1-③
イサム君もバイトの時間だというので、細い路地の手前で別れた。ボクとカッキー君は、
のんびり歩いていると、自然と鼻歌がもれた。もちろん、リリカちゃんのキャラクターソングだ。
「うーん、実に有意義な時間を過ごせた気がする。やっぱ、たまにはみんなと過ごすって
のも大事だよね〜」
「マルコス君ってさ……なんだか不思議だよね」
足を止めて
「……やっぱ、そう思う?」
「うん、思う」
カッキー君はどこで買ってきたのか、ソーダアイスを
「
ボクは
「やばいっ、なんかかっこいいかも。リリカちゃんに
無反応のまま、カッキー君はソーダアイスをくわえている。かわりに、せせら笑うように鳴いたのは電柱にとまっているカラスだ。ボクが見上げると、白けたように片方の羽を広げてついばんでいた。
「なーんちゃってさ。その実体はただのニートだけど……」
ボクもすぐに白けた気分になって前を向き、歩き出した。
「マルコス君って、自分のことあんまり話さないからさ……」
「特に話すこともないからねー。
今日はみんなと集まるために、
それがニートの本分で、ニートたる
毎日活発に家から出て、近所とか公園とかを散歩したり、朝の体操をしたりしているのは、余生を
「それより、ボクとしてはカッキー君の話のほうが
「僕らって、会ってけっこう
「んーまあね。みんなのこだわりと
「それ以外のことだよ……僕はマルコス君のこと、全然知らないけど、それでもやっぱり、友達だって思うし……だから、ちょっとは、知りたいって思うんだ。マルコス君だけじゃなくて、イサム君とか、ミミッチのこともさ。僕にはここしか……居場所がないから」
ボクと並んで、カッキー君はメガネを外す。真っ
「やばい、カッキー君のイケメンオーラに負けそうっ!」
「また、話をはぐらかしたね」
カッキー君はため息を
「…………
ボクは視線をわずかに下げて、そう答えた。
カッキー君がボクをジッと見てくる。道路に映るボクらの
「……だから、話すようなこともないんだよ」
ぎこちなく笑ったボクは、「それよりさ」と話を変えた。
「先週のリリカルルカ、めちゃくちゃいい展開だったよね〜。改造ウネウネタコマリン博士とのバトルシーン、エグいくらいに動くしさ。制作
「あのシーンのリリカちゃん、目がハートでウルウルだったね」
「あの顔をボクは百万回くらい見たい! っていうか、絶対見る。早く
ボクらは熱く盛り上がりながら並んで歩く。駅に
「んじゃ、またね〜」
「うん……また」
ボクはヒラヒラと手を振り、カッキー君が自転車に乗って走り去るのを見届ける。
学生たちが笑って雑談しながら歩いてくる。ボクはパーカーのフードを深めに
(友達……か……)
カッキー君たちと一緒にいる時は楽しいと思う。だからって、友達と呼んでいいのかボクにはわからなかった。友達と呼べるような相手は今までいなかった。
今だって、友達がほしいと思っているわけじゃない。カノジョもいらないし、推しのリリカちゃんがいればいいと思ってる。
そのためには朝四時に起きてまだ
別にボクの生き方を
人にどれだけ望まれても、何をやってみても、何を達成してみても、
だから、ボクは無意味だと思えるもの全部を捨てることにした。
そうしたら、なんと、
十数年も生きれば、普通、大切にしたい思い出とか、大事な人間関係とか、多少はできるはずなのに。ボクには何にもなかった。誰かとの
(ああっ、
ボクを理解しようとしてくれた人もいたんだ。少なくとも一人は――。
飛び級で海外の大学に進学したボクは、相変わらず友人もできなくて一人でいることが多かった。そんなボクのことを、何かと気にかけてくれた教授がいた。ボクを研究室に
足の
あの人はいつだってフェアだった。ボクを特別
大学を卒業する少し前、教授に『時間を
教授は『なるほど、それは人類誰しも、一度は思うことだろう』と、笑いながら頷いていた。
『しかし、人生をやり直したとしても、別の自分になれるとは限らないさ。人はそう変わらないものだからね。心が求めるものはいつだって同じだ。だから、人は何度でも同じ
ボクの
大学を卒業して日本に戻った後、教授とは一度も顔を合わせてはいない。けれど、メールやメッセージのやりとりは今でも続いている。
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