閑話休題 義愛
私の名前は
好きな男の人が出来てしまったのだ。私っていつもそう小さい時から男の子に夢中になってしまう。恋をして、だけどその子に違う好きな子がいたり、付き合っていたり、そんなことを知って、恋を失ってしまう経験をして。でもまたほかの誰かを好きになる。辛くて泣いてしまう時もあるけれど、また違う人を好きになればそんなことなんかパーッと忘れてしまう。
命短し恋せよ乙女。こんな言葉が私の座右の銘。大好きな言葉。もちろん、この胸の中に育っていく恋という雌花はきちんと開花させ、その美しさを日の目に見せたい。そう思っているのだけれども、やはり人生はそんな簡単にうまくはいかない。
私は何回人を好きになったのかな? 初恋は幼稚園の頃の先生。大人の男性で、お父さんよりもかっこよくて、頼りがいがあって安心できるカッコイイ先生だった。でも、結婚していたし、優しいのは私だけにじゃなかったし。すぐに諦めてしまった。それがある意味私の特技みたいなものだ。
同い年の男の子にも惚れたことがある。小学校低学年かな。かけっこも早くて、輪の中心にいるような活発な男の子。でも、その子の事もすぐに諦めちゃった。
学年を重ねるごとに指では数えきれないほどに好きになっていった。ただ少し変わったことがあった。諦めが悪くなってしまった。特技が失われた瞬間であった。
好きなった子が私以外の子に好意を持っている、私だけを見てほしいという気持ちが段々と強くなってきた。私はその好きな子に好意を持ってもらえるということにある種の喜びを手に入れられることが出来る。そして、その子の事を考えている時間が至福の時なのである。だから、どんな時でも私はあちらの事を想っている時間と同じように向こうも想っていてほしい。そう願うようになった。
そうしたら私はいてもたってもいられない。そして、その気持ちを行動に移すのが好きで仕方がなかった。
朝昼晩二十四時間三百六十五日始終。好きでいたい。そう思ったら私の行動に歯止めは聞かなくなってしまった。
まずは行動の徹底的に把握、好みやプロフィールなどの情報収集、週ごとの活動範囲、交友関係、住所や連絡先、好きなことや嫌いなこと、食事に関してや、衣服の好みまで知らないと落ち着かなかった。そうして、影ながらに支え、応援し、見守り、愛し続ける。それが私のスタンスとして成り立った。
向こうもずっと私の事を気にしていてほしい、忘れないでほしい、覚えていてほしい、考えてほしい、悩んでほしい。そう思ったら、アプローチをしなければならなかった。それがメールでも手紙でもいいし、とにかく私と同じでいてほしかった。
そうして、また向こうがなぜかわからないけれどもおびえて去ってしまう。そして、私はまた失恋をしてしまう。私は悲しみに暮れる。恋という日が沈み明かりもない真っ暗な夜になってしまう。でも、陽はまた昇る。ふと次の男性にシフトチェンジができるときがある。そうして、私の恋という日の出のスタートになる。
そうして何回も繰り返していた。恋はなかなか実らない。辛いけど、でもめげずにやる自分がなんとなく好きだった。そんな自分を応援したかった。いつか……と願うそんな自分にエールを。
私は新しく恋を見つけようとしていた。ただ、最近だけれども、久しぶりというか初めて? かな? こんな私にアプローチをしてきた男の子がいる。同い年のクラスメイト。好きです、て古典的な告白を私に。
でも、残念ながら、お断りしたんだ。だって? 興味なかったから。恋を夢見る、素敵な殿方と出会う夢想な女の子ではあるけれど、誰でもいいというわけではない。というか、何でかな? わくわくしないんだ。
私は自分から向かっていきたい! そういうものなのだ。だから、断ったんだ。
そして、今、新しく恋をした男性がいる。名前は小鳥遊幸司。○○高校の3年生。クラスは3-2。友好関係はそこまでというかいないに等しい。帰宅部。生年月日は○○年6月1日。血液型はAB型。身長は172.2㎝。体重は58キロ。やせ形で、運動もあまり得意ではない。部活にも入っていない。成績は平均くらい。好きな食べ物は特にないけれど、お肉だったら大体好き。コーヒーが好きで、砂糖とミルクはドバドバと入れる。少し偏食傾向にある。他にもキリがないけれども。何を考えているのかわからないミステリアスなところに私は魅力を感じました。思ったよりもお人好しなところがなおもよしといったところだろう。
彼とは高校は違うのだが、ある時登校中にすれ違ったのだ。その時に、私の心のハートに矢が突き刺さった感じがした。いわゆる一目惚れってやつかな? それで制服から高校を突き止めて手当たり次第に探していった結果見つかった。
一目惚れっていいよね。本当の意味で意中の相手といえる気がするから。科学の研究ではひとめぼれが一番自分に合った相手らしい。なんだか詳しい話は分からないけれども、遺伝子がこの人だ! ってアピールしているらしい。だからお互い一目惚れしていた場合がベストカップル、みたい。向こうはどうなのかな? そうだったらいいな。
しかしながらだけれども、そんな私は、彼に猛アピールしているのだが、何も響いていないような感じがした。お弁当も渡したのに、感想も聞けずじまい。
そんな彼の周りに目障りな女が1人いる。東雲愛華という女だ。その女が私の愛しい彼を誘惑している。いつもではないが、一緒にいるのを見ると、嫉妬してしまう。許せない気持ちでたくさんになる。
