閑話休題 偽愛

 僕は昔からだれからもあいてにされなかった。とはいっても、だ。男の友達はいたのだが、女の子とまともに話したことがなかった。だから、女子とのかかわり方が分からなかった。

 僕には女子がいる青春なんてものは一切なかった。

 小学校から30過ぎるまでなにも。

 だから、女というものにある種の憧れと言おうか、神聖化のようなものがあった。女という生き物はボクにとっては、まるで天女のような、神様のような、そんな形であがめるような存在であった。

 そんな崇高な存在に近づくことすら恐れ多く、僕はなにもできないでいた。

 しゃべることなどできなかった。高校のときとか、不埒にスカートから伸びる白い足を眺めて、僕の陰部が刺激されていた。普段の何気ない言動にその性欲がかき乱されていた。髪をかき上げる仕草。友達と雑談している姿。ただ起立しているだけでも、そうだった。座って授業を受けている、体育で走ったり、体操着の姿だったり、言葉と行動一つ一つが神聖なるものだった。そうして僕はいつもいつも一人で隠れてたまって暴れるモノを鎮めるのに勤しむだけだった。

 憧れがあった。動画などで男女の交わりをみるだけで、やりたい、あんなこといいな、僕もいつかこんなことできたらいいな、と夢を抱きながら何年も過ごしてきた。

 大学へ行き、バイト先での同い年や年上の女性と接触することは出来ても、まともに会話ができなかった。他の男のアルバイトが女子と会話をしているのを見て、羨ましいと思っていて。僕もこんな風に普通に話がしたい。

 アルバイト先では、僕はデブで、無口だから、女性からは気持ち悪がられていた。

 だから、近づけないでいた。ただ話がしたいのに、ちょっとでもいい夢が見たいのに、そんな勇気がなかった。

 僕に対してそんなことを気にせずに接してくれる子もいないこともなかった。明るく話しかけてくれていて、それが僕に対して気があるのではないかと思った。だが、他の男と話している時の方が楽しそうだな、と思ってしまったりもした。そして、その子は彼氏がいて、結局僕に対してに対して何も感情を抱いていなかったという事だ。それが僕を失意の底に陥れた。

 街では女性がたくさんいる。それもそうだ。世界の半分は女なんだから。

 売女ばいたのように足を丸出しにしていたり、体のラインに沿ったぴっちりとした服装であったり、お尻の大きさがよくわかるジーンズ、チノパンや、乳房の大きさがはっきりとかつ強調されるニットや、谷間を見せるような格好をする雑多な女がごろごろといる。

 僕は彼女たちのその姿を眼福として眺め崇め、奉っていた。そうしたことで僕は日々高まるフラストレーションを溜め、発散していた。

 きっと彼女たちは僕の為にこんな格好をしているんじゃない。かわいい、を目指してやっているのだが、それが結果的に男の性欲を掻き立てる。つまるところ、いい男というのを体をみせつけて呼び寄せようとしているのだ。なんともまあ無意識な痴女だ。

 だけれどもそれも弊害がある。僕のような劣勢な下男の劣情をかき乱しているという事を彼女たちは知らないのだ。いや、知っているか。僕が目を奪われ、ガン見しているのを心の中で「見てるわ、気持ちわるいわー」などとあざけ笑っているにそうちがいない。

 だが、そのような格好をしているお前らが悪いのだ、と、僕はそう思う。そんな格好をしているから、眼福としてみてやっているのだ。

 しょせん、こんな男の唯一の楽しみなんだ。

 最近、出会い系アプリが氾濫している。課金をして女の子とメールでやり取りをするのだが、この出会い系というのは、今はやりのパピ活といういわゆる円光、もうすこしわかりやすく言うと売春の温床になっているそうだ。

 YというSNSで裏垢でやりとりするのもはやりなのだろうが、僕はこれで普段関わることが出来ない女の子と関われるやもしれないと思い、やってみたのだ。

 そうすると、案の定というか、僕はただ会話をしようとしているつもりだったのだが、向こうから、「大人の関係」だとかで、苺とか諭吉さんが2人だとかいって、誘ってきたのだ。

 恐くてそれ以上突っ込むのが出来なかった。理性がそれをせき止めていたのだろう。しかし、ある日とうとうそれが決壊してしまった。

 まず相手は未成年、それだけで魅力的だった。お手当てが5だと物凄く高かった。だけれど、写メが相手から送られてきた際に、僕は目を奪われてしまった。

 黒上のロングヘアーの少し芋っぽいでも耽美で魅力のあるかわいらしい女の子がうつむいた写真を見て、僕は理性をとどめることが出来なかった。

 僕は待ち合わせをして会うことにした。こういう時、暴力団とかなんか出てくるのかな、とかパネマジみたいに加工されて実物はブスみたいな、そんなことがあるのかな、などと。 

