第5話 緑の谷・1
王都カスガルから馬車で1日ほどの距離にある。
それほど離れているわけではないが、深い森に囲まれ、緑の川の源流となる緑の谷は、まったくの別世界の景観が広がっていた。
王女として生まれたアレシアだったが、幼い頃から巫女となり、王宮を出て神殿で暮らしていた。
巫女の長として、祭事に関わることも多いが、姫巫女としての一番の仕事は、神殿を訪れる人々の話を聞き、共に祈ることだった。
王宮に戻るクルスを見送り、自室に戻ったアレシアは、侍女のネティの手を借りながら、巫女としての身支度を整えているところだった。
入浴を済ませ、漂白された麻の
それは先ほどまで着ていた生成りの衣装と同じデザインのものだったが、今度はその上に白い絹の長いチュニックを重ね、腰には金の刺繍の入った絹の飾り帯を締めた。
純白の姫巫女としてよく知られた、アレシアの正装だった。
足には柔らかい革のモカシンを履いて、音もなく、硬い石造りの床を歩いた。
聖堂に入ると、10人ほどの巫女が並んで、アレシアを迎えた。
彼女達も白い麻の
姫巫女にしか許されない衣装を付けたアレシアは神々しいくらいに美しく輝いていた。
アレシアは巫女達に先導されながら、聖堂へと進む。
聖堂には、すでに多くの人が訪れていて、1列に並び、順番を待っていた。
聖堂で参拝者を迎えた神官が、アレシアに挨拶をしていると、明るい子供の声が響いた。
「
次の瞬間、長い行列の中に、自分に話しかけてきた子供の姿を認めたアレシアは、女神のように神秘的な様子から一転、満面の笑みで子供に駆け寄った。
周囲の人々からどよめきと笑顔が広がる。
「いただいたお告げの通り、見つかったんです……!」
涙が浮かんだ大きな瞳。まだ8歳くらいの少年がアレシアにぺこりと頭を下げた。
アレシアはその子を覚えていた。
幼児ではないものの、まだ幼い子供であるその少年が、大人の付き添いもなく、1人で聖堂の前の行列に並んでいた。
「探し物をしていて、見つからないんです……」
そう言ってきゅっと目をつむった少年を、アレシアは祭壇前へと導いたのだった。
子供だからとあしらわず、少年と手をつなぐ。そして「
『女神が伝えたい、と
アレシアは
これが、女神から与えられたアレシアの姫巫女としての力だった。
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