第10話 ショッピングモール 2

story teller ~とある人物~


 わたしは自分の下駄箱を開き、中に入っていた手紙を見て またか と思う。


 高校に入学して、この手の手紙は何度も貰っている。

 くだらない。

 そう思うものの、自分の学校での立場を考えると無視する訳にもいかない。


 手紙の内容は、今日の放課後、体育館裏に来てください。との事だ。

 体育館裏はこの学校では告白スポットとして有名である。


「ちょっと体育館裏に呼ばれたから行ってくるね。正門で待ってて」


 一緒に帰る予定だった友だちにそう伝え、わたしは靴を履き、体育館裏に向かう。


 体育館裏にはまだ1度も話したこともない、恐らく他クラスであろう男子生徒が待っていた。

 その顔から、緊張している事が窺える。




 男子生徒はわたしが来たことに気づく。


 小声でなにかを言っている。


 緊張しているのか声が小さすぎて何も聞こえない。

 聞こえなくても表情や、その場の雰囲気で言いたいことはなんとなくわかる。


 「ちょっと落ち着いてください。まずは名前から教えてくれませんか?ゆっくりで大丈夫なので。」


 心配するふりをして、目の前の男子生徒に声をかける。


「あっ、ごめんなさい、僕は1年2組の鈴木良介です。」


「鈴木良介さんですね。それでさっき声が小さくて聞こえなくて、もう一度言って貰えますか?」


 特に興味のない、鈴木に対してわたしは笑顔で話す。


「好きです。付き合ってください!」


 今度は先程よりもはっきりした声で告白してきた。


「えっと、勇気を出して告白してくれてありがとうございます。気持ちは凄く嬉しいです。でもごめんなさい、今は恋愛には興味がなくて。」


 そう伝えるとはそうだよね、来てくれてありがとうと地面に言葉を落とす。


「ほんとごめんなさい。友だち待たせてるからもう行きますね。」


 わたしはそう言い残し、男子生徒に背中を向けて歩き出す。

 わたしは自分でも可愛い方だと思う。学年で1番可愛いと言われているのも知っているし、クラス、いや、学校全体でも人気者なのも知っている。

 そうなるように努力もしている。

 だけどそのせいで興味が無い人からの告白にまで気を使わないといけないのは面倒だと思う。


「今回は誰に告白されたの?」


 正門につくと、待っていた友だちが楽しそうに聞いてくる。


 あの人誰だっけ?

 今さっき告白してきた男子生徒の名前を思い出そうと先程の告白を必死に思い出す。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 俺と春風さんはショッピングモール2階のお店にいた。というか2人きりだ。


 春風さんと夏木さんは、見たいブランドが違うらしく、別行動をすると夏木さんが言い出した。

 春風さん1人で行かせる訳にもいかないと言うことで俺が着いて来たのだ。というか、夏木さんに四宮が着いていけと言われた。

 堅治もこっちにと言ったら、夏木さんと冬草さんが女子だけで見て回るのは危ないだなんだと言っていたので堅治とは別になった。

 元々女の子3人で来る予定だったはずなのに、今更女の子だけだと危ないと言うのはおかしな気もするが。


「ごめんね、四宮くん。ほんとは秋川くんと一緒がよかったよね?」


「ううん、大丈夫だよ。気にしないで」


 申し訳なさそうに言う春風さんに対してそう答えると春風さんは笑顔になる。


「えへへっ、そう言ってくれてありがとう♪」


 やばい、めっちゃ可愛い。


「四宮くんは、その、好きな女の子の服装とかある?」


「ごめん、正直ファッションとかそういうの詳しく無くてさ」


 素直に答えると、春風さんはじゃあ〜、と言いながら並んでいる服を眺める。


「これなんかどうかな?」


 春風さんは1着の服を手に取り、自分の体の目の前に持ってくる。

 白いワンピースだった。袖やスカート部分に薄ピンク色のレース?のフリフリが付いている。


「えっと、あんまり気の利いた事言えないかもしれないけど、うん、似合うと思う」


「そうかなぁ。へへっ」


 嬉しそうに春風さんが笑う。

 そのワンピースを着ている、春風さんを見てみたいとも思ったが、恥ずかしすぎて言えない。


「四宮くん、これはどう?」


 ワンピースをあった場所に戻し、その隣の別の服を手に笑顔で聞いてくる春風さん。


 俺と2人きりで楽しめないんじゃないかと思ったけど、この笑顔を見る限りは安心かな?


「うん、春風さんに似合うし、可愛いと思う」


 そう言うと春風さんが驚いた表情になるが、すぐに笑顔に戻り、ありがとうという。

 それ以降、夏木さんたちと合流するまで春風さんはなかなか目を合わせてくれなくなってしまった。


 やらかした、と俺は少し反省した。

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