第4話 初めてデート

「どうもここんにちは。少し待ちましたか?」

「ん? いや、オレも今来たところだから」

 オレたちは駅の改札口前で待ち合わせをしていた。デートするとはいってもしたことがないので、どこに行くかは特に決めていなかったが、駅前であったら大体なんでもあるし移動もしやすいのでとりあえずそこにした。

 オレは柱を壁にしてスマホをいじりながら少し待っていた。そうしていると彼女がやってきた。

「ふーん……。きちんと私服着てきたんですね。私、てっきり制服で来るんじゃないかと不安でしたよ。しかし、あんがいカジュアルなんですね」

「さすがに、そんなことはしないよ。

 オレは茶色のスキニーにグレーの厚手のパーカーを着てその上に黒のPコートを羽織っていた。

「まあまあスタンダードってことで。それよりも愛華も普段着可愛いじゃん」

「あらあら。お上手ですこと」

 ふざけた言い返しであった。彼女はロングスカートに白色のセーターに黒のダウンコートを着ていた。

「まあ、そんなことはいいや。とりあえずいくか」

「行くってどこに行きますか? 待ち合わせ場所と時間だけ決めただけで、どこに行くかは決めていませんが」

「こういう時は男がデートプラン事前に考えてサプライズで行くもんじゃないのか?」

「考え方がおっさんですか? 古いですよ。私にも行きたいとこを選ぶ権利はありますから」

「おっさんって……ちょっと……。ふーん。なんかどこか行きたいところがあったのか?」

 まあ、オレの場合は特に何も考えていなかったので、こうしていってくれた方が助かるのだが。

「特にありませんので、先輩に合わせます」

 オレは心の中でため息をついた。まあ行き当たりばったりでいくか。まあ、とりあえずちょっと自分の興味のある所へ行ってみるとするか。

「海観たくない?」

「は? 冬にですか?」

 そうしてオレは改札口に足を向かわせた。そして電車に乗って数駅先の港に向かうこととした。

 電車の中での彼女は口をへの字に曲げていた。あまり気乗りしていないようだった。

「山と海だとどっちが好き?」

 そんな彼女を心配して適当な話題を出すことにした。

「なんですか? その変な質問は。……うーん、海ですかね」

「そこは気が合うね。じゃあ、いいじゃん。海見に行っても」

「冬に見ても楽しいですか?」

「まあ、それをいってしまえば、どこでもいえることだよ。つまるところどんな季節に行っても大体なところは楽しいはずだよ。山だって夏と冬とでは景色が違う。それゆえに楽しみ方が変わるんだよ」

「海は?」

「海は泳ぐだけが楽しみじゃないんだよ。冬の澄んだ空気が景観を奇麗にみせるんだよ。遠くの山々の雪景色を眺めるのも乙なものだよ」

「先輩ってどちらかというと山派じゃないですか? どちらかというと。まあ、私はどうでもいいですが」

 そんなこんなとどうでもいいことを話し合いながら、目的地へと進んでいった。電車から降りた後、専用の無料バスがあったのでそれを利用し港へ着いた。

「わー磯の香りがー」

 愛華はバスから降りた後大きく背伸びをした。大きく深呼吸をして港の空気を堪能した。駐車場から降りて目の前にしばらく歩くと浅瀬があった。そこに向かって歩くことにした。

「海って濁ってて汚いイメージあったんですが底まで透き通って見えていてきれいなんですね」

 オレは相槌を打った。「夏になるともっと綺麗かもな。だけど、寒いこの時期に見るのも乙なものだ」

「……」

 愛華は何も答えなかった。横顔を見たら、少しだけ頬がほころんでいた。オレはまあいいかと思った。

「船でこの辺一周できるみたいだから乗ってみるか?」

「そうなんですか? まあちょっとだけ」

 オレは小さく頷いた。そして、チケットを買ってそれに乗り込んだ。あたりを1周する程度のもので30分ほどで終わるコースだった。愛華は最初は寒いなとか大変だなとかぶつくさ文句を言っていたが、いざとなると普段よりも楽しんでいたようなきがした。

