【10・ハンメイ】

「ぁあー!!もう、いい加減離しなって!!」


「あだっ!へぶっ!」



 リューリの締め付けに耐え兼ねて、私は思いっきり秘技・猫パンチを繰り出しなんとか抜け出し、警戒するように離れた。



「痛たたっ……な、何するのさ……」



 鼻を抑え痛みに耐えながら、涙目で文句を言ってくるが、そんなの知るか。あー、痛かった。



「ったく……。冗談じゃない。言っとくけど、私も確かに転生だ。いや、もっと細かく言えば憑依かねぇ」


「……異世界転生仲間だ」


「そうさ。まぁ、違う次元、違う世界、つまり異世界に来ちまってる時点で転生だろうが憑依だろうが、大差ないけどねぇ」



 毛ずくろいをしながらそう言っては、急に黙り込んだリューリを見上げた。



「どうしたんだい?」


「……僕達って元の世界に戻れるの?」


「……難しい問題だね。生きたままこちらの世界に転移っていうなら可能性はあるかもだけど、お互い死んでるからねぇ。たぶん、戻れないよ」


「そっか……。夢じゃなくて、これが今の僕達の現実なんだ」


「そういう事。ま、第二の人生ってやつだ。アンタ、入院は長かったのかい?」


「んー……2年ぐらいかな。たまに外泊って事で自宅に戻ったりしてたけど、最後の方はほとんど寝たきりだったのを覚えてる。一応、成人しててパン職人だったんだよ?」


「なるほどねぇ…。じゃぁ、健康な身体でこの世界に転生出来て良かったじゃないか」


「うん……。でも、未練が無かったといえば嘘になるけど、この世界の家族が今はとっても大切だし、毎日やりがいはあるね」



 中々苦労してきたっぽいリューリの前世。まぁ、私も未練はあるといえばあるけど、こうなってしまった以上、どうしようもない。


 ならば、やっぱりせっかくの異世界なんだから楽しまないとね!



「そうかい。そりゃ、良かった。私もせっかくの異世界なんだから色々と楽しむつもりさ。……人外だけどね」


「あははっ!確かに君の言う通りだ!僕も楽しむよ!」



 明るく笑うリューリ。うん、しょぼくれたり悲しんでるよりは全然いい。


 やっぱり、何だかんだで笑ってる方が私はいいしね。イケショタが勿体ない。



「えっと……アリアって呼んでいいんだよね?」


「なんだい、今更。あの時、名付けたんだからそれが私の名前だ。……そうそう、言っとくけど、前世に関する知識はお互い違うだろうけど、その話は誰にもするんじゃないよ?」


「そっか。そうだよね。もちろん、わかってるよ?」


「……心配だねぇ。アンタは顔に出やすいんだ。もし、誰にも聞かれたくない話なら〈念話〉を使うんだよ?」


「念話?」


「従魔契約を結んだ者同士は使えるもんさ。まぁ、種族や力によるけどね」


「へぇー…アリアは物知りだね」


「ふん……フェアリアルキャットとしての知識さ」



 嘘です。ごめんなさい。前世の知識も少しあります。



「あと……ステータスチェックもしときな」


「……ステータス?」


「見ればわかる。私は出来たからたぶん、アンタも出来るかもって話さ」


「……なるほど」



 これは、わかってないな。まぁ、これは本当にもしかしたらって感じだし、見れなきゃ見れないでしょうがないか。


 そんな感じで、色々と話しながら夜は更けていったのだった。

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