第128話「幼女は強し」
「心愛どうしたの? ビックリしちゃった?」
俺は泣きだした心愛の背中を
美咲と美咲父が結構大きめの声を出して言い合いをしたので、それに驚いてしまったのかもしれない。
「ほら、お父さんが酷いから心愛ちゃん泣きだしちゃった……!」
心愛が泣きだしたことで、美咲は怒るように父親を見つめる。
それにより、美咲父は怯んでしまった。
意外と、幼女の涙には弱いのかもしれない。
「心愛、大丈夫だから、ね?」
とりあえず、心愛を泣きやまさないとカオスな状況になるので、俺はなんとか心愛を泣きやませようとする。
しかし、美咲と美咲父の言い合いが止まったにもかかわらず、心愛は泣きやむようすがなかった。
こうなってくると、どうなるかというと――
「あなた、何幼い子を泣かせているのかしら……?」
――家の中から、思わぬ援軍が出てきた。
美咲と笹川先生の面影があるので、おそらく美咲のお母さんだろう。
「い、いや、私は何も……!」
美咲の母親は美咲たちと同じで優しそうな雰囲気を纏っているのだけど、美咲の父親は先程よりも動揺しているように見える。
優しい人を怒らせると怖い、というのは知れ渡ったことなので、彼女も怒らせると怖いのだろう。
「いじわる……!」
そして、美咲のお母さんを見るなり、心愛は美咲のお父さんを指さして文句を言った。
これで完全に、悪者の出来上がりだ。
「お父さんが酷いこと言うから、心愛ちゃんが泣いちゃったの……!」
そして、それを好機と捉え、美咲が母親に父親のことを告げ口する。
確かに間違ってはいないのだけど、和解を望んでいる俺からしたら、状況は悪くなる一方だった。
もうこれ、本当に笹川先生の助けが必要なくらい、手に負えない状況になっていってるんだが……?
「幼い子を泣かすなんて、見損ないました。今晩、きっちりとお話をしましょうか?」
悪くなる一方の状況に困っていると、美咲のお母さんはなぜか急に敬語を使い始めた。
それは暗に、美咲のお父さんと距離を取ったことをほのめかしている気がする。
あまり考えたくはないが、離婚の危機というやつなのかもしれない。
「私は何も悪くないぞ……!?」
「言い訳は、後で聞きましょうか」
無実を訴える美咲のお父さんに対し、お母さんは聞く耳を持っていないようだ。
さすがに離婚まではならないと思うが、万が一ということもあるので、美咲に悪影響がないようここも間に入る必要がありそうだった。
「いえ、心愛は驚いただけですので……それよりも、中で話をさせて頂けないでしょうか……?」
現在幼女の泣き声により、近所の人たちが窓を開けたり家から出たりして、俺たちを見ている。
そのため、話が通じそうな美咲のお母さんへと、俺は訴えかけるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます