【4・ハナシアイ】
「…… なるほどの。それで合点がいった。フェアリアルキャット様が居たからか」
「お、おじいちゃん?に、逃げないの?」
リューリが怯えながらもこちらを警戒したまま問いかけるが、おじさんは何かに気付いたのかしきりに1人で頷くとリューリの頭を撫でて、落ち着かせた。
「リューリよ。 最近、この森の魔物共の特に凶暴と言われる奴らが姿をほとんど見せないのは分かっておろう?」
「へ? いきなりなにさ?…… そりゃあまぁ、わかっていたよ? その代わりに、比較的大人しい魔物がチラホラと見えるぐらい。でも、食材になりそうな奴らだからあまり気にして無かったけど……」
「そうじゃろな。狩猟するにもこの森はうってつけじゃが、危険な魔物はわんさかおるはず。なのに、姿が見えない」
「ぁっ!…… もしかして! フェアリアルキャットが居るからか!」
ん? なんか、2人で盛り上がってるけど、私、何かした?
しかも、おじさんは私の事を「様」って呼んだよ。何かが分かったのか、リューリは警戒を解いて私を尊敬するように見てきた。
「フェアリアルキャット様、少し聞きたいのじゃが、良いかの?」
おじさんが見上げてきたので、私は頷くと座り伏せをした。
「ふん…… どうせ、雨で身動きとれないし、暇つぶしぐらいにはなるだろうね?」
「がはははっ! そうなると思いますよ。いやなに、聞きたい事というのは、この森にいつ頃から居られたのですか?」
「…… そうねぇ、6回はこの洞窟で寝たのを覚えてるよ?」
「ふむ…… そうなると1週間ぐらい前からですな。何故、この森に?」
「何故って? そんな事、私の勝手だろう? まぁ、理由なんて簡単なものさ。気が向いたからだよ。それが、なんだい?」
このおじさんと会話していると、視界の片隅で安心したのか少し離れて、リューリ少年が座り込み何かを準備し始めた。
「実はですな、儂らはこの森を出て隣接する領土を治めるライヘン騎士爵の身内の者じゃ。儂の名はゼルバ・ライヘン。此奴は孫のリューリ・ライヘンじゃ。」
「それがなんだい? 人間の貴族? だったかね。 それが私になんの関係がある?さっさと本題に入りな」
「ふむ……。 ここ1週間ぐらい前から森の様子が変わりましてな? 儂ら人間にとっては凶暴とされる連中が徐々に姿を消した。 それこそこうして、奥地にでも来ない限り比較的、安全な森となってきたのじゃ。それまでは、入り口付近でも冒険者たちでなければ、危険とされておったのに……。」
森の奥地? 此処が? 記憶ではまだまだ森は深く、此処は狩場にちょうどいい獲物(魔物)が居るくらい。そんなに危険とは思えないけど……?
それよりリューリ少年よ、お腹でも空いたの?パンを食べ始めたけど、美味しくなさそうね。
「それが、私に何の関係があるんだい?」
「関係大ありじゃ! フェアリアルキャット様のような強者が居るから、幅を効かせていた凶暴な連中が大人しくなり奥地に引っ込んだからの! いやぁー… 有難い限りじゃ」
「知らないねぇ… 私は自分の腹を満たす為に、向かって来た連中を、片っ端から狩っただけさ」
「がはははっ! フェアリアルキャット様からすれば、ここら辺の奴らはただの食事か! 流石じゃわい!」
おじさん、いや、ゼルバさんは丁寧に説明してくれては快活に笑った。
イケおじは笑ってもかっこいい!
「ふん、当たり前じゃないか。……… それよりも、坊や、ソレは美味いのかい?」
「ふへぇ?! このパン? うーん、固くてモサモサしてるからあまり美味しくはないよ。 もっとふわふわで柔らかかったら良かったけど、仕方ないかなー。」
イースト菌とか無いし…… と小さく呟くリューリ。
…… やっぱり、美味しくないんだ…… って、は? なぜ、イースト菌を知ってるの? 気になったので、突っ込むとリューリは慌て出した。
「イースト菌? それはなんだい?」
「へ?! い、いや、あのっ、い、イースト菌というのは、その、ぱ、パンを柔らかくする酵母の1つでっ!」
「ぶはははっ! 動揺し過ぎじゃ! もの知りな孫じゃのぉ!」
……… この子、もしかしたらだけど、「転生者」かも。私の勘がそう働いた。
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