第30話 海

story teller ~夏木光~


 ワタシと月は涼の家に来ていた。

 涼に話があると呼ばれたのである。


 なんとなく、秋川の事だろうなと想像していたが、涼の顔は憑き物が取れたようにスッキリしているように見えた。


「それで話って?」


「えっと、秋川くんの事なのですが」


「秋川くんの事?」


 ワタシはやっぱりと思う。


「はい。実は私、秋川くんの事を好きになってしまいまして」


「えっ!?いつから!?」


 何も知らない月はめちゃくちゃ驚いている。


「知り合ったその日です。自分でも単純なのはわかってますが、それから会う度にどんどん好きになっていきまして」


「そうだったの!?全然気づかなかったよ」


「ワタシは何となく気づいてたけどね?」


「「えっ!しってたの(ですか)!?」」


 ワタシの言葉に2人が驚く。なんでわかったの?と聞かれ、なんとなくそうかなって思っただけと返す。


「それでその、光は気づいてたみたいですが、私としては2人にもこの事は隠しておこうと思っていんです。でもある人に、友だちならちゃんと話せばわかってくれると言われまして。」


「それで話そうって思ったわけか。諦めるって事?」


「ううん、違うんです。諦めきれないので、密かに好きでいようって決心しました」


 ワタシは予想外の答えに少しびっくりする。


「諦めきれない、でも告白すると今の関係も壊れてしまうかもしれないので、秋川くんと四宮くんには内緒で好きでいようと」


「でもそれってキツくない?無理してない?」


「無理はしてません。もちろん、寄宮さんにもちゃんと話します。その上で友だちになってくださいって言おうと思ってます」


 涼が決めたことなら口出しはしない。それに寄宮さんもきっと涼がちゃんと話せばわかってくれる人だと思う。


「だから、2人には友だちとして、少し恥ずかしいお願いがあります」


 そういうと涼は少し緊張気味に、恥ずかしそうに言葉を発する。


「も、もし私が、キツくなったら支えて欲しいです。泣くかもしれないので、受け止めて欲しいです」


 きっと涼はワタシが思うよりもずっと悩んでいたのだろう。

 諦めたくない。でも諦めないといけない。

 ワタシたちと四宮や秋川との関係を壊さないように。どうしたらいいか。どうすればいいか。

 そんな涼の気持ちを想像して泣きそうになる。横を見ると月は既に泣いていて、それを見て、ワタシも我慢できなくなる。

 ワタシたち3人は抱き合いながら気が済むまで泣いた。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 夏休みも1週間が過ぎ、俺たちは俺と堅治の地元にある海に来ていた。

 普段そんなに人のいるような場所では無いが、それでも夏になると海目当てでそこそこ賑わう。


 俺と堅治は先に着替え終わり、女の子たちを待っている間に荷物を運んだり、パラソルを設置したりしていた。


「にしても暑いな。暑すぎる。」


「そうだな、これは体調管理気をつけないと倒れるかも」


 汗だくになりながらも2人で設置したパラソルの下で休む。陰に入っても気温が高いからあまり変わらない。

 ぼーっと海を眺めていると、女の子たちが準備を終えてやってきた。


 春風さんは、ピンク色のワンピースタイプの水着で胸元にシースルーのレースが風に揺れている。

 物凄く似合ってて可愛い。脚とか腕とか色々と出てて目のやり場に困る。

 そんな俺と目が合うと、恥ずかしそうに俯いてしまった。引かれてないといいけど。


 夏木さんは上は白のTシャツを付けていて、下はショートパンツタイプの青色の水着をつけている。こっち見んなと言われてしまった。怖い。


 冬草さんは白のハイネックタイプの水着で、下はスカート型になっている。めちゃくちゃ恥ずかしいのか顔が赤くなっている。


 花江さんは黒のビキニだ。1番露出度が多いが、人の彼女なので見ないようにしないと。うん。


「四宮くんも秋川くんも準備ありがとう」


 春風さんが労ってくれる。


「月は四宮に日焼け止め塗ってもらわなくていいの〜?」


「な、何言ってるの!さっき光が塗ってくれたじゃん!」


 ニヤニヤしながら、茶化す夏木さんに、顔を真っ赤にしながら両手でポコポコ叩いている。

 凄く可愛い。でも色々と揺れてるから直視したらダメな気がする。


「も、もう早く海入ろ!」


「よし、楽しも!」


「準備運動しないのですか?」


「そうですよ皆さん、足とか吊ったら大変なんですから!」


 女の子たちはみんな騒ぎながら海に駆け出す。

 もう水着も見れたし、帰っていいんじゃないこれ。暑いし。

 俺はパラソルの下から元気な女の子たちを眺めながら、そう思った。

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