第130話「幼女効果?」

「い、いや、今のは………………すまん、迂闊うかつなことを聞いた……」


 さすがにまずいことを聞いたと思ったようで、美咲のお父さんは素直に謝ってきた。

 美咲のことで頭がいっぱいになっているだけで、多分悪い人ではないのだろう。

 人格的に問題ある人なら、美咲のお母さんのような人が結婚するどころか、付き合ってすらいないだろうし。


 それに――思い込みで人の話を聞かなかったり、防衛本能をこれでもかってほど発動していたりするところを見ると、なんとなく納得してしまうところがある。


 美咲の悪い癖は多分、この父親譲りだ。


「気にしないでください。心愛を連れてくるしかなかったことをわかって頂ければ、僕はかまいませんので」


 俺の父親の件は、嘆いたことでどうにもならないし、引きずっても今後に悪い影響を及ぼすだけだ。

 幼い心愛の面倒を見ないといけない、ということがあったから引きずる余裕なんてなかったので、今更外野に突かれたところで何も思わない。


 ただ――心愛に寂しい思いをさせてしまっていることに関しては、胸が痛いが。


「……君は、幼い妹の面倒を一人で見ているのか?」


 心愛の件の誤解が解けたからなのか、美咲の父親は初めて話を聞く姿勢を見せた。

 思わぬ流れだが、話を聞いてもらえるのならこちらにとって有難いことだ。


「そうですね、働ける人は母しかいませんので、僕が代わりに家事と心愛の面倒を見ています。まぁ最近は……美咲さんが家事を手伝ってくださっていますし、心愛の面倒も見てくださっているのですが」


 俺は苦笑気味に笑いながら、肩を竦める。


 美咲が俺の家に来ていることはバレているので、あえてこちらから切り出すことで、印象を良くすることを試みてみた。

 少なくとも美咲は、毎日ただ彼氏の家で遊んでいたのではなく、幼い子の面倒を見ていた、という印象は付いただろう。


 もちろん、大切な娘に家事をさせたりしやがって――みたいな話になる可能性は考えられたが、心愛の面倒を見ている話になってから雰囲気が変わったので、多分大丈夫だ。


「なるほど、それで毎日美咲は君の家に行っていたのか……。彼氏の家に行くと言ったら私が反対するから、美空の家に行くと嘘を吐いていたんだな……」


 思った通り、美咲のお父さんは好意的に捉えてくれたようだ。


 というよりも、思った以上にいい方向で捉えてくれたようだけど、美咲は単純に俺に甘えるために来ていただけなんだよな……。


 その証拠に、姉を巻き込んで心愛の面倒を見てもらおうと画策していたし。


 とはいえ……わざわざ訂正する必要はないか。

 美咲がうっかり自分からばらさないか、という心配はあるが、さすがに彼女も空気を呼んでくれるはずだ。


 それに、心愛の面倒を見てくれたり、家事をしてくれたりしていたのは本当なのだし。

 

 そんなことを考えていると――

「んっ……! にぃにとねぇね、なかよし……!」

 ――いつの間にか俺の手から耳を解放していた心愛が、手を挙げてアピールした。

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