第31話 帰りの想い
story teller ~冬草涼~
「飲み物買いに行きますが、皆さんの分も買ってきましょうか?」
そうみんなに声をかけると月と光からお願いしますと返答がくる。
「別に飲み物なら、オレと太陽で買いに行くけど?」
「そうだね。冬草さんは休んでていいよ?」
ありがたいことに、秋川くんと四宮くんはそういって立ち上がろうとするが、寄宮さんともっと仲良くなりたいからと伝え、寄宮さんを連れ出す。
もう既に午後3時を回っていて、寄宮さんはそろそろ帰る準備をしなければならないはずなので、今しかないと思ったのだ。
「ごめんなさい。連れ出して大丈夫でした?」
「全然大丈夫ですよ?どうしかしました?」
念の為確認するが、きっとなにか話したいことがあると察してくれたのだろう。優しい人だ。
「これから、もしかしたら寄宮さんには嫌な気持ちになるような事を言うかもしれませんが聞いてくれますか?」
そう前置きすると、どうぞと言ってくれる。
「非常に言いにくいのですが・・・・私は男性として、秋川くんの事が好きです。こんな事言われても迷惑かもしれませんが、別に告白しようと思っているとかではなく、ただ好きでいるだけにしておきますので、それを許してくれませんか?」
緊張で少し早口になってしまう。
頭を下げて、返事を待つ。
ほんの数秒の時間が、物凄く長く感じる。
「冬草さん。顔を上げてください」
そう言われて、私は恐る恐る顔を上げる。しかし、寄宮さんはいつもと変わらず、優しい笑顔を向けていた。
「なんとなくそうなのかなって思ってました。勉強会の時の反応とか、堅治さんと話してるところを見ていると。最初はもちろん、嫌だなって気持ちになりましたけど、冬草さんと話していくうちに、いい人だな、この人とちゃんと友だちになりたいなって思いました。もちろん、他の皆さんもです。」
私の手を取り、改めて私の目を見る。
「でも、わたくしはきっと冬草さんには嫌われてるって思ってました。わたくしの勘ですが、好きな人の彼女なわけですから、嫌われても仕方がないですし、もしかしたら私に隠れて告白されても仕方がないなと思ってました。それでも冬草さんは勇気を出してわたくしに話してくれました。それが嬉しいです。ありがとうございます。」
ぺこりとお辞儀をし、顔を上げ、私の言いたかった言葉を先に伝えてくれる。
「わたくしと友だちになってくれませんか?」
「私が先に言おうと思ったのに・・・。こちらこそ、よろしくお願いします」
寄宮さんの優しさが嬉しくて涙が出てくる。
最近は泣いてばかりだ。
「もっと早く友だちになりたかった・・・でもこれで任せられる」
そう小声で呟く寄宮さんにどういう事ですか?と聞くもなんでもないですよと返される。
その時の寄宮さんの顔は、嬉しそうでも寂しそうでもあった。
******
story teller ~四宮太陽~
海で一通り遊び、帰路につく。
堅治と花江さんはこの辺に住んでいるので、海でそのまま別れた。
俺たちは駅のホームで帰りの電車を待っていたが、朝早くから集合し、炎天下の中ではしゃぎすぎたせいで、めちゃくちゃ眠たい。
春風さんたちもウトウトしているのか、ベンチに座り、頭が上下に動いている。
数分たち、やっと電車が来たので乗り込み、空いている席に座る。
車内にはほとんど人がおらず、静かなため、電車の走る音と適度な揺れで眠気が増す。
俺、春風さん、夏木さん、冬草さんの順に座っていて、横を見ると3人とも仲良く体を寄せあって眠っていた。
その光景を微笑ましいと思いながらも今日は楽しかったなと思い出に浸っていると、電車が少し揺れ、春風さんの頭が俺の肩にもたれる。
顔のすぐ側に春風さんの頭がある。
とたんに緊張してくる。なんかいい匂いもするし。
起こさないように注意しながら、チラッと顔を覗き込むと、いつもの無邪気な笑顔はなく。安心しきった子供のような寝顔があった。
これは可愛すぎる。
もう少し見ていたいが、人の寝顔を勝手に見るのは良くないと言い聞かせ必死に耐えた。
______
俺たちは電車を降り、自分たちの住む街へと帰ってきていた。
駅を出たあと、夏木さんと冬草さんは用事があるといって2人でどこかにいってしまったので、春風さんを自宅まで送る。
「もたれて寝ちゃってほんとにごめんね」
電車を降りてから何度目かの謝罪を受け、ほんとに大丈夫だから気にしないでと返すし、恥ずかしそうに俯きながら歩く姿をみて、寝顔を見てごめんなさいと心の中で謝罪する。
そこからはお互いに黙ったまま歩いているとあっという間に春風さんの家に着く。
春風さんは門をあけ、階段を登るとくるりと振り返り、満面の笑みで
「今日はほんとにありがとう!凄くたのしかった!四宮くんともっと遊びたい!夏休みたくさん遊ぼうね!」
そういうとバイバイ!と手を振り玄関に入っていく。
俺もバイバイと手を振り返し、足早にその場を立ち去り、角を曲がって春風さんの家が見えなくなるとその場にしゃがみこむ。
自分の鼓動が早いのを感じる。
俺は春風さんの笑顔を見て自覚した。
気のせいであって欲しい、気の迷いであって欲しい、勘違いであって欲しい。
今まで自分の気持ちをそんなふうに誤魔化して、蓋をしていた。
でも今、自覚してしまった。気づいてしまった。
俺はずっと前から。たぶん出会った時から。きっと一目見た時から。俺はあの子が。あの笑顔が似合う女の子が。春風月という素敵な女の子が好きなのだ。大好きなのだ。
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