【case.3 青春アリス】

プロローグ



『君って、絵がうまいんだ』


 放課後、教室でクロッキー帳に絵をえがいていたあたしは、感心しているようなその声におどろいて顔を上げた。

 バスケ部のユニフォームを着た男子がそばに立っていて、興味深そうにあたしのクロッキー帳を見ている。


『絵本作家とか、なれそうだよな』


 そんな何気なく発せられた言葉に、あたしは息をむ。

 彼はあたしと目が合うと、明るく笑っていた。

 その雨上がりの空のようにんだひとみに、胸がトクトク、トクトクと音を刻み始める。

 物語に出てくる、ウサギの懐中かいちゅう時計みたいに。


 その音にかされて、あたしはけ出した。

 そして、落ちていく。

 初恋はつこいという名の、『迷宮めいきゅう』へ――。

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