 でも、こうして、大人の関係とやらを持てるというのはとてもありがたい話だった。本当は彼女が出来て、例えるなら新しい筆をこう、おろしてもらうような事をしてもらえたらいいなと願っていた。30まで貫けば魔法使いになれるとか、そんな馬鹿らしいことも見ていたが、今30も過ぎて残ったのは虚無感だけ。なら、もういっそのこと、だ。

 駅から少し離れたコンビニの前で待ち合わせをしていた。そうすると、高校生の集団がなんか珍獣でも見たかのようにきゃぴきゃぴとはしゃいでいた。

 これも若さの青春かね、と眺めていたら、僕の前にその集団がやってきた。

 結構ひどい言われ方をされたが、もう言われなれているので聞き流していたが、制服の女子高生の中に、一人だけ私服を着た女子がいた。その子がその集団のリーダー格のような女の子に背中を押され、僕の前によろけながら現れた。

 その子はうつむいて顔を向けないでいたが、若さのフェロモンが僕の欲望を刺激した。そして、弱弱しく立つこの女の子にさらなる興奮を覚えた。

 小動物のような彼女は僕を優位的な立場であると錯覚させた。彼女は周りに煽られ、僕と一緒に休憩にいった。

 僕はそこで、初めての体験をすることになる。初めて故に何をしたらいいかが、わからなかった。

 だけど、本能の赴くままに自分の欲望を彼女にぶつけた。小さな体で、倍近くある肉体を受け止める様は言い得て妙だった。

 事が終わった際、シーツは血でべったりだった。やり過ぎ。そんな事、彼女のことをなんも考えずにやっていた。

 でも、それでも、彼女は文句の一つも言わずに、大丈夫です、と、微笑んでくれた。

 こんな僕が女の子にこうした微笑みを向けられるのは初めてだった。

 暗い、絶望感、そんな人生に明るい一筋の光がともった瞬間だった。

 彼女は、僕にとってまるで、女神のような存在になった。

 また会いたい、またその笑顔をみたい、優しくして欲しい、そう思ったら、この熱量は冷めることはなくなってしまった。

 休憩所から出た後、遠巻きに僕は彼女を見ていた。友達達は待っていたのかすぐさま彼女を取り囲んで写真をバシャバシャ撮っていた。

 そんな様子を見ながら帰路に向かう。そうすると、メールに一言だけ入っていた。「今日はありがとうございました。また会いたいです」と。これ以降僕の人生は彼女、いや僕にとっての女神様のために存在した。

 その後から何度も何度も会った。その度に女神は僕に優しさを振り撒いてくれていた。それがたまらなかった。

 しかしある日を境に連絡が途絶えた。

 あんなにも仲良く、何回もWeekend lover をしたのに、一体どうしたというのか。

 僕は彼女の事を探してみた。友達の制服から学校が、判明した。そこからなにかの手がかりを探していたが、難しかった。だが、見つける事が出来た。学校ではなかったが、たまたま街で見かけた。

 そして、僕は彼女を尾行し、家を特定した。メールの方はもう退会していて、届けられることは出来なかったために、手紙で僕の思いの丈をありのままの姿で綴ったのだ。

 どんな反応をしてくれるのかをずっとワクワクして待っていた。

 だが、とんでもない裏切り行為が発覚した。

 なんと女神には他に男がいたのだ。

 同い年か少し年上かの男と仲良さそうにデートをしていたのをみてしまった。1回だけではなく、何回も。

 それを、目撃してしまったのをキッカケに愛憎、憎悪が膨れ上がり、今回のような事をしてしまった。


 あの一件で僕は彼女の事を何も知らなかった。きちんと知ろうとはしなかった。僕はただ、優しくされたかった。いや、彼女の言う通りかもしれない。やりたかった。女の子とあんな事を出来る、こんな事を出来る、というのが良かったのかもしれない。若い肉体を貪るのが心地よかったのかもしれない。今まで女の子に触れられなかった僕がお金という暴力で簡単に女の子と触れ合う事が出来たのが悦びだったのかもしれない。

 そこで獣欲を満たそうとしていたのかもしれない。愛だとか幸せだとかそんなくだらない事をべらべらと平気で口にしていたが、そんなものは所詮偽りで、欲を隠すための蓑でしかないんだって。所詮女に対して抱いていたのは、劣情のみで、細くて柔らかい肉体と、その股の下にあるモノしか見てはいなかった。所詮は。ひどく言ってしまえば、僕は女性のことを男の欲望を発散する為の都合の良い天然の玩具としか見ていなかった。

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