第3話 幼なじみ

story teller ~春風月~


 こんな気持ち久しぶりだなぁ。


 昨晩の事がドキドキしていてあまり眠れなかった。

 だが、これから登校すると同じクラスなので、四宮くんが休まない限りは会えると思うと、遠足の日の朝の小学生のようにワクワクしてしまい、目も覚める。

 ただ連絡先を交換して、少しやりとりをしただけなのに胸が幸せでいっぱいになる。


 顔を洗い、歯を磨いて朝ごはんを食べる。学校に向かう準備をして、いってきます!とリビングにいるお母さんに声をかけて家を出る。


「光は寝坊したって連絡きてたなぁ。今日は1人かぁ。」


 いつも一緒に登校している親友からの連絡を思い出しながら1人呟く。

 昨日の事を直接報告したかったが、仕方がない。

 教室で会った時にでも報告しよう。


 高校生になってから初めての1人の登校で少し寂しさを感じながら歩き出す。


「あっ、おはよってメッセージしたらよかったかなぁ」


 今更ながらそう思う。そうすればよかったと若干後悔だ。


 俯き気味に歩いていると正門の近くまで来ていた事に気づく。

 顔を上げると入学してからずっと目で追ってしまう男の子の後ろ姿を見つけた。

 途端に先程まで後悔していた気持ちが、嬉しい気持ちに上書きされる。心がぽわぽわする。

 髪型や服のシワなどをササッと整えてから、勇気を出して声をかける。


「お、おはよ!四宮くん」


 緊張して少しどもってしまった。やっちゃったと少し焦るけど、振り返った四宮くんは優しく、おはよ、春風さん と返してくれた。


 昨日のお礼を四宮くんに伝えて、1人で来た理由を話す。


 一緒に教室まで行こうっていったら迷惑かな、、、

 勇気を出して誘ってみようかな。


 少し不安になるが、朝メッセージを送らなかった後悔を思い出し、勇気を振り絞り、声に出す。


「あ、あのね、」


 ******


story teller ~四宮太陽~


 4時限目の終わりのチャイムが鳴り響く。


 やっと昼休みか、、、。長かった。


 今日は朝教室に入ってからみんなの目線が痛かった。

 もちろん、理由はわかる。

 あの春風さんと一緒に登校したからだ。

 クラスで話す人には正門で会ったからそのまま教室まできたと説明したが、クラス全員と話す訳ではないので理由がわからない人からすると興味の対象だ。

 春風さんもクラスメイトに色々と聞かれていたようだが、どう答えたのだろうか。

 少し照れているように見えたのは気のせいだと思う。


 疲れて机に突っ伏していると軽く頭を叩かれる。


「おい、太陽、飯行こうぜ」


 話しかけてきたのは幼なじみの秋川堅治あきかわけんじだ。

 別のクラスだが、たまにこうして昼休みに昼食に誘ってくる。


「おー、堅治か、今日は購買?」


「そうだな、太陽は?」


「俺も購買だ。よし、行くか」


 短いやりとりを堅治と行い、2人で購買に向かう。

 1年生の教室は3階にあり、購買は1階の教室棟と特別教室棟の間にある。


 購買に着くと、昼飯を購入しようと大勢の生徒が並んでいた。


「メロンパン残ってるかな」


「太陽はほんとメロンパン好きな」


 そんなやりとりをしながら俺と堅治の番になる。

 俺たち2人の後ろにはあと数名ほどの生徒しか並んでいないので、もう少し早めに来たらよかったと思ったが、なんとかメロンパンは残ってたので、メロンパンとコッペパンを購入する。

 堅治は両手にいっぱいパンを持っている。


「そんなに食べるのかよ」


 少し呆れ気味にいうと、男子高校生だからなとドヤ顔で返される。なんのドヤぁなのか。


 2人で階段を上がり、今日は俺のクラスで食おうぜという堅治の後ろにつき、1年4組に入る。

 昼休みは他クラスに入るのが許可されてるとはいえ、入りなれない他クラスは少し居心地が悪いような新鮮なような、不思議な感覚だ。


「それで、なんかあった?」


 メロンパンを口に運びながら、堅治が昼飯に誘ってきた理由を尋ねる。

 堅治が昼飯に誘ってくる時は大抵なにか話がある時だ。


「今日、春風さんと登校してきたんだって?うちのクラスでも話題になってたぞ」


 だからか、4組に入った時にも朝、自分のクラスに入った時にも感じた視線を感じたのは。

 他クラスにまで話題になるのは、さすが春風さんと言える。


「まぁ一緒にというか、正門で会ったからだよ。同じクラスだしね」


「なるほどな」


「まぁ昨日、連絡先聞かれたから交換して、寝る前に少しやりとりはしたけどね」


 隠す事でもないので素直に答えると

 俺の話を聞いて、堅治の顔が少し曇る。


「大丈夫、なのか・・・?」


「大丈夫もなにも、クラスメイトだし交換しただけじゃないかな?気にしすぎだよ」


「それならいいんだが、一応なにかあればすぐに言えよ?」


「ありがとう」


 短く堅治に感謝の言葉を伝え、メロンパンの最後の1切れを口に放り込む。


「ほんとになんもないといいが・・・」


 自分の買ったパンを口に運びながら堅治は心配そうに呟いた。

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