【11・ショクジとギルド】


 朝になり身支度を整えたリューリと共に食堂へと行くと、そこは既に家族全員が揃っていた。


 聞けば、使用人はメイド、執事、庭師、料理人を合わせて10人ほどはいるらしいが、必要最低限に留めて出来る事は自分でしているみたい。


 元々は冒険者で爵位があるとしても騎士爵。贅沢どころかいつもギリギリの生活。


 だから、食材を求めて〈魔素の森〉に狩りに行ったりしてるんだって。



「おはよう、リューリ。今日は冒険者ギルドに行くんだろ?」


「父さん、おはよう。うん。アリアの従魔登録してくる」


「お兄ちゃん、その子が魔獣のアリアなの?」


「うん、昨日から従魔になったんだ。……アリア、妹のヘレンだよ」



 リューリの座る椅子の足元で丸まっていた私に視線を向けながら妹が聞いてくるので、リューリはそう答えると私を見て紹介をしてきた。



「よろしくね、お嬢ちゃん。 私はフェアリアルキャットのアリアだ」


「しゃ、喋った!凄い、凄い!ねぇ!アリア、私とお友達になってくれる?」


「なんだい、私と友達に? 変な子だねぇ。 まぁ、構わないさね」


「変じゃないわ! ねぇ、お兄ちゃん、私、アリアと友達なりたい。ダメ?」


「うーん……。今はこのサイズで可愛いかもだけど、本当はすっごく大きくて恐いよ?」



「そうなの? それは、ぜひ見てみたい!」


「2人とも食事の時間よ?後は、食べ終わってからにしなさい」



 母親であるイリスの言葉にそれぞれ返事をしては食事が始まった。


 私はというとイリスちゃんが友達になりたいという事に戸惑いつつも、今は目の前の生肉をどうすべきか悩んだ。 いやね?フェアリアルキャットとしてなら平気だけど、私という元人間としての矜恃というか精神的にはさ……。


 というわけで、さっそくリューリに念話だ。 何気に初めてなので、上手く出来るかはドキドキだけど。


《リューリ。私、生肉は食べられないから後で焼いておくれ》


 あ、食べてるのにびっくりして動揺してる。 通じたみたいで一安心だ。


《……え?フェアリアルキャットなのに?》


《前なら食べてるだろうけど、私という人間的にね》


《あー……なるほど。わかった》


 動揺していたリューリも少しして慣れたのか普通に会話してきた。


 そして、念話を切ると私は生肉に手を出さず、大人しく家族全員が食事を終えるのを待った。



「アリア殿。体調でも悪いのですか?」



 食べない私に気付いたリカルドが心配そうに私を見たが、私は首を振り食べる気がないだけと言って食堂を後にした。


 正直に言うとお腹空いたーー!!でも、生肉は無理。はよ、さっきの肉を焼いて持ってきてー!リューリくーん!


 部屋で不貞腐れながらリューリを待っていると焼けた肉の匂いと共に足音。待ちきれず、部屋の扉で待機。



「持って来たよーって、うわぁっ!び、びっくりしたぁー…」


「はよ!肉!」


「わ、わかったから!ち、ちょっと待ってって!」



 待ちに待った食事という事もあり、置かれた瞬間、かぶりついた。う、うまぁー…。



「まったく……シェフが顔を青くしてたよ? 何か粗相でもしたのかって。だから、理由を話して僕がシェフに美味い肉の焼き方を教えてきたから今度はそれで食べてね?」


「そりゃ、悪いことしたねぇ。後で、何か獲物(魔物)でも、狩ってくるさ」


「それはいいかも! さて、アリア。従魔登録をしに冒険者ギルドに行こうか!」



 用意された肉をペロりとたいらげるとリューリと妹のヘレンちゃんと一緒に冒険者ギルドへと向かった。




 ♢♢♢♢




「ねぇ……本当にその姿で行くの?」


「ふん。あの姿を維持するのも疲れるんだよ」


「アリア、おっきい!」



 冒険者ギルドに向かう私たちを街の人達はざわめきと驚きで道を開けていく。


 リューリは家に居た時と同じように小さいままで行って欲しいようだが、私は元のサイズに戻り拒否をした。ヘレンちゃん、そんなキラキラした目で見ないで。恥ずかしいから。


 スキル《変身》でサイズを変えられるが、維持にも魔力を使うし、なにより窮屈なのよ。せっかく街を歩いてるんだから、元のサイズに戻ってもいいじゃん。


 見えてきた冒険者ギルドに少し感動しつつ期待に胸を高鳴らせて元のサイズより小さめなライオンサイズになり室内に入った。


 室内は私たちを好機の目で見てくる幾つもの視線があるが、異世界転生といえば!といういかにもな室内に内心感動していた。


 リューリに着いて行くと、リューリはギルドカード胸元から取り出し、窓口のおばちゃんと話し合いを始めた。



「あら!リューリ坊ちゃん!昨日は大変だったねぇ。怪我は無いかい?」


「うん!大丈夫。昨日はごめんなさい」


「いいんだよ。ギルドマスターを今、呼んでくるね?……それで、その、彼処に居るのは本物のフェアリアルキャット?」


「ぁ、あー……本物のフェアリアルキャットです。」


「…………大変だろうけど、頑張んな!」



 お約束の美人か可愛い系、もしくは獣人かエルフの女性かと思っていたのに、普通のおばちゃんだったのは、残念過ぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る