第9話 ショッピングモール 1

story teller ~秋川堅治~


 オレは春風月についての情報を集めていた。

 情報を集めると言っても、所詮は高校生。クラスメイトや知り合いに、聞いて回ったり、もしくは他の人に聞いてもらったりだ。

 情報を集めようとすると「お前も春風さん狙いか?」などと言われるが気にしない。


 だが集まる情報は、入学して10人前後から告白されたがその全てを振っている。理由も特に恋愛に興味がないからという、同じ学校なら誰もが知っているような噂程度。


 付き合ってる人や、気になる人がいるっていう情報はなしか。


 情報を集め始めてから既に数日が経過していたが、自分の欲しい情報が無いことで、自分の考えすぎなのかもと思い始める。


 そう思っていると、ポケットのスマホが震える。

 親友からのメッセージだった。


 春風さんたちに昼食に誘われたが堅治も一緒にどう?との事。


 これは直接みて、もしかしたら春風さん本人に確認できるかもしれない。


 そう思い短くOKと返信する。


 過保護過ぎるかもしれないが、親友にはもうあんな思いして欲しくないから。


 ******


story teller ~四宮太陽~

 

 うちの高校の中庭には大きな木が植えられている。

 その周りがコンクリートで囲まれているので中庭に着いた俺たちはそのコンクリートの上に、春風さん、夏木さん、冬草さん、俺の順に腰掛ける。


「ちょっと月。なんでそこなのよ。」


「だ、だって、恥ずかしいし。」


 春風さんと夏木さんがなにやらコソコソ言い合っているが、座る位置はそんなに大切なのだろうか。


 女の子たちがやいやい言い合っているうちに、中庭に堅治が入ってくるのがみえた。


「よっ、太陽!」


「おっす、堅治」


 お互いに片手を挙げて、堅治と軽い挨拶をかわす。

 俺たちの前まで来た堅治は、俺の横に座る女の子3人に対して同じように片手を挙げて、話しかける。


「初めまして。秋川堅治です。よろしくな」


「初めまして。春風月です。よろしくお願いします。」


「夏木光です」


「冬草涼といいます、よろしくお願いします」


 春風さんはぺこりと頭を下げ、夏木さんは少し堅治を睨んでいるように見える、冬草さんはニコニコしていた。


 お互いに挨拶を終えると堅治は俺の横に座る。

 俺の左側の女の子たちは未だにわちゃわちゃしているが、冬草さんのそろそろ食べましょう?という一言で、春風さんと夏木さんも大人しくなり、弁当箱をひらいた。夏木さんはブツブツなにかを言っていたが。


 ______


 久しぶりに賑やかな昼食をとった日の放課後。

 一緒に昼休みを過ごした俺たちは、バスに揺られること約30分。学校から少し離れたショッピングモールに来ていた。


 昼食後に5人で雑談していた時に、冬草さんに誘われたのだ。

 元々、春風さんと夏木さん、冬草さんの3人で遊ぶ予定だったようだが、せっかくなら5人で遊ばないかと。

 俺も堅治も特に予定も無かったのでOKした。


「でも大丈夫なのか?堅治?2人きりとかじゃないとはいえ、女の子と一緒に遊んだら彼女さんに怒られないか?」


 気を使わせてもいけないので、3人から少し距離を取ってから堅治にだけ聞こえるように聞いてみる。


「一応前もって連絡して、太陽も一緒って伝えたら、許可貰えたから大丈夫だ。まぁ何時にどこにいくのかってしつこく聞かれたけどな」


「それならいいんだけどさ」


 堅治から最近惚気を聞いてないとは思っていたけど、連絡も取っている様だし、大丈夫そうだ。

 堅治の彼女、寄宮 花江よりみや はなえさんは、堅治や俺と同じ中学に通っていたが、高校は実家の都合で私立のお金持ちが通う高校に進学した。

 なんでもいいとこのお嬢様らしいが、俺は1度も同じクラスになった事もなく、堅治経由で数回話したことがある程度なので詳しくは知らない。

 親友の彼女の事をあれこれ聞くのもなんか気が引けるし、堅治も惚気けてはくるものの、彼女さんの家庭の事などは話してこない。


「2人ともなにしてんの?こっちこっち。せっかく一緒に来たんだから意見聞かせてよ」


 少し前を歩く女の子たちがお店に入り、入口から夏木さんが声をかけてくる。

 今日はウィンドウショッピングをするとの事なので、男子の意見も聞きたいらしい。


 女の子に対して意見出来るほどのセンスは持ち合わせていないので、基本的に俺と堅治は後ろをついてまわる事になるだろう。

 堅治は彼女さんがいるからもしかしたらその辺も詳しいかもしれないけど。


 春風さんたちは服を手に取りながら、これが似合いそう、あれが可愛いと盛り上がっている。


 そんな様子を見ていると、冬草さんが服を手にこちらにやってくる。


「あの、お2人はこの服、私に似合うと思いますか?」


「おっ、いいと思うぞ。冬草さんの綺麗な髪とマッチしてるし、冬草さんのイメージカラーの色合いな気がするから、これ着たら可愛いと思うぜ。」


 堅治は俺よりも先に笑顔で冬草さんに返答する。

 冬草さんが持っている服は、薄い青色の折襟のシャツだ。襟元に小さく花の刺繍がされている。

 女の子のファッションには詳しくないが、堅治の言うように、冬草さんの腰までのびた黒髪に似合うと思うし、なにより冬草さんのイメージにピッタリだ。


 俺もそう思うよ。と堅治に続こうとしたが。


 冬草さんはいつものニコニコ笑顔が、少し崩れて、口をパクパクさせながら少しずつ顔が赤くなる。


「あれ?どした?」


「な、なんでもありません!」


 堅治が声をかけるも、冬草さんは逃げるように春風さんたちの元へ走っていく。


「オレなにかまずいこと言った?」


 そう俺に聞いてくるこの幼なじみは、ほんとに自覚がないらしい。

 無駄にイケメンで高身長。それでいて、平気で可愛いだのなんだの口にする。

 素直なのはいいところだが、天然タラシなのかもしれない。

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