 はやい速度で進み景色が近づいていく様を見て、楽しそうに笑っていた。オレたちは記憶にもならないような会話をして2人でこの時間を堪能した。

 ふねからおりたあと、お互いに案外悪くなかったという会話をしてから、近場にあるデパートの中に入ることにした。そこでカフェでコーヒーとケーキを注文した。

「先輩はコーヒーとか好きなんですか?」

「うん。ただ、ブラックでは飲めないけどね」

「あー、苦いですもんね。私も無理ですね。なんか、男子がブラック飲んでるの見ると、格好つけてんのかなとか思っちゃいますよ、ハハ」

「なんかそれよく聞くけど、ただの好みじゃないのかなと思うんだけどね。逆にね、そう思うってことは自分でかっこいいって思っているってことだよ」

「あー……。なんかその返しむかつきます」

「なんでだよ。そうじゃないかなと思うんだけどね」

 そう笑う。

「君は、チーズケーキ好きなの?」

「はい。そうですよ」

「女子ってショートケーキとかそういうのが好きなイメージだけどね」

「メチャクチャな偏見じゃないですか」

 などと、くだらない会話をしながら時間を堪能した。

 そして、上の階にゲームセンターがあるというのを聞いたので、そこで遊ぶことにした。

「ゲームセンターっていっても、あまり得意じゃないんですよね。UFOキャッチャーとか、取れる気がしないですもん」

「そうか。オレも対してやらないけどね」

 オレたちはUFOキャッチャーのエリアをうろうろとしていた。ぬいぐるみやお菓子やら、フィギアやらの様々な機体が置いてあった。物色していると、愛華が少し気にしていたものがあった。人気のコインモンスターというゲームのぬいぐるみだった。彼女は口には出さなかったけど、気になるんだなと思った。

 せっかくなので、オレは試しにこれをやってみることにした。

 だが、知識や技術は素人なので、お金がどんどんと吸い取られていった。愛華は「そろそろあきらめた方がいいですよ」と言っていたが変に意固地になってしまったオレは投資を止めることが出来なかった。

 そうして、激闘の末ようやくとることが出来た。その時の達成感がすさまじいものであった。愛華も横で「やった!」と飛び跳ねて喜んだ。

 オレは心の中で「よっしゃー」とガッツポーズをした。

 珍しく熱くなってしまったオレはぬいぐるみを手にした。愛華が小首をかしげてそれを見ていた。

「はい、愛華にあげるよ」

「え?」

 きょとんとしていた。予想外の事だったのだろう。表情筋が崩れていた。そして間抜けな声をだしていた。

「なんかこれ欲しそうにしてたからさ、せっかくだから取ってみたんだよな。オレ持っててもいらないから、せっかくだから貰ってよ」

「……」

 愛華は口を一の字にした。そして目を伏せてそのぬいぐるみを抱きかかえた。少し強くぎゅっと抱きしめていた。

「……ありがとうございます」とゲームセンターの雑音でかき消されてしまいそうなほどの声で言った。


 外を出るとあたりがすっかりと暗くなってしまっていた。もうそろそろ帰ろうかとなった。バスと電車を使って帰ってきた。そして、改札口で別れることとした。

「今日はありがとうございました」

「うん、そういえば本来の目的って達成できてるのかな?」

「それは口にしないでください。デリカシーのない人ですね」

 眉間にしわを寄せて嫌そうに言った。

「それは悪かった。じゃあまたどっか行こうかね」

「……」

「どうした?」

 愛華は吐息を吐いた。「いえ。次も先輩が色々と考えて連れていってください」

「わかったよ」多少面倒だなとは思ったが、気にしないことにした。

「……」

 愛華はこのまま帰るのかな、と思ったけど、何かを言いたいような感じで、その場を中々動こうとしなかった。オレはその様子を不思議そうに見ていた。どうしたのかと聞いても、「別に」とそっけなく言うだけであった。

 だけど、ようやく何かを言う決心がついたのか小声で話した。

「……今日は、ありがとうございました。……初めてでした」

 オレはなにがだろうかと疑問に思ったが聞かないことにした。そして、愛華は「ぬいぐるみ持って帰ります」と最後に言うと踵を返して帰っていった。

 オレはその背中を見届けながら、彼女とは逆の方向へ歩くのだった。

 これ以降愛華とまた遊ぶことにするのだが、この選択が後の悲劇を生むこととなるとはオレたちは知らなかった。

 

    

 



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