第129話「不躾な質問」
「――ごめんなさいね、来斗君。みっともない大人で」
「いえ、お気になさらないでください」
ニコニコの笑顔で言ってきた美咲のお母さんに対し、俺は作り笑いを返す。
あの後、リビングへと通してもらえたのだが、現在美咲の両親と向き合う形で座っている。
俺の右側には美咲が座っており、正面には美咲のお母さん、斜め右前には美咲のお父さんが座っていた。
心愛は、椅子を用意してもらえたのだけど、俺の膝の上がいいと言って、膝に座っている。
「まったく、幼い子を連れてくるなんて、卑怯な……」
俺たちの会話が気に入らなかったようで、美咲のお父さんがボソッと呟く。
それを聞き取った美咲のお母さんが、すかさずお父さんの頬を指で引っ張った。
「い、いひゃい……!」
「いい加減、恥を晒すのはやめて頂けますか?」
美咲や笹川先生とよく似ていて、優しそうな雰囲気まで纏っているのに、美咲のお母さんは強いようだ。
もしかしたら美咲も、将来こんなふうになるのだろうか?
そう思ってチラッと隣を見てみると、美咲と目が合った。
彼女はブンブンと首を横に振る。
どうやら、お母さんのようにはならないとアピールしているようだ。
まぁ、美咲が俺の頬を引っ張るような姿、想像できないわな。
心愛は美咲のお父さんがお母さんに怒られているのが嬉しいようで、楽しそうに手を叩いている。
この子、アニメの影響で悪は成敗されるものだ、と思い込んでるからなぁ……。
悪人をこらしめるには何をしてもいい、と思っていそうで将来がちょっと怖い。
「だが、そうだろ? 普通相手の親に挨拶をしにくるのに、幼い子供を連れてくるか?」
美咲のお父さんはお母さんの手を放させると、納得が言っていない部分を言ってくる。
まぁそう言いたくなる気持ちもわかる。
顔合わせをするにせよ、話し合いをするにせよ、幼い子がいたら邪魔になってしまうだろう。
とはいえ――
「すみません、母は今日も仕事なので、この子を一人家に置いておくわけにはいかなかったんです」
――預けられる人がいないのだから、仕方がないじゃないか。
もちろん、顔合わせの日取りを明日にすれば、心愛を母さんに預けることはできた。
しかし、それでは先に父親のほうが家に乗り込んできてしまう。
だから、俺は心愛を連れて今日美咲の家に行くしかなかったのだ。
「母って、父親はどうしたんだ?」
「四年前に、事故で亡くなっています」
俺は心愛の耳を手で塞ぎ、仕方なく笑いながら美咲のお父さんの質問に答えた。
心愛の耳を塞いだのは、あまり聞かせたくないことだからだ。
まぁこの子は幼くても賢いので、理解しているような気はするのだが。
「「最低」」
そして、無神経に質問をしたということで、美咲のお父さんは美咲とお母さんに睨まれてしまうのだった。
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