1ー①
本名は一応あるけれど、その名前で呼ぶ人間はほとんどいないから、あってもあまり意味はない。かわりに、ゲームやアニメの
今も、オタク仲間と集まっているけれど、メンバーの本名をボクは
それぞれのプライベートなことは
共通しているのは、ここにいる全員が『
ボクももちろんご同類ってやつだ。オレンジ色の
これがボクにとっての正装だから、今誰かの
つまり、何が言いたいかというと、ボクらはお
良くも悪くも互いに無関心なこの
先週のアニメにチラッと出てきた新キャラについてあれやこれやと予測し合ったところで、飲み物も話題も
今は平日の午後だ。
「早くイベントのチケットの当落が出ねーかな?」
口を開いたのは、ボクの向かいに
黒いオシャレジャケットを羽織っているイケメンだけど、その下にルルカちゃんTシャツを着ているあたり間違いなくボクらのお仲間で、『イサム』というハンドルネームだ。
「来週だよね。今度のイベント当選したら絶対、リリカちゃんのコスするよ、あたし。前回やろうと思ったのに、落選しちゃってできなかったから。今度は絶対当選する。意地でもする〜っ! 当選しなくてもコスはする〜っ!」
「ミミッチのリリカちゃんコス……いい。すごくいい……」
メガネ男子の『カッキー』君が、大盛りナポリタンを口いっぱいに
ナポリタンのソースで
「本当にそう思う? あたし、リリカちゃんみたいに小さくないし、かわいくもないし、身長も一八〇センチはあるし、似合わないって思われないかな……」
不安そうに両手を
「うん……ミミッチはかわいい……僕はそう思う」
カッキー君はナポリタンのオレンジ色のソースをたっぷりと口の周りにつけたまま、しっかりと
「カッキー君がそう言ってくれるなら、あたし
モジモジしながらミミカさんが言うと、「うんっ、いいよ」とカッキー君は快諾していた。
「……君らさ、もしかして付き合ってんの?」
スマホから視線を上げたイサム君が、二人を
ミミカさんはカッキー君を見てから、「ううんっ、付き合ってないよ!」と首を横に振って否定していた。けれど、視線が泳いでいるうえ、首から上が赤くなっている。
「まあ、いいんだけどさぁ。全然、羨ましくないから! 俺にはルルカちゃんがいるし〜? 注文してた限定フィギュアも来月届くし~? そういえば、マルコス君さ。リリカちゃんの
イサム君がボクのほうに顔を向けてきく。ボクは「もちろん!」とニンマリして答えた。ミミカさんが
「その抱き枕って、昨日入荷したリリカちゃんとルルカちゃんの特大抱き枕のことだよね!? マルコス君、もう取れちゃったの!?」
「オープン前に行ったのに、抱き枕お目当ての人がけっこう並んでたからね。早めに取っておかないと、なくなりそうだと思ってさ」
抱き枕を取ろうとしていた人たちが、クレーンゲーム機の前で
「うわあ、マジかよ! 俺、完全に
イサム君が頭を
「それは、
ナポリタンを食べているカッキー君を、ミミカさんが「えっ!」と見た。
「カッキー君も挑戦してみたの!?」
「うん……ミミッチのために、リリカちゃんの抱き枕を取ろうと思って。でも、僕には無理だったよ。ごめん、ミミッチ」
「そんな……カッキー君っ! その気持ちだけでも嬉しいよ!」
カッキー君はキリッとしたイケメンの顔になっているし、ミミカさんの目は感動したように
「マルコス君……俺のために、ルルカちゃんの抱き枕取ってくんない? 資金はもちろん、俺が出すからさ……いくらでも」
イサム君が「この通り!」と、拝むように両手を合わせる。
「んー……いいよ。ボクも帰りにゲーセン寄るつもりだったし」
抱き枕は一つゲットしたけど、やっぱりもう一つ手に入れておきたい。
「あたしも行っていいかなぢ あの……頑張って挑戦してみるから!」
「ミミッチのリリカちゃんは、僕が……取る!」
拳を握ったカッキー君の全身から、静かなやる気が
「それじゃ、みんなで行こうよ」
ボクは立ち上がって、ニッコリと笑った。
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