第5話 放課後の教室で

story teller ~春風月~


「ゴミまとめてくれたの?ありがとうっ!じゃあ私がゴミ捨て場に持っていくね!」


「えっ、大丈夫だよ?重いし俺が持っていこうか?」


 私の申し出に同じ掃除グループの日向くんが申し訳無さそうに言ってくる。

 少しスマホも触りたいし、ついでに と他のグループメンバーにも聞こえるように伝え、ゴミ袋を持ち上げる。


 私の担当場所は1組の自分の教室だ。その為SHRの為に担任が早めに教室にくることもある。基本的にうちの高校は休み時間以外にスマホは使用禁止なのでバレた場合は取り上げられてしまう。

 ゴミ捨て場は特別教室棟の裏にあり、先生たちの目に入りにくい為、教室よりは安全にスマホを触れるのだ。


 これから四宮くんを帰りに誘ってみようと思っていた私はワクワクしながら階段を2段飛ばしで降りる。

 早くゴミ捨て場に行って、四宮くんにメッセージしたい。

 もしかしたら用事などで断られるかもしれないという可能性もあるが、それはそれで仕方ないと思う。

 メッセージをしない事にはわからない。


 目的地につき、ゴミ捨て場の扉を開き、手に持ったゴミ袋を投げ入れる。

 ゴミ捨て場横の蛇口で手を洗い、スカートのポケットからハンカチを取り出して手を拭く。


 ハンカチをポケットにしまいながら反対側のポケットからスマホを取り出しメッセージアプリを立ち上げ、四宮くんとのトーク画面を開く。


 緊張してきたが、朝、光に相談した時に言われた事を思い出す。

 行動しないと始まらないよ。

 トーク画面にメッセージを打ち込み、えいっ!と送信ボタンを押す。


 するとすぐに四宮くんから返信が来た。


('SUN' えっと、夏木さんとかじゃなくて俺?)


 光や涼とは今日は一緒に帰れないという内容を返すといいよと短く返信が来る。それを見て嬉しくなる。

 きっと今の私は誰にも見せられないくらいニヤケているに決まってる。

 他の生徒がゴミ捨てにきてもいいように、通路とは反対を向いて顔を隠す。


 今日の朝、四宮くんと教室に入った時のことを思い出し、一緒に帰ってるのが見られるとみんなに質問攻めにされるかもしれない。そうなったら四宮くんに迷惑をかけるかも。

 そう思いお礼のメッセージに続けて内容を打ち込む。


('MOON' ありがとう!じゃあSHRが終わったら、少し教室に残ってて。みんなが居なくなってから帰ろ!一緒に帰ってるの見られたらまたみんなに質問攻めされちゃうし。)


 メッセージを送るとわかったと返信が返ってきた。


 一言でも返信が返ってくる度に嬉しくなり、飛び跳ねたくなる気持ちを抑える。


 もっと四宮くんの事が知りたいなぁ

 早く放課後にならないかなぁ♪


 そう思いながら教室に戻った時にこのニヤケ顔をみんなにバレないように心を落ち着かせてから教室に戻った。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 SHRが終わり、教室からクラスメイトたちが出ていく。

 俺は春風さんとの約束通り、自分の席に座ったままクラスメイトたちがいなくなるのを待つ。

 そのまま教室に残り、だべったりする人たちもいるはずなので、全員がいなくなる事はないかもしれないな。

 そう思い、教室を見渡すと、一緒に帰ると約束したはずの春風さんが居ないことに気づく。


 えっ?春風さんは、、、?


 さっきの約束は忘れているのか、それともなにか用事が出来たのか。少し不安になる。

 もちろん春風さんがそんな人じゃないとは思うが。

 メッセージアプリを開くも、春風さんからの連絡は入っていない。


 先に帰っちゃったのかな。

 俺も帰った方がいいかな、、、?


 そう思ったがもし春風さんが戻ってきたらと考え、もう少し待つことにする。

 今日は偶然にも教室に残る人達はいないようだ。


 すると教室の外からパタパタと走る足音が聞こえてくる。

 足音が教室の前で止まったかと思うと、ドアがガラッと開き、春風さんが入ってきた。急いで居たのか髪の毛が少し乱れている。


「ごめんね、四宮くん。2人きりで教室に残ってるとみんなに変に勘ぐられるかと思って光を指導室に送ってから戻ろうと思ってたの。そしたら途中で桜木先生に話しかけられて、明日の授業で使うプリントを運んでたんだ。連絡も出来なくてごめんね!」


 桜木先生とは俺たち1年1組の担任で英語教師だ。


 早口で説明する春風さんの顔はほんとに申し訳なさそうにしている。


「忘れちゃったのかなと思ったけど、そういうことなら大丈夫だから。気にしないで。」


「ありがとう」


 短く感謝の言葉を口にした春風さんは少し息を整えてからこう続ける。


「でも私が四宮くんとの約束を忘れるなんてありえないよ」


「えっ、それってどういうこと?」


 春風さんの言葉に素直な疑問をぶつける。すると春風さんはえっと、それは、そのぉ、なんというか と顔を赤くして答えに困っている。


「顔赤いけど大丈夫?ごめんね?俺との約束のために走ってきたから暑いよね?」


「えっ、顔赤い!?うそっ!?」


 そう言うと春風さんは恥ずかしそうに顔を隠す。

 うん、さすが学年で1番可愛い人だ、顔が赤くなって隠す仕草も可愛い。


「隠さなくても大丈夫だよ、顔が赤くても変じゃないし、可愛いからさ。」


 俺は自分の何気ない言葉で今の発言はまずいかも。と心の中で焦る。

 気持ち悪いとか思われてないといいけどと思いながら弁解しようと春風さんに近づく。

 すると春風さんが小声でなにかを呟いていた。

 なんだろうと思い更に近づくと。


「か、かわ、、、かわいいっ。えへへっ♪ はっへっ!?し、四宮くん!?近いよ!?」


 春風さんは近づいてきた俺に気づいて、更に赤くなり焦ったように手をワタワタさせながら俺から少し離れる。顔が困惑顔や嬉しそうな顔になったりで七変化している。


 しまった、そんなに仲良くない異性に急に近づかれたら怖いよな。反省だ。

 でも春風さんみたいに可愛いって常に言われてる人でも照れたりするんだな。そんなところも可愛いけど。

 さすがに次は口には出さずに心で思うだけにしておく。


「し、四宮くん、早く帰ろ!」


 春風さんは照れ隠しのように顔をぷいっと横に向けて、早口に言ってくる。


 うん、もう全ての反応が可愛いんだが。


「うん、帰ろうか」


 春風さんの可愛さにニヤケそうになりながらもそれを必死に抑え、春風さんの言葉に答える。


 教室から先に出る春風さんの横顔が笑顔だった気がするが。まぁ可愛いやかっこいいは誰でも言われたら嬉しいもんだと思い、俺も春風さんに続いて教室を出た。

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