第21話 チャンス?
story teller ~冬草涼~
斜め向かいに座る四宮くんと目が合う。
私は意図を汲み取って頷く。
四宮くんは月にもアイコンタクトを送ろうとしているが上手くいかず、耳元でなにかを話す。
それにびっくりして、飛び上がる月を見て、微笑ましいなと思った。
四宮くんが席をたち部屋を出て程なく、曲が間奏に入ると月がその場にいる全員に声をかける。
「わ、私みんなの飲み物取ってくるけど、なにがいい?」
作戦の事を意識して緊張しているのか、少しどもっていた。
「ホットコーヒーをお願いします」
「じゃあオレはメロンソーダお願い」
私と秋川くんに続いて、ワタシはね〜と光も続くが
「ひ、1人で全員分は大変だなぁ〜。あっ光手伝って!」
「あっちょ、月!」
と全員分のコップをトレイに集めて、月が光の腕を取り部屋を出る。
前もって準備していたのか、セリフが棒読みだ。
作戦通り、秋川くんと2人きりになったが、改めて意識すると緊張する。
今朝、秋川くんには彼女が居ることを知ったが、数時間で気持ちを整理出来るほど、私の心は都合よく出来ていない。
彼の事を考えれば考えるほど好きになっていた。
それでもそれとこれとは別!と自分の気持ちを抑えつける。
秋川くんの入れた曲が終わり、光となにがあったのか聞こうとした時、私よりも先に秋川くんが口を開いた。
「冬草さん、次の日曜日、よかったらあそばないか?」
一瞬なにを言われたのか、理解出来ずにフリーズする。
えっ?日曜日?あそぶ?誰と?
「えっ、誰とですか?」
無意識に私は口に出していた。
「ん?オレと冬草さん。2人で会えないかなって思ったんだけど迷惑だった?」
秋川くんは普段と変わらない笑顔でこっちを見ている。
数秒たち、少し頭が落ち着いた頃に言われた事に気づく。そして落ち着けば落ち着くほど、心臓の音が速くなる。
恥ずかしさと嬉しさと申し訳なさとで、顔を伏せてしまう。
これはデートのお誘い、、、?
部屋に月と光が入ってきた気がしたが、気にしていられない。
「迷惑だった?急にごめんな。忘れてくれて大丈夫」
秋川くんがそういうと同時に顔を上げる。
「迷惑じゃないです!是非行きたいです!」
私は作戦の事など頭から抜け落ち、このままではデートに行けなくなる。と咄嗟に叫んでいた。
テーブルの上のマイクが私の声を拾い、キーンと部屋に響く。
「びっっっくりした!ははっ、冬草さんってこんな大きい声出せたんだ」
そういって耳を抑えながら笑っている秋川くんを見て、ハッと我に返る。
部屋を見渡すが、月と光はいつの間に居なくなっていた。
作戦通り、トイレに行ったのだと理解する。
「じゃあ日曜日よろしくな!」
「は、はい、よろしくお願いします」
月と四宮くんに報告しないと。
そう思いスマホでグループチャットを開き、文字を打ち込む。
******
story teller ~四宮太陽~
('MOON' そんな事があったんだね)
('すず' すみません、逆にチャンスかと思いまして。)
('SUN' 確かに、堅治と2人で遊ぶなら色々聞けるチャンスかもしれないけど)
('すず' すみません。来週は球技大会もありますし、光と秋川くんの事急ぎすぎましたか?)
('MOON' そういえばそうだった!球技大会あるんだ。それまでにどうにかしたいけど、時間が無さすぎるね)
('SUN' それもそうなんだけどさ。)
('MOON' やっぱり秋川くんの彼女さんの事、気になる?)
('SUN' うん。なんていうか、大丈夫なのかなって)
('すず' それは確かに気になります。今更不安になってきました。)
('MOON' 一応、秋川くんから誘ってきたんだし、大丈夫なんじゃないかな?彼女さんには申し訳ないけど。)
堅治から誘ったということは大丈夫って事なんだろうけど、花江さんには嘘をついて遊びに行くのか、ちゃんと許可を取って遊びに行くのか。
それを確認しない事には、いくら自分たちの交友関係の事とは言え、冬草さんを送り出せない。
俺は堅治のトーク画面を開き、メッセージを送る。
('SUN' 冬草さんの事を遊びに誘ったらしいけど、花江さんにはちゃんと話したのか?)
いつもなら比較的レスポンスが早いはずなのに、今日は既読もつかない。
今日も夏木さんとは話さず、目も合わせずな感じだったが、カラオケ自体は楽しんでいたように見えた。
なので、疲れて寝ているのかもしれない。
('すず' でもどうせならこのチャンスを活かして、光との事をしっかり聞いてきます)
冬草さんはこんな感じでやる気だし、堅治からの返信を待つしかないと思い、布団に入り、眠りにつく。
翌日、堅治から許可は取っていると返事が来ていたので、安心しきっていた。
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