紹介をする。


「あの子、花江ちゃん以外のお友だちもいたのね」


「四宮くん経由で仲良くなったんです。えっと、それよりも秋・・・堅治くんと連絡が取れなくて、会えないかと思って来たのですが」


 冬草さんは、秋川くんから堅治くんに言い直し、おばさんにここに来た理由を伝える。


「わざわざ、心配して来てくれたのね。ありがとう」


 ______


「ありがとうございます、おばさん」


「いいのよ、堅治のことよろしくね」


 俺たちは堅治のお母さんのおかげで、堅治の部屋に入ることが出来た。

 部屋は散らかっていて、堅治もずっと部屋から出ていないのか、髭も伸び、髪もボサボサである。


「堅治、ずっと連絡も取れないから心配してきたんだけど、なにかあったのか?」


 なにかがあったことは明白だが、敢えてそう聞く。

 堅治はずっと俯いたまま壁に背を預けてこちらを見ることも無く、黙っている。


 俺たちもただただ黙って堅治が話してくれるのを待つ。


 どれくらい時間がたっただろうか。

 俯いていた堅治が顔をあげ、焦点の合わない目をこちらに向ける。


「―――――たんだ。」


 小声でなにかを言っている。

 俺がもう一度頼むといい、堅治に耳を近づける。


「花江に振られたんだ。」


 今にも消えそうな声は、散らかった部屋の中で反響し、俺たちの鼓膜を揺らした。

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