第29話 ある出会い。

story teller ~冬草涼~


 夏休みに入って1日目。

 私はクラスメイトの男の子に呼ばれて出かけていた。

 なんでも私に会いたいという他校の女の子がいるらしい。


 カフェに入り、男の子について行くと、壁際の席に座る女の子を紹介される。


連れてきましたよ」


「ありがとう、佐々木くん。またあとで連絡するからその辺でブラブラしてていいよ」


「はい、楽しみにしてます」


 佐伯さんと呼ばれたその女の子には見覚えがないがとても可愛く、優しそうに見えた。


「えっと、私に会いたいって聞いたんですけど、どこかで会ったことありましたか?」


「ううん、初めましてだよ。佐伯です。よろしくね」


「あっ、初めまして。冬草です。よろしくお願いします」


 やはり、会ったことはないらしい。

 お互いに挨拶をし、失礼しますと一言言ってからイスに座る。


「それで、なにか私に用ですか?」


「用というか、この前秋川くんと一緒に歩いてるところを見かけて、佐々木くんに聞いたら同じクラスだって言うから少し話してみたいなと思って。あっ、わたし秋川くんとは同じ中学だったからさ」


「秋川くんと同じ中学だったんですね!」


 少し不審に思ったが、前に秋川くんと遊んだ時もこの辺にいたから、その時にみかけたのだろう。


「それで、冬草さんは秋川くんと付き合ってるの?」


 佐伯さんはテーブルから身を乗り出して聞いてくる。

 この手の話が好きなのだろうか。


「い、いえ私と秋川くんはただの友だちですよ。それに秋川くんには彼女がいますし。同じ中学だったなら寄宮さんも知ってますよね?」


「うん、知ってる!そっかあの2人まだ付き合ってたんだね。私はてっきり冬草さんと付き合ってると思ったのになぁ。お似合いだったし」


「お、お似合いだなんて。そんな事ないですよ。」


 お似合いと言われて少し照れてしまう。


「でも反応を見るに、冬草さんは秋川くんの事好きなんじゃない?」


 私ってそんなにわかりやすいのかと驚く。


「好きじゃないですよ。あっ、もちろん友だちとしては好きですけど」


 自分で否定しておいて胸が苦しくなる。

 それもバレているのか、佐伯さんはほんとは?と再度聞いてくる。


「えっと」


「顔に出てるよ。誰にも言わないから。2人だけの秘密だからさ。わたしは別に秋川くんと仲がいいわけじゃないからさ、安心して?」


 そう言われて、心が緩む。

 月にも光にも言えず、もちろん四宮くんや秋川くんにはもっと言えない自分の気持ち。

 言えばみんなの関係も壊してしまうかもしれない。

 秋川くん、寄宮さんにも迷惑をかけてしまうかもしれない。

 1人で我慢して、抑え込んだ気持ちを吐き出したい。


「ほんとは・・・好きです。秋川くんが。」


 うんうん、と何も言わずに佐伯さんは聞いてくれる。

 出会ったばかりの人に自分の気持ちを話す事になるとは思わなかったが、1度認めてしまうと、抑え込んだ、抑え込まないといけない気持ちが一気に溢れる。ずっとずっと1人で悩んで、苦しんで、我慢していた気持ちが。

 否定せず、ただただ黙って聞いてくれる目の前の女の子に、甘えてしまう。


「ほんとは私が付き合いたいです。私だけを見て欲しいです。そんなわがままを言えたら楽なのに。友だちにも迷惑をかけるから言えないし、相談も出来ない。今の関係が壊れるのも嫌だ。それに寄宮さんとも知り合ってしまった。寄宮さんもいい人だった。私の好きな人の恋人だから、嫌いになりたいのに。寄宮さんの事を嫌いになれなくて。この人には適わないって思ったから。諦めなきゃいけないはずなのに。どうして私はどんどん彼の事が好きになるんだろう。簡単に好きになったのに、簡単に嫌いになれなくて、諦めきれなくて。諦めたくなくて。私は私を嫌いになっていくんだよ。」


 周りに他のお客さんもいるのに、お構い無しに涙が溢れる。普段の口調も崩れる。

 そんな私の横に座り直し、佐伯さんは私を抱きしめ、頭を撫でてくれる。


「泣いていいんだよ。今はたくさん泣こ。」


 私は子供のように泣きじゃくった。





 少し時間が経ち私が泣き止むまで、佐伯さんは私を抱きしめてくれていた。


「すみません、お見苦しいところを見せてしまいました。」


「ううん、スッキリした?」


 佐伯さんは優しく微笑む。


「話、聞いてくれてありがとうございます。」


「いいんだよ。それでさ、アドバイスって程じゃないんだけど、別に無理に諦める必要ないと思うよ?」


「えっと、どういう事ですか?」


「別に寄宮さんから秋川くんを奪おうって訳じゃなくて、密かに思っとく分にはいいんじゃないかな?」


 なるほどと思うが、それだと寄宮さんに申し訳ない気持ちになってしまう。


「寄宮さんに申し訳ないって思ったでしょ?」


 この人はエスパーなのかと思うほど、私の気持ちを読んでくる。


「そう思うなら、寄宮さんにはちゃんと言えばいいと思うよ?私は秋川くんが好きです。でも告白するつもりはありません。だから密かに好きでいることを許してくださいって。その上で私と仲良くして欲しいですって」


「でもそれだと結果的に私たちと秋川くんの関係が崩れてしまいませんか?」


「わたしは寄宮さんとも同じ学校だったし、何度も話したことあるけど、そんな事言われたからって冬草さんの事嫌いになる人じゃないと思うし、秋川くんに告げ口するような人でもないと思うよ?」


 それは私もそう思う。まだ1度しか会ったことはかいが、寄宮さんはいい人だと何となくわかる。きっと私が素直に秋川くんの気持ちを伝えたなら、ありがとうと言ってくれる人だと思う。

 そんな人だからこそ、秋川くんも好きになったのだと思う。自分とは違う。

 それでも怖い。


「まぁその辺は冬草さんの判断だけどね?友だちとして仲良くしたいなら、しっかりと伝える事も大切だと思うよ?それこそ、何も言わずに秋川くんに告白するよりは、寄宮さんに伝えて、密かに好きでいる方が誠実だと思うからさ」


 そうなのかもしれない。


「それに、ほかの友だちにもずっと黙ってたんでしょ?ちゃんと話せばわかってくれるし、慰めてくれるはずだよ」


 そう言われて、私は月と光に話すことにした。

 佐伯さんに出会えてよかった。連れてきてくれた佐々木くんにも感謝しなければ。


 この時の私は、あんな事が起こるなんて思ってもいなかった。

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