私がこれだけしているのにもかかわらず、あの女はお気楽なものだった。
彼を私を意中の相手にさせるためにはもう一つアクションが必要だった。
そして、この度、それを実行しようと思った。
密かに彼の家に侵入し、部屋にサプライズをしてしまおう、とそう考えたわけだ。他にも、彼が誰にも言えない大切なものがあるという情報も手に入れていた。その大切なものを知るためというのも、目的の一つであった。私はいつものように彼の監視から得た情報で、家を留守にする間に忍び込もうとそう考えたわけだ。今日は大丈夫だ。
そして、うまく忍び込んで、彼の部屋だと思われる所に侵入した。
私は鼻歌を歌いながら、彼の大事なものを探した。
単純そうだけれども意外にミステリアスで複雑そうな彼が大事にしているものってなんだろうか。気になって気になって仕方がなかった。
私は引き出しやらベッドの下まで漁っていた。そんな時に私はタンスの中にあるものがあるのを発見した。
それは箱だった。梱包されていて中身は見えなかったが、まるで隠されているようにして奥に眠っていたそれを呼び起こした。
私はもしかするとこれが彼の大事なものではないかな、と思った。
そして、梱包を開けて、その秘密の蓋を開けてみた。
その中には一言添えられた手紙と、あるものがあった。
私はその中身に悲鳴を上げた。
悲鳴を上げるまでに数秒時間がかかってしまった。
まるで現実のものではないように思えたのだから。
だから、理解できるまで、状況を脳が捉えるまでに時間がかかったのだ。
私はゾゾゾと背筋が凍った。サーッと血の気が引いていった。まるでこの世の物とは思えない異様な光景、異物がそこに存在していたからだ。この奇怪な異物に対して一驚を投じせざるをえなかった。
「こんなところでなにしてるの?」
まるで背中に冷たいものを浴びせかけられたような感覚だった。目の前にある忌憚な恐怖に目と心を盗まれている間に後ろから不意を突かれてしまった。私の額から一筋の汗が流れおちていった。自然と呼吸が荒くなっていく。段々と。胸を動かすだけでは足らずに肩まで使い、呼吸をしていた。息を吸い、吐く、その音には畏怖が混じった。それは音がとぎれとぎれとなり、壊れたレコードのようになっていった。
私はナイフの刃先を当てられたかのような鋭く痛い視線を背中で感じ取っていた。
振り返ってもいいのか。そうしてしまったら、殺されてしまうのではないかというそんな恐怖を抱いてしまっていた。
「怖がらなくていいのに。むしろオレの方が怖いよ。勝手に部屋にいるんだからさ」
彼の言葉はこの張り詰めた空気を一掃としようとしたつもりだったのだろうが、私の緊張は弛緩することなどできやしなかった。ずっと張り詰めた糸のように限界まで伸び続けていた。
「振り向きな」
私はその言葉に従うことが出来なかった。私はまるで蛇に睨まれた蛙だ。恐怖でこの体は金縛りにあったかのように重く固く縛られていた。
私は振り向かず、まずは手に持っていたあれをそっと近くの机に置いた。
彼は振り向かない私に業を煮やしたのか、私の正面へやってきたのだった。
「やあ。君か。オレに対して色々メールとか送ってくれていたのは」
彼は嘆息した。私は両目を開き続けるしかなかった。そんな私とは対照的に緩んだ雰囲気で話しかけてきた。そして、あれを手にして、机の上にかるく腰を掛けた。
「君のメールの内容的に、常に見ているというわけではないというのはわかっていたよ。最初はなんか盗聴器とかでもしかけているのかなとか思っていたけれど、違うよね。放課後は明らかに見張っていた内容だったのに、学校の時や、夜とかになると、尋ねた内容になっている。だから、ちょっと罠をしかけてみたんだ。放課後に愛華との会話の中に「大切なもの」が家にあるという話を何度かさせてもらった。そして、家に帰れない用事などを適当に言って、そうしたら、ほら。うまく釣れた」
にっこりと笑っていた。
「まあ、あっさりうまくいくとは思っていなかったけれど。なにはともあれ、こうして話ができる。単刀直入に言うけど、付きまとうのはやめてもらえるかな? 迷惑しているからさ」
私は彼が手に持っているものに集中しすぎていて彼の話がまともに頭の中に入ってこなかった。
「これか? 愛華がさ、オレにくれたものなんだ。すごいよね。オレへの「愛のかたち」だそうだ。オレには愛とかそういうのは全然わからないんだけれどさ。凄いよね。オレもびっくりしたんだ。だけどオレなんかの為にここまでしてくれる。自分を犠牲にしてくれる。正しいのか間違っているのかはわからない。でも、彼女なりの示し方だったのだろう。……君はここまでできるかな? 」
私は声にならない叫びが空気となって漏れた。
それが……「愛のかたち」?
あの女の、愛?
これが……?
私の恐怖は最高潮に達した。震えが全身にいきわたった。
だって……。
その中身は……。
「目玉」だったからだ
「手紙も中に入っていてさ。ほら「先輩の事をずっと見てます」ってね」
私はとうとう耐えに耐えきれずになって、悲鳴を上げた。本能がやばいとならした警鐘にたいして、体が動いてくれたのだった。
「……く、狂ってる……!」
私はその一言を残して、その場を去った。
そして、もう二度と、彼に近づかないと決めたのだった。
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