【16・タダイマ】
「父さん!母さん!ただいま!」
「ただいまー!」
私が玄関前に止まると、2人とも飛び降りて急いで中に入って行ったけど、そんなに走ると怒られるよ? と思いながら小さくなって、後を追いかけようとしたら、私の前にメイドさんが立ちはだかった。
「おかえりなさいませ。 アリア様、お足と毛並みを整えましょ?」
「え"っ? い、いや、私は魔法でどうとでもなるからって、ち、ちょいとその手に持ってるのはなんだいっ?!」
笑顔で迫ってくるメイドさんに私は攻撃する訳も行かないので、ジリジリと後ずさりをしてどうするか考えた。
「コレはブラシと拭く為の布です。大丈夫です! 私が責任もって手入れをさせていただきますから!」
「何か楽しそうにしてないかい?!ちっ!おやめ!引っ掻くよ!」
手を伸ばしてきたが、それを避けて隙間を縫って逃げるのに成功した!……と、思った時が私にもあった。
えぇ、捕まりましたとも! シェリンダおばあちゃんにねっ!なに、あの動きっ! 見てるだけかと思って、メイドさんから逃げて避難しようとしたら、ガシッ!と後ろから気配なく首元をいきなり掴まれ、驚いて後ろを見上げると笑顔のシェリンダおばあちゃん。
……こわっ!! 気配無かったよっ?!しかも、なんか、逆らってはいけない見えない圧も感じたんだけどっ?!
「アリア様、せっかく綺麗な毛並みをしているのですから勿体ないですよ? 悪いようにはなりませんから、任せてあげて下さい。 それから、随分と面白い体験を孫達にさせたみたいですねぇ? 詳しく教えてください?」
「………は、はい」
後半のそっちが本音じゃん! リューリ! アンタのばあちゃん、怖すぎー!
そうして、私は浴室へとメイドさんに抱っこされ連行されていったのだった。
♢♢♢
アリアが着いて来ない事を不思議に思いながらも僕は、ヘレンを連れて父の執務室へと走った。
「はぁっ、はぁっ、はぁっー…。ヘレン、大丈夫?」
「はぁっ、うんっ、だ、大丈夫っ……」
僕達は荒い呼吸を整えるとドアをノックした。すると、中から入っていいと父の声で返事があると、中に入り、挨拶をすると、珍しく母さんとおばあちゃんも居た。
「2人ともおかえりなさい。従魔登録ついでに任務でも行ったのかしら?」
母さんに聞かれて頷くと僕はマジックボックスから冒険者ギルドでもらった報酬を机に置いた。
「これ!今回の報酬!金貨50枚!」
「私もお手伝いしたの!」
「「き、金貨50枚?!」」
「おや、大金だねぇ。依頼内容は何だったの?」
両親は驚いて、おばあちゃんは驚きはしたものの、直ぐに冷静になって内容を聞いてきた。
僕達は代わる代わる今日の出来事を報告すると、話を聞いたおばあちゃんは静かに部屋を出ていき、父さんは乾いた笑い声をあげて、母さんは面白そうにヘレンの話を聴きながら頭を撫でていた。
おばあちゃん、何処に行ったんだろう?(※注、アリアを捕まえにいきました。)
「しかし……ブラックサーペントか。久しぶりに聞いたな。あまりいい思い出は無いけど、大変だったなぁ……」
「えぇ……。でも、フェアリアルキャットのアリア様ならきっと大丈夫よ」
やっぱり、両親にとっては苦い記憶らしい。それなのに、主人だからっと僕も行かなきゃならないなんて……。
「リューリ。 きちんと準備をして、念の為に少し多めに毒消しは持っていくんだ」
「ヘレン、貴女はお留守番よ?」
「ぇえー?! 私も行きたい!」
「今回はダメだ。母さんの言う通りにしなさい。本当だったら、リューリも危険すぎてダメなんだが、アリア殿との従魔契約上、行かなくてはならないだけなんだ」
そうなんだよ。僕だって行きたくない。出来れば、家で留守番していたい。なのに、アリアが当然とばかり僕を連れて行くって言うし……。
「緊急では無いんだろ?何時行くんだ?」
「あー……2、3日後かな……。天然酵母の様子次第によるよ」
「アレか……。本当にあれでパンを焼くと変わるのか?」
「変わる!今より絶対、美味しくなるから!」
天然酵母。それが、あるだけで劇的にパンは変わる。順調に育ってるから無駄にしたくない。父さんが不審がるのも分かるけど、出来上がったパンを食べればわかるはず。
あの時、リンゴに似た果物。 リーゴを見つけた僕は天然酵母を閃いた。 パン屋として、今のパンは勿体ない! なにが、悲しくてあんな硬くモサモサ、パサパサのパンを食べなきゃならないんだ。
「父さん達も食べた事ないパンを作るからね!」
明日辺りには出来上がるだろう天然酵母に思いを馳せて、父さん達に断言した。
蛇狩りは気が重いけど、うん、今だけでも忘れさせて?
あ、ちなみに今回の報酬の内金貨10枚が僕のお小遣いになった。ヘレンは5枚。中々の大金。やったーー!!
僕達が家族で話をしている間もアリアは戻って来なかったけど、後で聞いた話では、ブラッシングと丸洗いされたって。だから、こんなに毛並みがサラサラツヤツヤなんだね。
その石鹸も僕が作った事はメイドさんから聞いたらしく。この香りはアリアは気に入った。と喜んでた。
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