【9・ツイキュウ】

「ほら、帰るよー」



 リューリに声をかけられゼルバ、リカルドと共に騎士爵邸へと付いて行くと、立派で大きな家が見えてきた。他の貴族とかの家がどんな物かは知らないけど、充分大きく見える。



「色々あったけど、今日から家族の一員としてよろしく。アリア」


「……私の主人になったんだ。つまらない人間にはなるんじゃないよ?リューリ」


「私からも改めて息子をよろしくお願いします。あ、アリア殿」


「リカルド、アンタはさっさとその名を呼び慣れな」


「ハハッ……頑張ります」


「がはははっ!リカルドは堅いのぉ!アリア殿、また、儂もお前さんの背に乗せて欲しいんじゃが…」


「仕方ないねぇ……」



 口々に話しながら家に入ると、出迎えたのはリューリと同じハチミツ色の長い髪をした優しそうな女性とグレーヘアをしっかりと纏めつつもおっとりとした雰囲気のおばさん。うん、リューリの母親とおばあちゃんだね。



「皆、おかえりなさい。リューリとゼルバ様は無事で良かったわ」


「ただいま、母さん。心配かけて、ごめんなさい」


「いいのよ。怪我なく無事なら、それでいいの」



 リューリは母親であるイリスに抱き着くと、イリスは優しく抱きとめ頭を撫でた。



「遅くなってすまんな。」


「ふふっ、大丈夫ですよ。貴方ならちゃんと帰ってくるって信じてましたから」



 ゼルバも妻であるシェリンダに謝ると苦笑いを浮かべたのだった。



「あ!母さん、おばあちゃん、この子は新しい家族のフェアリアルキャットのアリア。僕のじゅ、従魔になりました」


「貴女が………。お初にお目にかかります。リューリの母。イリスでございます。この度は、息子がお世話なりました。ありがとうございます。」


「私からも夫、ゼルバがお世話なりました。ありがとうございます。妻のシェリンダでございます」



 イリス、シェリンダの2人はリューリから私を紹介をされると私の方を向いて恭しく挨拶をしてきた。



「随分と丁寧な挨拶だねぇ。私が恐くないのかい?」


「ふふっ…。これでも、元は夫と共に冒険者をしていましたし、先に使用人が貴女の事を知らせてくれましたから。それになりより、息子の恩人。恩を感じるだけです」


「私もイリスちゃんと同じ気持ちですよ。それに、孫のリューリの従魔になられたのですから余計です」



 2人はそう言ってそれぞれ笑みを浮かべたのだった。


 随分と肝の座ったご婦人方だよ。そう言われれば、こちらも悪い気はしないので、リューリの事は任せろと言って挨拶をした。



「母さん、ヘレンは?」


「流石にもう遅いから先に寝かせたわ。貴方達が帰るまで起きてると言っていたけどね」


「そっか……。悪い事しちゃったね」


「ヘレン?誰だいその子は……」


「可愛い、妹だよ!明日、紹介するね!」


「はいはい。それより、私はそろそろ寝たいんだが、リューリ。アンタの部屋はどこだい?」



 妹自慢が始まりそうな予感がして、前世の記憶にシスコンがいたのを思い出すと、サクッと話を切り上げた。



「へ?え、えっと…こっちだよ」


「そうかい。なら、私を案内したらアンタは食事でも風呂とかいうのでも済ませるんだねぇ」


「ヘレンの事聞きたくないの?」


「そんなの明日、本人を見ればいいだろう?」


「で、でもさ……っ」


「しつこいねぇ……。話始めたら止まらないだろ?………いいから、さっさと案内しな」



 私の勘は当たっていたようで、妹自慢を始めようとしてたらしく、話の出鼻をくじかれしょぼくれたリューリを追い抜いた。


 そんな、私達のやり取りに大人達は呆れたり、苦笑いをしたり等、様々な反応をしていた。





 ♢♢♢




 案内された部屋の片隅で丸まりながら、家族の団欒の会話をBGMに今後の事に考えを巡らしていた。


 それは、リューリが転生者かどうかの確認だ。まぁ、所々、ボロが出てるから突っつけば簡単にゲロると思うけどって……いっけね、言葉が悪いよね。



「……本人に直接聞きますか」



 暫くして、微睡んでいたところリューリが帰ってきた。



「アリア……寝ちゃった?」


「……起きてるよ。なんだい?」


「えと……母さんが食べてくださいって。一応、猫にダメそうな物は避けたけど……」


「へぇー…猫とかいうのは食べられない物でもあるのかい?」


「確か、玉ねぎとかチョコとかダメだったはず……あと、人と同じ味付けにしない方がいいとか?」


「よくそんな事知ってるねぇ。長い事生きてるけど、猫なんて魔獣は見た事も聞いた事もないけど?」



 気を抜いているのか今までより更にボロを出すリューリ。チョコなんてこの世界にないのに言っちゃったよ。



「え?!そ、それは……ほ、本!本を読んだんだ!」


「…………そうかい。って私が簡単に騙されると思ったかい?アンタ、〈転生者〉だろ?簡単に言えば、前世の記憶を持って生まれてきた。違うかい?」



 あまり、長引かせるのも面倒なので、出された食事を食べながら直球で聞いた。



「な、何を言ってるの?」


「とぼけなくてもいいさ。イースト菌やら、チョコなんてこの世界には無いはずだよ〈天然酵母〉はやってみたのかい?それがあれば、パンは作れる。チョコを作るならカカオ豆が必要だ。探せば似たような物はあるかもねぇ」


「天然酵母は今、実験中。たぶん、あと2日くらいで使えるかも。〈魔素の森〉ならある可能性が……。ん?そ、それを知ってるって事は、アリアも転生してきたの?!」


「うぉっ?!ち、ちょいと落ち着きなって!!」



 私が天然酵母の話をしたら、いきなり、私を抱き上げてきた。怖いから止めてよっ!



「離しなって!こらっ!」


「ぼ、僕一人じゃ無かったんだー!うぅっ…病院で入院してたと思ったら赤ちゃんになってるわ周りは知らない人だらけだしっ……食べ物だって違い過ぎるし、文明もっ……」


「わ、わかったから降ろしてって!く、首が締まる締まるっ!出ちゃいけない物が出ちゃうってっ!」

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