第6話 いつもとは違う帰り道

story teller ~とある人物~


 は夢を見ていた。

 最愛の人がわたしの目の前で泣き崩れる夢。

 夢の中のわたしは最愛の人を見て、なにも感じていない。

 あぁこれで終わりなんだ。

 そう理解して立ち去る。

 後に後悔に繋がるとも知らずに。


「くそっ、またこの夢か、、、」


 最悪の目覚めだ。

 壁掛け時計は午前3時を指していた。


 今日はもう寝れそうにない。

 ソファから起き上がり、水を飲むために冷蔵庫を開ける。


 空っぽの冷蔵庫。水はない。


 買いに行く気力もなく、開けっ放しの冷蔵庫の前で立ち尽くした。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 教室を出たあと、横を歩く春風さんに歩幅を合わせながら階段を降りる。


「四宮くんは放課後とか普段はなにしてるの?」


「友だちと遊んだり、家でゲームしたりかな?」


 春風さんの質問に対して簡単に答える。

 答えた後に、春風さんはゲームとかしないよな、もっと春風さんの興味がありそうな事を答えたらよかったと思ったが、意外にも春風さんは食いついてきた。


「えっ、ゲーム好きなの!?どんなゲームするの?」


 春風さんの意外な反応に、あ、RPGとか と面白みのない返答をする。


「RPGかぁ」


「ごめん、RPGは興味無いよね。」


「ううん、やった事ないけど、興味あるよ!私ゲーム実況よくみるんだぁ!」


 これまた意外な返答。

 春風さんも目を輝かせて返答してくる。

 ゲーム自体に興味がないと思っていたのにと素直に驚き、俺もテンションが上がってしまう。


「そうなんだ!誰見てるとか聞いてもいい?」


「TOPPO4って知ってる?キロ、インスタント、犬沢、ガチャガチャマンって人たちなんだけど!」


 ゲーム実況界の中でも有名な人たちの名前が出てくる。


「知ってる!俺もよく見てる!あの人たち面白いよね!」


「知ってるんだ!あの人たちのどのゲーム実況が好き?」


「えっとね、、、」


「まって、せーので言お?」


 春風さんは俺よりも2段先に階段を降り、踊り場に着くと、くるっと回って俺を見上げる。

 そして春風さんのせーのの掛け声に合わせて声に出す。


「「ルドー!!!」」


 好きな実況者も、その人たちの実況の中でも好きなゲームも同じだったことに素直に喜びを感じる。


「えへへっ、好きな実況者も好きなゲームも同じって私たち気が合うかもねっ!」


「そう、だね。」


「四宮くん?どうしたの?ボーっとしてる?」


 気が合うかもねっなんて笑顔で言う春風さんが可愛くてつい見とれてしまっていた。

 恥ずかしさを誤魔化すように、目を背け、なんでもないと答える。


「えー、気になるなぁ。隠し事ー?」


 笑顔で茶化してくる春風さんが可愛くて真っ直ぐ見れなくなる。


「ほんとになんでもないよ」


 そんなやりとりをしつつ、階段を降りるとすぐに1階に着いていた。


 うちの高校は土足なので、下駄箱などは来客用のスリッパを置くスペース以外にない。


 春風さんと一緒に正面玄関から外に出ると数段だけある階段を降りる。

 その後はそのまま正門を出て、学校前のなだらかな坂を降りる。

 校舎横のグラウンドからは部活生の声が聞こえ、俺たちの他にも下校しようとする生徒が何名かいる。


 最初、一緒に帰る約束をした時は周りの生徒にどう見られるか、明日また詰め寄られるのかなど考えていたが、春風さんとの帰り道が楽しくて、気づけば周りを気にせず2人で話しながら歩いていた。

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