【17・パン】

 次の日、朝早くからリューリは忙しなく動いていた。ちくしょー…こっちは昨日の夜、散々な目に遭って今日は気分転換も兼ねて、のんびりしたいのに、騒がしい…。



「朝っぱらからなんだい?忙しないねぇ」


「ぁあ、ごめん、ごめん。昨日、寝る前に調理室に保管してある天然酵母の出来具合を見たら、そろそろいい感じだったんだ。だから、今日はパン作り! ブラックサーペントは直ぐに行かないだろ?」


「そうさねぇ……今は気分乗らないから、行かないしパン作りするんだろう?明後日辺りに、気分次第じゃ行くかもねぇ」



 立ち上がると伸びをして、私は少し考えた。確かパンは酵母菌で膨らませるのに時間かかるし、何より上手く行くかも分からない。


 まぁ、前世がパン屋のリューリならなんとかしちゃいそうだから、食べるの楽しみになってきた。


 ん?アレがあった方が良くない?てか、必要でしょ。



「ねぇ……気になったんだけど、バターはあるのかい?」


「……あ」


「はぁー……」



 本当に前世はパン屋だったんだよね? 一気に心配になってきた。



「いやいや、バター、牛乳、卵。 これらを入れないパンにすればいいんだよ。味はシンプルになるけど、サンドイッチとかにも使えるしね!」


「へぇー…そんなパンあるんだねぇー…よく、知らないけど、美味しいのを期待してるさ」


「任せて!」



 前世にパン作りなどした事ないから、詳しくは知らないけど、パンの事はパン屋に任せるか。




 ♢♢♢♢




 バターかぁ……。確かにあると便利。牛乳も欲しい。でも、無いなら無いなりに作ればいい。


 さて、作りに行きますか!



「これが、リーゴから出来た天然酵母だよ」



 調理室に着くと僕の為に、料理長のマスカさんが色々と準備している所だった。瓶詰めされたリーゴから気泡が出てて頃合もいい。それを持ってアリアに見せると、匂いを嗅いで確かめ、念話でリンゴっぽいねと言ってくれた。



「……いい香りじゃないか」


「でしょ?んじゃ、さっそく作るんだけど、アリアは出ていこうか」


「え?なんでだい?」


「当たり前でしょ?食品を扱うんだから間違っても異物混入はダメだしね」


「結界を張って大人しくしてるから!」


「だーめ。 ほら、出てって」



 駄々を捏ねて居座ろうとするアリアの脇に手を入れて抱き上げるけど、お、重い。 しかも、デカい。


 逃げようとするアリアに、母さんとヘレンが呼んでたよ。と教えれば、抵抗を辞めてダラリとしてきた。まぁ、母さん達は呼んでないけどね?嘘も方便っていうしね。


 ち、力を抜かれると余計重く感じるんだけどっ!


 何とかアリアを追い出すことに成功したけど、疲れた……。



「き、気を取り直して始めるか!」



 作る予定なのは、丸パン。此処に転生してから初めて作るから試行錯誤したいから簡単な物にした。


 計量カップも無いから目分量になるし、オーブンも魔石をコンロに付けた物だから加減が難しい。捏ねたり、焼くのはマスカさんに協力してもらい、作業を始めた。



「坊ちゃん、その天然酵母?を入れたら寝かせるのですか?」


「そうだよ。こうして、混ぜて形をある程度作ったら発酵させるんだ。そうすることで、酵母が働いてしばらく待つと膨らむんだよ」


「へぇ。何時もならもう成形に入ってますよ」


「美味しく柔らかいパンには酵母が欠かせないんだ」



 ボウルで成形した生地に布巾を被せて寝かせる。せめて、2倍ぐらいには膨らんでて欲しいなぁ……。


 ただ、待つのも勿体ないので、その間にリーゴを使ったジャムを作ったり、前もって作り置きしといたリーゴとブドウをドライフルーツにした物も用意したり、昼食の準備の手伝いもした。


 そうしながら待って様子を見ると、見事に膨らんでいる。思わずガッツポーズをして喜んでいると、一緒にパンを見たマスカさんはすっごいびっくりしてた。



「ははっ! びっくりし過ぎだって! ささ、まだまだやることいっぱいあるよー?」


「す、すみません!料理人として知らなかったもので、恥ずかしいです。坊ちゃんには私の知らない料理まで教えて貰ってるのにすみません……」


「謝らないで! マスカさんの料理も美味しいけど、たまたま本で読んで知ってたのを教えただけなんだし」



 嘘です。 前世での記憶を頼りに揚げ物は教えました。 ごめんね? これからも少しずつ教えるから覚悟してね?


 そして、膨らんだ生地の一部を手のひらサイズに切り分け成形。 この時にドライフルーツを混ぜた物も作った。



「さて、これからまた、発酵させます!」


「え?!また、ですか?!」



「うん、二次発酵って言ってね?さっきのは元ダネを作る一次発酵。 成形したらまた、生地を少し休ませてから焼くんだ!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る