第8話 昼休みの誘い
story teller ~春風月~
私はワクワクしながらその時間を待つ。
いつも配信が始まる時間は金曜日の午後9時。
毎週の楽しみではあるが、今回はいつもよりもその時間が待ち遠しい。
何回も部屋の時計やスマホで時間を確認してしまう為、いつもよりも時間の進みが遅い気がする。
「早く始まらないかなぁ〜♪」
もちろん、配信も楽しみではあるが今回は別の楽しみもある。
四宮くんとの通話である。
正直、理由はなんでもよかったが、同じ趣味関係なら断られにくいんじゃないかと思い誘ったのだ。
誘う時は声が裏返らないように気をつけたが、きっと顔は赤くなっていたはず。夕日で誤魔化せたかな。
バレてないといいな、、、。
昨日の帰り道を思い出しながら、嬉しさと恥ずかしさで叫びたくなる。
「うぅ〜!!!!」
抱き枕を顔に押し付けて少し声を出してみる。
お母さんにバレると恥ずかしいので声は抑え気味だ。
すると部屋の真ん中にあるローテーブルの上でスマホが鳴る。
時刻は午後8時55分。
配信が始まる5分前、四宮くんと通話の約束をした時間だ。
スマホの画面には私の初恋の人の名前が表示されている。
「ふぅ〜、、、よしっ」
深呼吸をしてから、スマホを手に取り、応答ボタンを押す。
「もしもし、春風です!」
スマホを耳にくっつけて話す。
嬉しさと緊張で体が熱い。
この熱がどうか、電話の向こうに届きませんように。
******
story teller ~四宮太陽~
春風さんと連絡先を交換してから1週間が経った。
あれから俺たちは、ほぼ毎日のようにメッセージをやりとりしている。
お互いに同じ趣味を持っていることがわかり、ライブ配信を通話しながらみた事で、メッセージのやりとりも、この実況が面白い、このゲームをやってみたい、そんなやりとりが続いていた。
前に一緒に帰った日以降は、登下校で一緒になることはなかったし、学校でもよく話すようになったとかではないけれど、それでも春風さんとひっそりとメッセージをやりとりするのは、なんだが秘密の関係みたいで楽しい。
一緒に帰ろうって俺から誘ってみてもいいのかな、、、
そう思いながらダラダラと時間だけが過ぎていき、今に至る。
まぁメッセージ出来てるだけでも奇跡なのに、あの春風さんを帰りに誘うなんて俺にはできないよな。
______
そんなことを考えていた昼休み。
「い、一緒にお昼食べない?」
春風さんからお昼のお誘いである。
「えっ春風さんが四宮を誘った?」
「月ちゃんが?どういうこと?」
「あの二人仲良かったっけ?」
教室がざわめく。
「あ、あの、えっと、私だけじゃなくて、光と涼も一緒なんだけど、、、。」
ん?余計に謎なんだが?
クラスに聞こえるように。誤魔化すようにそう続ける春風さんだったが、丁度窓際の俺の席の反対側に座る夏木さんと目が合う。
夏木さんは呆れたように頭を横に振りながら、はぁと息を吐いているようにみえた。
「ダメ、かな、、、?」
俺が返事に困っていると少し寂しそうに、春風さんは言う。
「こら、月。四宮を困らせたらダメでしょ」
いつの間にかこちらに近づいてきていた夏木さんが春風さんに注意する。
「光。えっと四宮くん、迷惑だったらごめんね。」
「いや、迷惑ではないんだけど。なんで誘われたのかなって気になって」
そう伝えると、えっと と返答に困っている春風さん。
俯いてるから影になって分かりにくいけど、顔が赤い気がする。
「この子、クラスメイトとなるべく仲良くなりたいんだってさ。んで、男子とはまだ一緒にお昼した事ないから、比較的話しやすい四宮から誘おうってなったの」
困っている春風さんをフォローするように夏木さんが答える。
なるほど、そういう事か。少し勘違いしそうになってしまった自分が恥ずかしい。
「んー、でも春風さんと夏木さんと冬草さんの3人いるんだよね? 男1人は少し気まづい様な、、、」
「あっ、そうだよね、気まづいよね、ごめんね!それでは〜。」
「いやいやいや、まてまて月。逃げるな」
「光〜離してよぉ〜!」
早足でその場を立ち去ろうとする春風さんの腕を夏木さんがガッシリと掴む。そんな夏木さんの後ろからこれまたいつからそこに居たのか、冬草さんが話に入ってくる。
「じゃあ、四宮くんのお友だちも誘ってみんなで食べたらいいんじゃないですか?」
冬草さんの言葉に少し悩む。
俺の友だちかぁ。この状況で誘える友だちは堅治くらいしか思い浮かばない。
「うーん、じゃあ、4組の秋川堅治って知ってる?そいつ誘ってみてもいいかな?」
俺がそういうと、春風さん含む3人からいいよと許可がおりる。
俺はポケットからスマホを取り出し、堅治にメッセージを送る。
するとすぐにOKの返事。
「堅治もOKだってさ」
「じゃあ中庭で食べよっか」
夏木さんの一声で食べる場所も決まった。
俺は今日弁当を持ってきているが、堅治は購買に寄ってから来るとの事だったので、春風さんたちと中庭に向かった。
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