第20話 カラオケ

story teller ~とある人物~


 ある日、人には見せられない姿をある人に見られた。

 でもその人は普段とは違うわたしをみても、引くどころか魅力的だと答えた。

 その日からわたしの中はその人で満たされた。

 毎日その人のことを考えては、幸せになっていった。


 でもその人はどんどんとわたしを置いて大人になる。

 わたしだけのものじゃない、みんなのものになる。


 だから、わたしは噂を流し、その人を孤立させた。

 その人の弱った心につけ込めば、わたしだけのものになると思ったから。


 でもたった1人、彼の親友だけは彼を見捨てなかった。その親友はわたしの誘惑にも靡かず、彼を守り続けた。

 あいつさえいなければ今頃、彼はわたしのものだったのに。


 その男は今も彼を守り続けているだろう。

 邪魔で邪魔で仕方がない。


 ******


story teller ~四宮太陽~


「俺カラオケって久しぶりだから、少し緊張してきた」


「わ、私もなんだか緊張してきました」


 放課後、俺たちは作戦を実行する為に、早速カラオケへと足を運んでいた。


 受付を済ませ部屋に入る。コの字型のソファがある部屋で、俺と春風さんが隣同士に座り、扉の近くに、夏木さんと冬草さん、奥に堅治という座りになっている。もちろん、作戦のために春風さんが誘導したのだが、隣に座る春風さんはなぜかソワソワしているように見えるし、耳も赤い。


 締め切った部屋で暑いのかな?あとでさりげなく空調を調整しておこう。


 ______


 何曲かみんなで歌い、堅治の入れた曲が流れ始める。このタイミングだと思い、斜め向かいの冬草さんを見ると目が合い、無言で頷く。それを見た俺は隣に座る春風さんにアイコンタクトを送るも、一向にこっちを見ないので仕方なく小声で耳打ちする。


「春風さん」


「ひゃい!」


 春風さんは驚き体を飛びあがらせる。急に耳元で話しかけた事をすぐに謝罪する。


「ご、ごめん」

 

「い、いえ、大丈夫です。えっとそろそろ?」


「うん、始めよう」


 俺の向かいに座る夏木さんが俺と春風さんをみてニヤニヤしているが、このタイミングで動かないと同じ手は使えないかもしれないと思い、深く考えないでおく。


 俺はお手洗いに行ってくると伝えて、部屋を出るとそのままトイレを通り過ぎ、1度お店の外まで出る。

 春風さんはみんなの飲み物をドリンクバーに取りに行くのを口実に、夏木さんに手伝いをお願いし、部屋の外に出す役だ。


 そして部屋には冬草さんと堅治の2人だけが残り、その間に冬草さんが堅治に話を聞く。

 それが終わればグループチャットにメッセージを送るから俺たちは部屋に戻るという作戦。


 なかなかいい作戦だと思う。

 時間はかなり少ないが、春風さんはいざとなれば1度飲み物を部屋に置いて、夏木さんをお手洗いに誘うと言っていたので問題ないだろう。


 でもなんで女の子はいつもみんなでトレイに行くのだろうか。すごく不思議だ。

 今回はそのおかげで時間を稼げるかもしれないのでその習性?に救われるかもしれない。




 数分経ち、連絡を待っているとスマホが震え、春風さんからのメッセージが入る。


('MOON' 四宮くん。作戦失敗かもしれない。)


('SUN' なにかあったの?)


('MOON' えっとね、さっき飲み物置くために1度部屋に戻ったんだけど、その時に、秋川くんはいつも通りだったんだけど、涼が俯いてて。今は念の為光を連れてトイレに来てるけど)


 ダメだったかもしれない。俺もそう思い、春風さんに、諦めて部屋に戻ろうとメッセージを打ち込もうとしたが、そのタイミングで新着メッセージが入る。


 新たに届いたメッセージを開いて、余計訳が分からなくなる。


('すず' えっと、なぜか秋川くんに遊びに誘われました。)

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