遺書

 ウールギア


 上記の五文字が認識できない、読めない、或いは空白にしか見えない場合は、この紙を捨ててください。

 上記の五文字に見覚えがない、心当たりがない、或いはぼんやりとした記憶しかない場合も、この紙を捨ててください。

 上記の五文字に見覚えがある場合は、下記の文章を読んでください。






























 この文章が読まれているということは、恐らく私は失敗したのだと思います。

 ですから、最初に謝らせてください。

 ごめんなさいね、イストス、デメテル、へカーティ。


 幸せで平穏な日常を守るために、支払うべき対価を清算しました。

 全ては私の決断で、私自身の力不足が原因です。

 だから……理想的な結末ではなかったと思うけれど、後悔はありません。


 昔だったらともかく、今の三人なら私がいなくとも立派に生きていけます。


 イストス、あなたはもうすっかり一人前の冒険者で、妹たちを支えられるほど強くなりました。

 都市最強なんて言われているけれど、私にとってはもう世界一の冒険者です。

 その強さであらゆる勝負に打ち勝ち、幸せな人生を掴み取ることを願っています。


 デメテル、あなたも今や一人前の商売人で、一人で立てるほど立派になりました。

 魔法に頼りがちではあるけれど、仕入れ交渉から販売まで、できないことはもうありません。

 その能力で手に入れた物と金で、平穏な人生を掴み取ることを願っています。


 へカーティ、あなたが一人前になるのを見届けることはできなかったけれど、魔女に対する差別がない世界なら、あなたの魔法は多くの人々を支えることができる偉大な魔法です。

 あなたの使役する魔物たちは、間違いなく姉たちの支えになっていました。

 いつか、その献身に相応しい対価が与えられるようになり、心の底から笑顔でいられる人生を手に入れることを願っています。


 ……そして最後に、私のことを忘れてくれるよう願っています。


 皆がどれだけ私のことを覚えているか分からないけれど、私は悪い人間なのです。

 前世の記憶がある転生者であり、元男であり、そのことをひた隠しにして皆と一緒に生きていた酷い人間なのです。

 異物であり、罪人であり、存在するはずのなかった人間です。

 期待に応えられず、理想からは程遠い人間です。


 だからどうか、私のことなど忘れて生きてください。

 最初から、ウールギアなど居なかったかのように。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 次話からいよいよ本編最終編です。

 書き溜めができたら投稿します。

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